ボッチ98 ボッチとダンジョン
旧大晦日(?)投稿です。
見事に燃え上がっている、訳でもないがあちらこちらから火と煙を上げる辺境の街グリーンフォート。
駆け寄ってみたが、意外と無事だった。
実際に燃えていたのは街の外の草木で、街からの火属性魔法で燃えていたらしい。
「もしかして、これも実は日常だとか?」
「村の人達でもあれだけ戦えたのですから、城塞都市の戦闘を生業とする方々はもっと強い筈ですし、その可能性は高そうですね」
「確かに、村の人よりも冒険者とか兵士の方が強いに決まっていますね」
城壁もところどころ崩れかけているが、相当厚いようで突破されてはいない。
城壁の外は荒れているが、中に被害があるようには見えない。
やはり、これは辺境の日常なのだろう。
しかし困った事に、魔物が多いせいで門は堅く閉ざされている。
俺達が来た側は特に魔物が多いようで、門が見えないほど魔物が密集し、門を開けてくれそうにない。
そもそも、門が開く開かない以前に、あんなに攻撃が飛び交っている所に行っては確実に流れ弾に当たる。
と言う事で、迂回する事にした。
流石に街である以上、ちゃんとした入口がどこかしらにあるだろう。
常に襲われているような場所なら、それを踏まえた入口がある筈だ。
トロールを倒しながらぐるりと進んで行き、ちょうど門の近くに来たときに、バゴンと門が解き放たれた。
トロールが雪崩込んで行くが、そんな事を気にせずに俺達を中に入れてくれるらしい。
まさかの入り方だ。
それだけ、街の人も強いと言う事だろう。
トロールを倒しながら街へと入る。
門番の確認とかはないのだろうか。
おっ、それらしい兵士達がいた。
息も絶え絶えで血の海で倒れている……。
「「“エクストラヒール”っ!!」」
大慌てで俺と女神様は倒れている人達に回復魔法をかける。
ホルスとアイギスも回復魔法が使えるらしく、治療を手伝ってくれた。
全然、無事じゃなかった……。
兵士や冒険者の気配以外、街には無かった。
人の気配がするのは街の中央、丘の上の砦。
戦える者以外はみんな避難しているらしい。
城壁が守り抜いて無事だと思っていた内部も、トロールの投げる岩が降り注ぎ、城壁の周囲はかなりの惨状だ。
戦える人員も、かなり分散していた。
外から見ると無事だった壁も、内部から見れば危険な状態だ。どこもかしこも定期的に砂埃が吹き出ており、少しずつ石材が中にズレている。
どの面からも突破されてしまう可能性がある為に、城壁上に散らばって守っているらしい。
全体的な戦闘員の数は多そうだが、街の全面を守るには足りていなかった。
門が突破されてしまったのに、動きが遅過ぎる。
どこも逼迫しており、駆け付けたくてもすぐには出来ないようだ。
「か、感謝する」
起き上がれるようになった兵士の一人が、笛を吹いた。
甲高い音が街中に響き渡る。
そして城壁から戦士達が建物の屋根の上へと撤退して行く。前線を下げるらしい。
下がってから間を置かずに他の門も吹っ飛ぶ。
やはり、どこも限界だったようだ。
開いた入口から次々とトロールが侵入する。
引いた戦士達は屋根の上から攻撃。
道はどこも狭く、多くても二体しか通れないところを一体一体確実に倒してゆく。
しかしトロールの再生能力は、一撃で倒していた俺達には分からなかったがかなり手強いらしく、倒すまでに何歩も進まれてしまっている。
急所に当たらなければ殆どが効いておらず、少しずつ弱らせ倒すと言う戦法が通用していない。多少の傷は簡単に塞がり、鬱陶しいと感じているような素振りしか見せなかった。
トロールは一箇所に深く傷を与えなければ倒せない相手らしい。
ただ、狭い道に誘い込むという戦略は有効的だった。
狭い道をトロールが自分が前に前にに進もうとトロール同士で阻害し合って、まともに動けなくなっている。
倒し難さは殆ど変わらないが、被害を及ぼす驚異としては数段弱化していた。
そして四つの門から続く道の数は、トロール相手に余裕を持って戦える戦力が存在していた。
トロールの数の力に負けない限りは勝てそうだ。
しかし、勝てそうだからと言って座視は出来ない。
街の人の消耗の方が早い可能性も十分考えられる。
「中は一対一で勝てていますし、俺達が手伝っても一対一で勝つ要員の一人にしかなれませんから、外のトロールの数を減らして援護しましょう」
「それが有効そうですね。ではそれぞれ別の門の近くに向い、トロールを減らしましょう」
俺達は入って来た門から外に出ると、それぞれの門の付近に散らばった。
人里の近くの地形を変える訳にはいかないので、俺は剣と風魔法の斬撃を駆使してトロールを真っ二つにし続ける。
北では空から光の槍が降り注ぎ、東は炎の嵐、西は雷が轟いている。
それぞれ女神様、ホルス、アイギスだ。
俺達は街を中心に殲滅範囲を広げて征く。
ただ進む中で南の光が消え、次に炎と雷も止んだ。
どうやら、敵はこちら側、北に集中していたらしい。
北のどこかに巣でもあったのだろうか。
進むにつれてトロールのいる範囲が縮まった。
しかし全体的な数は大差無く、密度が濃くなってゆく。
やはりトロールの巣のようなものがあるらしい。
「この密度、トロールの出処はダンジョンかも知れません」
合流した女神様がそう推測をする。
「亡骸の遺らない魔物がダンジョンに多いなら、その可能性は高そうですね」
「それだけではありません。単に付近に生息していたのなら、もう少し広範囲からトロールが出て来る筈です。仮に群れであるとしても、あの巨体では狭い範囲で暮らせません。しかしここのトロールは一箇所からやって来たように見えます」
トロールが迫って来るのは森から。
比較的平坦な森だ。
途中、一歩道になる様な地形には見えないし、女神様の言う通り、出現場所と自然の生息域とが重ならない気がする。
トロールを倒し続けながら進み続けるが、前からしかトロールは来なかった。
分布に広がりが全く無い。
そして想像していなかった光景に出くわした。
トロールの発生源。
それは実在した。
見かけは根だけの巨木。
巨大なうろがポッカリと空いたそこから、次々とトロールが生まれていた。
まるで粘土で出来た木から粘土を取り、トロールに成形しているかのように、木の壁が膨らむように歪み、少しずつトロールの形となり、色が変わり木から分離する頃には完全なトロールが生まれていた。
うろの中心には禍々しい膨大な魔力を内包する水晶球の様なものが浮遊している。
魔力の繋がりからすると、木が魔物を生み出すのでは無く、水晶球が生み出しているようだ。
「これは…、やはりダンジョンのようですね」
「これが迷宮ですか? 見かけはただの木の穴ですけど?」
「鑑定でもダンジョンであると出てきます。私もこのようなダンジョンは聞いた事も有りませんが、間違いありません」
俺も鑑定してみる。
名称:未定
分類:ダンジョン
確かにダンジョンだ。
しかしそれ以上の情報は俺の鑑定では出てこない。
「……鑑定が妨害されていますね」
女神様もダンジョンだと言う事くらいしか分からないらしい。
「ダンジョンコアが本能的にそうしている可能性も有りますが、作為的なものを感じます」
「誰かが人為的にトロールを生み出して暴れさせたと?」
「ええ、鑑定妨害以外にも、まず階層どころか部屋が最小限なのが不自然ですし、規模が明らかに小さいのにこれだけの数のトロールを生み出しています。本来、ダンジョンの規模と魔物の質と量は比例しているそうですからこれは明らかな異常です。そしてダンジョンから魔物が溢れ出す事も有りますが、これは増え過ぎた魔物が外に出て行くだけです。こんなふうに過剰に魔物が生まれ続けるからではありません。自然現象とはとても思えません」
あくまでゲームとかの知識だが、ダンジョンの魔物はダンジョンを守り、ダンジョンに侵入した敵を倒して養分にする為の存在だ。
女神様も魔物が増え過ぎない限り外に溢れないと言っているし、ダンジョンが単に魔物の発生源とかであれば、初めから魔物を外に出す筈だ。それが無いという事は、この世界のダンジョンも内側に魔物がいる必要があるのだろう。
そしてここは街からそんなに離れてはいない。
こんなに膨大な魔力を発する水晶球があれば、必ず誰かが気が付き、ダンジョンだと知れば何かをしている筈。
しかしそれが無いという事は、多分出来たてほやほやだ。
ポンとトロールがこんなに湧き出るダンジョンが生まれるとは考え難い。
「止めるにはどうしたら?」
「ダンジョンコア、あの水晶球を破壊すれば止まる筈です」
「分かりました」
しかしダンジョンコアを破壊しようとすると、突如発せられる魔力が膨れ上がった。
木全体が歪み膨張する。
巨大な何かが、生まれようとしていた。




