ボッチ90 ボッチ、決断する
お正月投稿です。
ホルスとアイギスを連れ、畑に戻る。
ペットにした目的の一つは過剰生産してしまった農作物を食べてもらう為だ。
もう食べた後かも知れないが、取り敢えずあげてみる。
「好きなだけ食べて良いぞ」
何を好むかは分からないから、全種類石で作った大皿の上にスーパーの陳列の如く盛り付ける。
アイテムボックスを使った技で、一瞬で食材の山を並べてゆく。
するとホルスもアイギスも、同じ所に向かった。
酒のもとだ……。
まさか一直線に酒を目指すなんて……。
しかしホルスは黄金の炎を地面に生じさせた。
もしかして、飲む為に近付いたんじゃない?
黄金の炎の中から、ゆっくりと小さな細い木の枝が何本も伸び、編み込む様に器の形になる。
そして網目は無くなり一体化し、継ぎ目の無い一つの器になった。
……ああ、酒を飲む皿を作ったのか。
でもホルス賢い! ちゃんと皿に移して飲もうとして偉いぞ!
一方のアイギスも、枝を生やし伸ばし、同じく器型にして、最終的に継ぎ目を無くし皿を作った。
アイギスも偉いぞ!
そしてそれぞれ水属性魔法で酒を更に汲み取ると、飲み始めた。
ついでに女神様も……。
まあ、喜んでいるようなら良いか。
神様って国を問わず酒が好きなイメージがあるが、女神様も神獣らしいホルスとアイギスもその例に漏れないらしい。
ただ、つまみとしてでも良いから、他のものも食べて欲しいんだが……。
そう思っていると、ホルスは穀物を新しく作った更に盛り啄み始め、アイギスは葉もの野菜をお皿に盛り食べ始めた。
ホルスもアイギスも本当にお利口だ。
さて、俺はちょうどご飯が炊けていそうだし、そちらを食べよう。
どれ。
蓋を開けるとよく炊けている。
しゃもじもアイテムボックスの中に当たり前のように入っていたので、それでかき混ぜる。
木製の大きめのしゃもじは、何やら書いてありお土産みたいだが、ちゃんと使えた。
何か他のアイテムよりも魔力が込められているし、もしかしたらご飯を美味しく炊く魔道具かも知れない。
鑑定。
名称:おしゃもじ様しゃもじ
効果:転移、不壊、咳病完治
説明:おしゃもじ様のしゃもじ、魔力を込めながらこれで喉を撫でると喉の荒れが治り、咳の原因である病が完治する。
……ご飯を美味しくする効果を持つしゃもじだと思ったら違った。
「……何ですか、このしゃもじ?」
『おしゃもじ様から貰ったしゃもじです。何かに使えるかと思って入れておきました』
「おしゃもじ様って?」
『知りませんか? 咳を治してくれる神様ですよ』
そんな神様がいたんだ。
八百万の神々って色々いるものだ。
しかし有り難い。
もし風邪をひいたらこれで治そう。
『まあ、今の貴方には病耐性が有りますけどね』
「そう言えば、そもそも仙人ってどんな病院に罹るんですかね?」
『伝承上、治す側ですね。仙人に詳しい訳では無いですが、病気の仙人など聞いたことがありません。何にしろ、しゃもじが必要な事態はそうそう起きそうに無いですね』
「ペットの病気に使うのが先かも知れませんね」
『どちらも、やはり治す側だと思いますよ』
本来ならとても役立つ有り難い神器なのだろうが、うちは必要なさそうだ。
しゃもじはしゃもじとして活用させて貰おう。
さて、土属性魔法でお椀を作り、炊きたてのご飯を盛る。
何か色が白く無い。
あっ、そう言えばこの米は精米していなかった。
まあ良い。
米は米だ。
「あむ」
うん、ご飯だ。
もち米ではなく普通の米だ。
ただ、元々米の違いが分からない事に加え、玄米の状態だからどのくらいの米が出来たのか全く分からない。
そして不味くはない。
多分。
しかし、若干、いつも食べていた米にどこか劣る気がする。
「どれ」
女神様もさっきの神力の残りで実体化して米を口に運んだ。
「……正直、あまり良い出来ではありませんね。よくこれであの日本酒が出来たと驚く様な出来です」
「えっ、そんなに駄目ですか?」
「駄目と言うよりも、日本の農業が進んでいたと言う事ですね。勇者で仙人である貴方の魔法でも、数千年の積み重ねを簡単には超えられませんよ」
確かにそう言われると、いつも食べている様なものが出来なくて当然だ。
桃は良い出来だったと思うのだが。
「果樹は野生化するものがあり美味しいものも多いですが、穀物や野菜が野生化したものはあまり見ません。そもそもの育て易さの違いかも知れませんね。果実なら完熟の補正もあるでしょうし」
「確かに完熟しない内に収穫するって良く聞きますね」
それにしても困った。
出来が良い米なら長い間、食べ続ける事ができる。
しかし、出来が悪いものを五百年近く、食べ続ける自信は無い。
ホルスもアイギスも、食べてはいるが大食いでは無いようだし、確実に持て余す。
全部、酒に変える訳にもいかないし。
「私は構いませんが」
「どんだけ飲むつもりですか……」
ホルスもアイギスも、酒の消費量の方が多いが、流石にそれはないと思う。
「こうなるとやはり、売りに行くしか無いかも知れませんね」
「……つまり、街に行けと」
「最後の手段ですが……バイト感覚だとは言え、豊穣の女神としての矜持が作物を無駄にする事を見逃せません」
「そんなこと言って、原因の一端は女神様ですからね。酒の材料に色々と増やしたんですから」
「……もちろん手伝います」
おそらく、俺よりも人里に出たくなくなっている女神様が、こうまで言うのだ。
行きたくないが、強く断れない。
だから説得する。
「でも、あの変な信者達に会うかも知れませんよ? あの大将軍率いる勇者軍なら、色々なところを回って復興を手伝っていると思いますし?」
「……そうですね。ですが、この大陸なら、あの勇者軍部隊はおろか、私達を知っている存在はいないでしょう」
女神様の意思は固いらしい。
それに、確かにこの大陸はここ以外に行った覚えがない。
何千年も再発見されなかった大陸らしいから、他の大陸から渡るのは簡単では無いはず。
沿岸部しか開発されていない辺境らしいし、わざわざ大陸を越えてまで辺境へと渡ってくるのは、おそらく移住者だけだ。
この大陸で、会ったことの人物と出会う可能性は限りなく低い。
「分かりました。行きましょう」
こうして俺は、限定的に街へ行く決断をするのだった。




