ボッチ97 ボッチ、のんびりと街へ向う
村を飛び立って暫く、俺達はホルスの背から降りた。
目的地にであるグリーンフォートに着いたからでは無い。
進めなくなったからだ。
魔獣の密度が増し、ホルスの機動力なら避ける事も倒す事も簡単だったが乗り心地がジェットコースター並に悪化した。
落ちてもぶつかっても怪我はしないだろうが、ひやひやして乗っていられなかった。能力値が色々と上がってもそう言う感覚は変わらない。
と言う事で、迫る魔獣を倒しながら徒歩で移動中だ。
「急に多くなりましたね」
「この大陸は魔獣が普通の土地でもダンジョン並に多く強いそうですから、どちらかと言うと村の周りの魔獣が少なかったのかも知れませんね」
「ああ、強かったですからね」
どうやら、村の周囲は村の人達が駆除して魔獣がいなかった様だ。
この辺りは東西南北果ては上空まで、どの方向を見ても見える範囲だけで二十体は確実にいる。
全方面が見通しの良い平地でも草原でも無いのにだ。
実際、上空から見た時は軍隊の様な数がいた。
一体、村の人達はどれだけ駆除していたのだか……。
兎も角、進むには俺達も魔獣を倒し続けるしかない。
ついでにまだ手に入れていない食料、肉も獲得していこう。
この前の災害救助では魔獣が出たところもあったにはあったが、速さを優先して何も回収していなかったから、今が肉獲得の大チャンスだ。
加えて、これだけいるのなら狩り過ぎても問題無いあるまい。
「ホルス、アイギス、肉を回収したいからあまり傷付けないように倒してくれ! あと生肉の状態で手に入るように火力に気を付けて!」
俺は剣を片手に、風の刃を飛ばす。
相手は鼻の大きな三メートル程の巨人。
名称:トロールウォーリア
ランク:6
説明:武器の扱いに長けたトロール。木を引き抜く怪力に加え、武術をある程度身に付け非常に危険。再生力も通常のトロールよりも高い。
だそうだが、風の刃の一撃で真っ二つに両断され崩れると、色を失う様に石化し灰になって消えた。
「あれ? 肉は?」
灰すらも消えており、残るのは紫色の透明な石のみ。
「魔獣では無く魔物のようですね」
「魔物? 魔獣と魔物って違うんですか?」
「専門用語的には違うそうです。魔獣はこれまで戦ってきた様に、倒したら亡骸が遺ります。大雑把に言えば凶暴な動物です。一方、魔物は主にダンジョンに出現し、今回のトロールの様に倒せば魔石と一部のドロップアイテム以外は遺りません。魔物はダンジョン以外にも出現し、自然発生した存在であると考えられています」
光の刃を飛ばして魔物を斬りながら女神様が答える。
丸ごと遺れば魔獣、遺らなければ魔物と呼ぶらしい。
そしてこの世界にはファンタジーお馴染みのダンジョンも実在するようだ。
「自然発生した存在ってどういう事ですか?」
トロールを倒しながら質問を続ける。
「言い換えると、生物として親から生まれずに誕生した存在と言う事ですね」
「え? 魔物って親がいなくても生まれて来るんですか?」
「どの種類の魔獣でも自然発生するそうです。特にダンジョンでは一匹残らず殲滅しても次の日には魔物が闊歩しているらしいですよ」
ゲームの様に勝手に出て来るらしい。
恐怖だ。可能性としては、ある日突然目の前に現れるかも知れないのだから。
「いえ、理由は判明していないそうですが、人の近くには出現しないそうです。条件としては瘴気が、汚染された魔力が濃い必要があるようですね」
そう言われると、この辺は魔力が澱んでいる気がする。
属性とかがぐちゃぐちゃで、自然のものからかけ離れている。
瘴気が多いところほど魔物が発生しやすいと言うのは、現状証拠的に納得がいく。
「因みに、どんな感じに出現するんですか?」
「ダンジョンでは、地面や壁の中、場合によっては木などの中から現れるそうです」
この土地なら、もしかして誕生する瞬間を見れるかも知れない。
「何で倒したら消えるんですかね?」
「それは判明していないそうですね。一応、仮説としては自然発生した魔物は魔法に近く、魔物の命が尽きた時点でその魔法を維持できなくなるとか、他の仮説では魔物はこの世の存在出ない為、倒すと消えるなどと言われていますね。
答えは殆ど分かっていないそうです。そもそも、自然発生したのが魔物と言う説も、あくまでも仮説の域を出ていないそうですね」
そう話しながらトロールを討伐していると、やっと周囲からある程度トロールがいなくなった。
遺ったのは散らばる魔石とドロップアイテム。
「ゲームとかでは魔石ってお金になったりしますが、拾っておいた方が良いものですか?」
「ええ、魔石は魔道具を動かす動力源、電池の様なものとして利用されるので、魔獣の素材の中でも高値で取引されています」
「じゃあ、全部回収しましょうか」
商売する気も儲ける気も無いが、貧乏性の俺に使えるものを捨てておく選択肢は無い。
そんな事が出来るのなら、人里には出ず作物を死蔵する選択肢を採っている。
風を操作し全部手元に集める。
ついでにドロップアイテムも。
ここにいたのはトロールばかりだったからか、魔石は殆ど同じように見えたが、全く同じでは無かった。
魔物は自然発生する存在だとして、均一な存在と言う訳では無いらしい。
同じ種類のドロップアイテムでも個体差がある。
ただ、不思議な事にドロップアイテムが部位ごとに奇麗に別れていた。
ゲームではそんな事は当たり前だが、現実で起きると不思議だ。
単純に身体の一部だけが遺ったのなら、部位ではなく距離で遺るか遺らないかが決まる気がする。
しかし牙や爪とくっきり別れており、肉片も付いていない。肉のドロップアイテムなら骨も無ければ血抜きまでされていた。
そして魔石とドロップアイテム以外に当然のように散らばっていた金貨。
異世界は不思議な事が多い。
全てを回収すると、再び進むが、またすぐに魔物に囲まれた。凄い数だ。
災害救助で色々なところを回ったが、ここまで魔物が多いところは見たことが無い。
この大陸は本当に危険だ。
しかし俺達にとってはそうでも無い。
風の刃で今のところ全て一撃で倒せているし、女神様も光の刃を一太刀飛ばすだけで倒している。
ホルスが通り過ぎるだけで羽に斬られ、アイギスが隆起させた岩の槍で串刺し。
アイテム回収に最も労力を割いているくらいだ。
特に脅威は感じない。
進むスピードも普通に歩くスピードと変わらなかった。
そして何事も無かったかの様に進み、遂に街が見えて来た。
遠目にも立派な街で、相当高い壁に囲まれている。
城壁の中は中心部へ行くほど高い地形になっており、そこにも幾つかの城壁が築かれていた。
城のような街だ。城塞都市というやつだろう。
建物もどれも頑丈そうだ。
守りを重視して造られている事が良く分かる。
魔物の襲撃に備えるためだろう。
この土地の特徴がよく表れている。
そして何よりもの特徴として、燃えていた…………。




