ボッチ13 ボッチは魔術と魔法の違いを聞く
明けまして、おめでとうございます。今年も、宜しくお願い致します。
「クリエイト系魔術の意味?」
「はい、魔術は最後まで未完成のまま発動した方が良いなら、完成した普通の水を出したりする魔術を練習したのは余計なんじゃ?」
「それもそうですね」
「…………」
もう本当は魔法の事を殆ど知らないのを隠そうともしなくなってきた女神様。
説明出来る部分が減り、遂に俺と同じ側にまで来てしまった。
そうだと知っていても不安になるから最後まで演じてほしい。
「少し待って下さい。今調べてみます。少なくとも初心者用の本にはクリエイト系魔術から始めましょうと書いてあったのですが、理由となると」
そう言いながら女神様はペラペラとページを捲って行く。
同時に幾つもの本も独りでにページが変わっていた。どうやら検索魔法だか機能があるらしい。
しかし中々答えは出てこない。
女神様曰く殆どの本に魔術はクリエイト系のものから始めると書いてあるらしいが、理由は記載されていないそうだ。
もしくは小学生が初めに平仮名を習うような誰も理由を疑わないものなのかも知れない。
しかし魔法を知らない世界の俺達には一欠片も理解出来ない。もはやただの習慣で理由なんか無いのではと思ってしまう。
しかし丁度理由が無いのではと疑い始めた時、答えが分かった。
「あっ、ありました。何か魔法研究の序文に書いてあります。えーとですね、『魔術を初めて習う時、クリエイト系統の魔術から習得を初める。これによりステータス上での“魔法”、つまり魔法適性を獲得し、種々の魔術を習得する。魔術士の数が極端に少ない地域では所謂実用魔術から初める為に、“魔法”を獲得できずに初期段階で延滞しているケースが多い』だそうです」
どうやら術そのものを覚えるよりも、まず適性を得てから修行した方が効率が良いらしい。
多分、それが無いとそもそも術と言うレベルで使えないからスキルに辿り着くまで時間がかかってしまうのだろう。ただ棒を振り回すだけで剣の達人に成れたら誰も苦労なんかしない。
「と言う事は、魔法適性を得る為って事ですよね」
「そう言う事ですね」
だが、これで分かってめでたしめでたしで終わるとは限らない。
世の中知らない方が良い真相もある。
「と言う事は、元々魔法適性を持っていた俺には余計な練習だったんじゃ?」
「……結果的にスキルを獲得出来て結果オーライ、えーと、テへ?」
ゴメンちゃいとポーズする女神様。
何故だろうか? 女神様だけあって見た事が無いレペルで可愛くはあるのだが、怒りしか沸いてこない。
今すぐ一発ぶん殴りたい。
「あっえっそのっ、つ、続きがありました。読みますね。
『ここから“魔法”獲得にはクリエイト系魔術が有効であり、実用魔術は効果が薄い事が判る。つまりステータスにおいて実用魔術はクリエイト系魔術に劣る存在だと推察できる。この事から魔術は本来全て、クリエイト系の魔術と同様に創造魔法と分類される真物質を生み出す魔術だったのでは無いかと考えられる。
一つの事実としてスキルはスキルレベルを10に極めると、上位のスキルに覚醒する事がある。上位スキルへの覚醒は非常に稀な事からまだ多くの謎が残るが、属性魔術スキルの上位スキルが魔術スキル、そのまた上位スキルが属性魔法スキルと言う名称であることは知られている。またそれによって生み出されるものは殆どが真物質であるとされる。
即ち本来は属性魔法スキルこそが広く浸透していた技能、スキルであり、それ故に魔術の適性がステータスでは”魔法“と表示されていると考えられる。そして真物質を生み出す技能こそが本来魔法であり、クリエイト系魔術は魔術と呼ばれるが本来魔法に分類されるもの、少なくとも通じるものであるからこそ”魔法“獲得に有効であると考察する事ができる。
また歴史的な観点から見て、神話や伝説には地形をも形成する、山や湖を生み出した大魔法使いがしばしば登場する。実用魔術で生み出したものは一定時間経過後に消失する事から、魔術で地形を変化させるのは難しい。その事から通説ではあくまで伝説であり真実では無いとされてきた。しかし地学の発展してきた近年では、あきらかに自然のものでは無い環境も判明した。その中には神話伝説に語られる地が多く含まれていた。
となると神話や伝説は作り話では無く歴史である可能性が高くなる。古代文明の遺産が現代では再現が及ばない程に高度なものであることも含めて、魔法に溢れていた可能性が高い。
これらの推測が正しいとすると、一つの仮説が浮かび上がってくる。長年謎とされてきた古代文明衰退の謎、それは魔術の存在が関係するのでは無いかと言う事だ。
まず魔術が魔法よりも簡単であるから広まった。しかしそれでは技能自体が伸びず、継承できる者が居なくなってしまったのでは無いか?
そして魔術と言うものが何なのかも見えてくる。魔術とは人が魔法から生み出した技術であり、逆に魔法は初めから存在した本能的な能力の一端であるのでは無いだろうか? 人では無い龍を始めとした神代生物は魔法を使用する事からも、そう言えるのでは無いだろうか?』
だ、そうです」
「…………」
女神様は明らかに意識を逸らすために只管朗読を続けたのだろうが、文句を言おうにも内容が難解過ぎて理解できないから何も言えない。
実は本当に質問の答えが混じっている可能性もあるからだ。
何にしろ何が何だか分からないから率直に内容を聞く。
「つまりは?」
「……基礎を大切にって事です、多分」
「……なるほど」
絶対女神様も内容を理解していないなと思いつつも、結局何も言えなかった。気力を消耗してしまったようだ。
聞いているだけで気力を削ぐとは、催眠術よりもよっぽど凄いかも知れない。恐るべし難しい話、ただ詰まらない校長の話を超えている。内容が分からないからから共感なんて持てないし、聞けば聞くほど只管混乱してしまう。
まあ、俺にとっては殆ど全ての話が共感できないのだが……群れる奴らの話は聞けば聞くほど虚しくなるだけだ……。
「さて、では次の修行に移りましょうか? ……あの、そんなに難し過ぎましたか? 目が死んでいますよ?」
女神様、それは別件です。
幸いにもよく心が読まれるが、全てが読まれる訳ではないらしい。
多分、先に大雑把な感情を読み取ってから気になる時だけ詳細に心の内を読み取るとかそんな感じなのだろう。
今回は虚無と言う重なるものだからスルーしてくれたようだ。
心を読まれない内に気分を入れ替えよう。
何かすればすぐに忘れられる筈だ。
「大丈夫です、俺の青春は初めから死んでいますから……。それでどんな修行をすれば良いんですか?」
「……深刻ですね。取り敢えず、青春の汗を流しましょう」
女神様がとても慈悲深い憐れみの目になった。
母性本能ならずの女神本能を俺がくすぐったらしい。
早速青春の汗とやらが俺の目から流れてくる。
その目を向けてくるのが女神様で本当に良かった。
これが人を憐れむ神じゃなくて同じ人間にされていたら昇天できる自信がある。
「では先ず、初級の魔導書を取り出して下さい」
「魔導書? あっ、これですか?」
聞き覚えの無い単語を聞き返したら、独りでにその魔導書とやらが現れた。
転移とか言う効果、改めて便利だ。
「それです。鑑定してみて下さい」
「どれ、“鑑定”」
名前:フィーデルクス初級魔導書写本――観測院フィーデルクス魔術大使アルバシス・リューン・クオン・マクシサム著――
効果:魔導書、検索、不壊、所有者固定、転移
説明:フィーデルクス世界において魔術系スキルのみでの発動が観測された魔術の術式や呪文、解説が記された魔導書。ページを開き魔力を通せばそこに記された魔術を発動する事ができる。
完成した術式のみが記されている為、一定以上の魔力を流すとそれを呼び水に強制的に魔術が発動する可能性がある。その場合限界を超えて魔力を吸われる事があるので注意が必要。また、術式が完成している為に改変できず魔術の制御調整が難しい。魔力を大量に流し出力を上げるのが限度。
「なるほど」
どうやらこの世界にある殆ど全ての魔術が記され、魔力を流すだけでそれが発動できる道具らしい。水晶玉の凄いやつって事だろう。
と言うかこの世界、フィーデルクスって言うんだ。
気になる点として、安全装置が無いと言う点、即ち危険な道具であると言う点だ。
「女神様、これのどこが初級なんですか?」
「……さあ?」
次話はある程度書き溜まったら、何かしらの日に一気に投稿したいと思います。
おそらくホワイトデー以降になると思います。




