ボッチ94 ボッチと襲撃を受ける村
お正月投稿です。
いつの間にか日も沈んでも宴は終わらない。
むしろ本番はこれからだと言うかのように、賑やかさは増している。
おそらく、村中の人が今、この広場で宴に参加しているだろう。
そんな中、そんな賑やかさを打ち消すように、森から地響きが突然鳴り響いた。
鳥が、明らかに魔獣と思われる怪鳥までもが一斉に飛び立つ。
何事かと音の方向を見るが、壁に阻まれ何も分からない。
そこで魔力で先を探る。
するとそこには、コウモリの様な羽を広げた爬虫類がいた。
全体的に細く、鱗も一見見えないほど細かいが、ドラゴンだ。
「あれは、ワイバーン…」
女神様も見たらしい。
「ワイバーン?」
「亜竜、劣化竜、ドラゴンの劣等種とされる魔獣です」
女神様の言葉を肯定する様に、村の人達も危険に気付き出す。
物見台に登った青年が告げる。
「魔獣だ! 黒いワイバーンが迫ってきてる!」
「黒いワイバーン? この辺りにそんな魔獣はおらん筈じゃぞ? 少なくとも儂は見た事も聞いた事も無い」
「爺さんも見たい事ない? 異常事態だ! 最大限警戒しろ! 皆武器を持って来い!」
まだ距離が有るが、ワイバーンは迫って来ていた。
「女が、アウラ様、ランクとかは?」
「壁の向こう側なので詳しい鑑定は出来ません。しかし名はデスワイバーン、ランクは7のようです」
ランク7、ホルスだって出会った頃はランク10、十分に勝てる相手だ。
正体を隠す。
そんなのどうでも良い。
この村の人達を見捨てるなんて選択肢は欠片も存在しない。
しかし女神様は浮かない顔をしている。
「大丈夫です。アウラ様、この村の人達は言い触らす様な人達ではありません」
「そんな事は分かっています。言い触らすとしても必ず助けるべきです。私が憂慮しているのはそこではありません」
村の人達と打ち解け、まあ俺は端でリオ爺さんの話を聞いていただけだが……、兎も角、もう村の人達の事は信頼している。
だから声も潜めずに話していた。
流石に女神様とは呼ばなかったが。
そしてその声は村の何人かに届き、女神様が何やら考えていた理由が分かった。
「ランク7? それはおかしい。通常種のワイバーンのランクが7だ。デスワイバーン、名前的に上位種なのに、ランクが同じ7なのはおかしい」
「ああ、地名が付くなら亜種として同ランクなのは分かるが、それは変だ」
鑑定結果がおかしかった様だ。
しかしそれもおかしい。
何と言っても、女神様が鑑定した結果だ。
それが失敗するなんて考え難い。
「考えられる事としては、鑑定結果を偽装するスキルを持っているんだろうよ」
「魔獣に自分のステータスを偽装する知恵があるとは考え難い。もしや、テイムされた魔獣か…」
なる程、一番の懸念点が分かった。
ステータスを隠す系のスキルはファンタジーでお馴染みだが、確かにモンスターはステータスを隠さない。
相当な知恵が有るか、人為的な手が及んでいない限り。
魔力で見ただけだが、ワイバーンに深い知性らしきものは感じない。
本能のままにこの村を襲おうとする獣そのものだ。
「ですが、何にしろ、アレを倒す以外に道は有りません」
「そうですね。全ては倒してから考えましょう」
考えても待ってはくれないワイバーン相手に、俺達は臨戦態勢に入る。
女神様も直々に戦うつもりらしい。
しかし、待ったがかかった。
「お客人、隠れなさい」
「子供達と一緒に地下へ避難を!」
こんな時まで俺達を気にかけ、しかも自分達よりも優先してくれるらしい。
ますますこの人達はなんとしても守らなければならない。
そんな時、爆発音が轟いた。
黒いワイバーンは、呆気なく地に伏している。
全身を斬られ突かれ、穴を空けられ所々燃えている。
無事、討伐に成功した。
「「…………」」
殺ったのは、俺達では無い。
村の皆さんだ。
村の皆さんは滅茶苦茶強かった。
実に見事だった。
まず大半の村人達による魔法の先制攻撃。
どう見ても普通の村人、腕は太くとも荒事ではなく畑仕事に従事している人のそれで、魔法使いには欠片も見えないのに、勇者軍並の、いや下手したらそれ以上の魔法が村の大半の人から放たれた。
そしてあっという間にワイバーンは爆炎に呑まれ、その断末魔は爆炎が消える前に消えた。
俺達は、啞然とする他ない。
勿論、どこぞかのトイレ将軍やドルオタみたいな力は無かったが、一人一人が本職の戦士、もしくはそれ以上に戦える。
驚愕するしか無かった。
「怪我はないかい?」
「驚かせてしまった様だね」
固まっている俺達に、ひと汗かいたと言うふうに額を拭うおばちゃん達が話しかけてきた。
この程度、何でもないといった様子だ。
「ここ、辺境だろう? 魔獣の襲撃なんてよくある事なのさ」
「流石にワイバーンくらいの魔獣は滅多に来ないけどね」
自分達の強さには何も言及しない。
この環境の中でいつの間にか強くなっていたのだろう。
何か、自分達の強さに気付いてもいない気がする。
俺達は、計らずもファンタジーでよくある当たり前の様に危険で、強さが当たり前になって気付いてもいない村に来ていた様だ。
まさか、そんな村に普通に訪れる事になるとは。
人を避ける為とは言え、辺境を選び過ぎたかも知れない。
男性陣はワイバーンの所に集まっている。
と言っても、ワイバーンはステータス偽装を警戒し、過剰に攻撃を加えてしまったのか、大部分が燃えてしまっている。
村中が煙たくなっているくらいだ。
何人かは咳き込んでいる。
ずっと固まっている訳にもいかないので、ワイバーンの方へ向う。
「何か分かりましたか?」
「いや、と言うか、本当に普通のワイバーンと同じくらいの強さだった」
「むしろ、こう見てみると痩せている様に見えるし、弱いくらいかも知れないな」
どうやら、全て俺達の早とちりだったらしい。
ピンチでも無かったし、誰かの襲撃でも無かった。
安心による脱力と、緊張の解けた脱力でどっと力が抜ける。
でも、本当に何事も無くて良かった。




