ボッチ91 ボッチ、村に行く
お正月投稿です。
農作物をこの大陸の街に売りに行く。
そこで考えた作戦はこうだ。
作戦と言っても万が一、仮面姿の時と同一人物とバレない為の対策だ。
この大陸に会ったことのある人間はおそらく居ないが、念には念を入れたほうが良い。
まず、今回は仮面なし。
何故なら、特に非常時でも無いのに街で仮面姿なのは怪し過ぎるから。変に注目を浴びてしまう。
まあ非常時でも十分怪しいが。
しかし素顔を晒すのも万が一が怖い。
と言う事で、ちょっとした変装をする事にした。
「まずは、髪色を変えましょう。黒髪が珍しい訳では有りませんが、この世界には勇者は黒髪と言うイメージがあります。その線からバレる可能性を消しつつ、印象も変えるんです」
「髪色ですか。この世界の人ってファンタジーらしく髪色カラフルですよね。何色が良いですかね?」
「何色が注目を浴びてしまうのか、そう言えばこの世界の認識がいまいち分かりませんね。色を選ぶよりも、似合うかどうか、不自然で無いかで選んだ方がいいかも知れませんね」
じゃあ実際に染めて、何色が良いか確かめてみよう。
取り敢えず髪金に染める魔法をと。
そう思っていると、髪が魔力を求めている感じがした。
求めに応じ、魔力を流す。
「……金髪、似合いませんね。格好良くなると思ってやってみたけど残念な感じになってしまった感がこれでもかと表現されています」
「…………」
髪色、今ので染まっていたらしい。
それよりも、失礼な評価だ。
そんなに陽キャカラーが似合わないだろうか。
まあ、何にしろ似合わないのなら髪色を戻そう。
どうすれば? ああ、魔力を抜けば良いのか。
感覚的に、これは超演技の新たな力らしい。
レベルが6になったおかげだろう。多分。
髪色以外もいけるのか?
「おっ、虹彩の色も変えられるんですか。肌色まで」
変えられるのは色くらいらしい。
身長を高くしたり、ムキムキになろうと試みたが、それは失敗した。
そして色々と試し、決まった色は黒に近い紫色だった。
「……そんなに明るめの色は似合いませんか」
「ええ、貴方に派手な色は似合いません」
「そうですか……」
兎も角、今は髪も目も紫色。
「雰囲気は多少変わっているので大丈夫でしょう。それに瞳の色は髪と違って魔法でもなかなか変えられないですから、同一人物と気付かれ難くなっている筈です」
そう言う女神様も、一応髪色と瞳の色を変えている。
元々は白銀の神だったが今は金色で、輝く地球の様であった瞳は紅玉の様な瞳に変わっている。
印象はガラリと変わり、俺でも女神様だと分からない程だ。しかし絶世の美女だと言う事は変わらない。
流石は女神様。
「ふふふ」
そして、次にするのは着替。
今回は神官服。
何故この服を選んだかと言うと、旅の神官と言う設定で行くからだ。
この大陸が辺境だからこそ、そこに行っている理由が必要だ。
一番簡単な農家に扮するのは、街の人が近くの農家と誰かしら面識があるだろうから却下。
旅の冒険者というのも、もし野生の邪神や魔王やらが出没したら駆り出されるかもしれないから却下。そもそも農作物を売りに行く職でも無い。
では行商人はどうかと言うと、商売が上手い必要がある。売る上でボロが出るかも知れない。
そこで村々で農作物を買い付け売りながら旅の資金としている旅の神官と言う設定にした。
神官ならある種名誉だけど本物だから、多分何とかなる筈。そして女神様も女神様だし、有り難いお話は得意。
加えてもっと細かい設定は修行で旅をしている神官。技量が疑われそうな宣教師は名乗らない。
これなら完璧だ。
完璧な準備を整えたところで、転移門を開く。
選んだ場所はこの大陸の街の中でも端の方にある街、の近くにある村だ。
まずはここの村で仕入れと軽く野菜を売りさばき、本当に農作物の買い付け販売をしている証拠を作る。
幸い、その街の近くの農村は一つしか無く、次の農村まで早くても二日はかかりそうな距離がある。
辺境にあるだけでなく、ここでさえ証拠作りすれば十分な素敵立地だ。
村の近くの道の外れに転移門が繋がる。
位置は村からの死角である丘の先。
ほんの少し丘を登ればすぐに村が見えた。
深い堀と、低いところでも10メートル以上の高い石造りの壁に囲まれた砦にもなりそうな村だ。
畑は全て壁の中。その為、堀と壁は相当長い。囲みの広さなら大きな街と変わらないだろう。
加えて何重か結界まで張ってある。
しかし、中は長閑な村そのもの。
「随分堅牢そうな村ですね」
「この大陸の魔獣は強力ですからね。しかも内陸の辺境となると、あれくらいの備えが無いとすぐに破壊されてしまうのでしょう」
スキルやレベルアップがあって、地球よりも開拓しやすそうだが、魔獣と言う脅威が大変な様だ。
どこも開拓は苦労を伴うらしい。
「そう言えば、あんなに守られてますけど、普通に入れるんですか? ファンタジーだと身分証が必要なイメージがあるんですけど?」
「村なら大丈夫でしょう。おそらく。身分証が必要なら、神官だから持ってないで何とかやり過ごしましょう」
「……大丈夫ですかね? それ?」
「当たって砕けろです」
そんな話をしている内に、村の入口に着いた。
村の入口は跳ね橋になっている。
そして門番の爺さんが一人。
門番と言うよりも、椅子に座り日向ぼっこしている。
「おお、旅の方、遥々この村まで何の用かね?」
「私達は修行中の神官見習いです。路銀を稼ぐため、作物の買付と販売をさせていただきたく参りました」
「そうかい。若いのに偉いね。どれ、村の真ん中まで案内しよう」
杖をついて爺さんは立ち上がる。
「ありがたいですが、門番は良いんですか?」
「問題無い問題無い。そもそも儂は門番でないのでな。日向ぼっこしていただけじゃ。お〜い、ルイスや! お客人が来た! 儂は案内するから、後は頼んだぞ〜!」
「は〜い!」
奥から青年が来た。
どうやら壁の裏に門番の休憩所的なところがあったらしい。本当の門番はこの青年のようだ。
「ようこそお客人! 何も無い村ですが、歓迎します!」
青年に歓迎され、爺さんに案内されながら俺達は村に入るのだった。
 




