ボッチ92 ボッチ、村で作物を売る
お正月投稿です。
「あそこがこの村の広場じゃ。狭い村での、噂は勝手に広がって人が集まるから、品物を並べくとええ」
そう言っているそばから人が集まり出した。
「リオ爺さん、その人達は?」
「旅の神官方じゃ。作物の仕入れと販売に遥々来てくれたそうじゃ。
そうじゃ、自己紹介がまだだったのう。儂はこのようにリオ爺さんと呼ばれておる。お前さん方も気楽にリオ爺さんと呼んどくれ」
「私は修行中の神官、アウラと申します」
「俺はサフミです」
リオ爺さんに名前を聞かれたので、予め決めておいたそれっぽい縮めた名前を言う。
尚、対人には自信がないので、初めから超演技状態だ。人の良い神官らしい笑顔を浮かべ、柔らかく話す。
「えっと、荷物はどこに?」
「アイテムボックスの中に。ですので、新鮮なお野菜を提供させていただきます」
「ほう、それは有り難いの。この付近には街が一つしか無くてな。万が一、街道が災害などで封鎖された時、死活問題になるから保存の効く穀物を中心に栽培しとるんじゃ。他の村へ行くには遠く、日持ちせん野菜果物は滅多に入ってこん。じゃから、新鮮な野菜は有り難いの」
見渡すと、確かに植えられているのは大部分が麦だ。
そう言う事なら色々な野菜を出そう。
木箱に入れておいた野菜を次々と取り出し並べる。
「おお、これは凄い」
「本当に採れたてみたいな鮮度ね。アイテムボックス、羨ましいわ」
「見た事が無いのも有るわよ!」
並べ終わった頃には、奥様方で周りが見えないくらいになっていた。
村の規模からして、奥様方は全員来ているのではないだろうか。
男性陣は、見たそうにしているが入って行けず、蚊帳の外から見ている。
もう最初から近くにいたリオ爺さんしか男は近くにいない。
この村の力関係が残念ながら分かってしまった。
値段は来る前から空間魔法の遠隔視でざっと相場を調べておいたので、すでに木箱に書いてある。
原価や原価以下でも商売するつもりは無いので構わないが、それでは怪しまれるので沢山採れる産地で売っている価格、それよりも少し安い程度に設定してある。
本来入る輸送料等を考えれば破格のお値段だろう。
「それでは販売を開始します!」
女神様の一声で奥様方が一斉に動き出す。
男勢はまだ動けない。
「あら、こんなにお安くて良いの!?」
「ええ、商売でやっている訳では有りませんから。それに出来もそんなに良くないそうで、このお値段です」
米への女神様の評価から、先にそう宣言しておく。
「少し食べてみますか?」
後からの文句を避ける為、すかさず女神様はその場から野菜を何種類か取って、サラダにして試食を作った。
「お嬢さん、魔術が上手いのう」
「そうね、詠唱もしていなかったわ」
「しかも風と水の二属性」
当たり前のように女神様はやってしまったが、魔術師がいなさそうな村でも分かる高等技術だったらしい。
しかし流石の女神様、その程度の事で慌てはしない。
「旅では使う事が多いので、いつの間にか出来る様になっていました。ですが先輩方と比べ、私などまだまだです」
「まあ、謙虚ね。うちの子に見習わせたいわ」
そんなこんな有りながら奥様方は試食。
「まあ新鮮! シャキシャキしてるわ!」
「このお野菜、こんな味がするのね!」
「うちの人も喜びそうだわ!」
中々の高評価だ。
ただ、珍しさの方が大きい様に感じる。
「でもどうしましょう。沢山買いたいけど、それだと腐らせちゃうわ」
「安心せい。久々に氷室を開放するでの。どうしても保存が効かないものは、儂のアイテムボックスに入れてもええ」
リオ爺さんの一言で、嵐の様な買い漁りが発生した。
上がった知力、超並列思考、超速思考を駆使して怒涛の会計をさばく。
そして驚く様な勢いで、品物が売れていく。
あっという間に品切れになった。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
スキル〈計算〉〈会計〉を獲得しました。
スキル〈計算〉〈会計〉のレベルが1から6に上昇しました》
その勢いはスキルを獲得し、急激にレベルアップする程だった。
並列思考とかも使ったのも有るだろうが、凄い勢いだったのは間違い無い。
そして売上も、原価に近い値段だった筈なのに、硬貨が山になっている。
普通に一月くらいは生活出来る売上だと思う。
男性陣の分は何も残っていなかった……。
荷物持ちにされて去って行く。
老いも若きも関係無い。皆、荷物持ちだ。
残ったのはリオ爺さんと、少数の男性陣。
「小奴らが麦を売りたいと言う者達じゃな」
そんな彼らに連れられて、倉庫までやって来た。
「ここにあるのが村用と取引先が決まっているもの、備蓄を除いた過剰分じゃ」
麻袋が大量に積み重なっている。
「出来るだけ多く買ってくれるとありがたい。……母ちゃん、だいぶ使ってたからな……」
「家もだ……」
「「ハハハ…」」
そんな悲壮感を漂わせるおっさん達に、愛想笑いしか出来なかった。
予算は温泉で拾った金貨があるし、幾ら買い取っても問題ない。
「分かりました。あるだけ買い取らせていただきます」
女神様がそう言うと、値段交渉を始めた。
と言ってもほぼ言い値だ。
儲ける必要が無いので、定価で売って怪しまれない程度、ほんの少し利益が出れば良い。
おっさん達への同情が入ったのも否定はしない。
買い取った麦を収納して、この村でやる事は全て終わった。
色々と案内し教えてくれたリオ爺さんにお礼の桃を渡して村を出ようとする。
「おや、泊まっていかんのかい?」
「いえいえ、ご迷惑でしょうし、まだ明るいので今日中に街へと向かいます」
「迷惑じゃないさ。この村は客人に飢えとるくらいじゃ。それにこの辺りは暗くなると危険じゃ。ここまで奥になると、ここに来るまでの街道よりも数段危険な魔獣が現れる。泊まって行きなさい」
「ですが、修行中の身ですので」
「それも修行の一環です」
「いやいや神官さん。明るうちは大丈夫でも夜は危険だ。長老の言う通り泊まって行きな」
「母ちゃん達も久々の来訪者に喜んでる。多分今頃、祝の準備を始めてる頃だぜ」
そこまで勧められると流石に断れない。
暖かい人達だ。
「そう言う事なら、遠慮無く泊まらせていただきます」
女神様がそう言い、この村に泊まる事が決定した。
異世界生活六日目、この世界に来て初めてまともに人里で過ごす事になった。




