ボッチ87 ボッチ、鳥を飼う
三が日投稿です。
『魔獣をテイムする方法は様々存在します』
相変わらず激しい炎の嵐に呑まれながら、女神様にテイムのレクチャーを受ける。
『まずジョブによって方法は違います。
例えばテイマーは懐かせる様な手法が多く用いられます。ジョブを得る切っ掛けも、幼い頃からペットの魔獣と共に育ったから、等ですね。テイム方法も卵や幼獣の頃から育てる事が多いです。
一方で従魔使いは、契約を結ぶ事が多いです。これは精霊使いの様に従魔の力を借りるのが従魔使いなので、強い結び付きが必要かつ、自分よりも強い従魔の力を借りる事が多い為に、完全に服従させる事が出来ず対価を支払う契約と言う形にする事が多いようです。
また召喚士も契約ですね。ただ従魔使いと術式が異なります。陰陽師系の式神使いは式神契約だったりと、術式だけでも多種多様です。
他にも竜騎士や、ドラゴンライダーだったらジョブの効果によりドラゴン系の魔獣をテイムしやすい代わりに他の魔獣がテイムし難いなど、同じスキルを有していても効果が変わるなど、効果も多種多様だったりします』
「つまり、先にジョブチェンジした方が良いって事ですか? そしてスキルも必要だと」
『通常はそうなります。しかし、契約系の術式は結局のところ魔術です。ですので、貴方の場合は魔術で何とかなると思いますよ』
魔術だけでも何とかなるようだ。
「あっ、でも、俺、テイマーみたいにペットとの絆を深めたい派なんですけど」
従魔を戦力として迎えるなら兎も角、俺が欲しているのは卵を産んでくれるペットだ。
ペットに最も求めるのは癒やし。
飼うからには懐いて欲しい。
『問題ありません。どれも極めれば、いえ極めるには絆を育む必要があります。どんなに術式で縛ったところで、魔獣が本心から力を貸してくれなければ完全には力を発揮出来ませんから。ですので、初めが違うと懐かなくなると言う事はありません。結局は、従魔とどう過ごすかで変わります。
また反対にテイマーでも過ごす内に術式の様な繋がりが生まれます。従魔は正確には魔獣では無く、魔獣から瘴気が浄化された従魔と言う微妙に違う存在です。魔獣の力を持った動物になると言うイメージでしょうか。そうなるには術式的な繋がりも必要です。なので、テイマーは両者側から契約が結ばれます。
つまり、全ては従魔との接し方次第と言う事です』
そう言う事なら、契約でも何でも、まずはフェニックスを従魔にする事が大切だ。
「出でよ! フェニックスをテイム出来る魔法!」
すると女神様の言う通り、テイムする技も魔術だったらしく、魔導書が開いた。
空間属性魔法でフェニックスの動きを抑え、魔導書の魔法を発動する。
「――天から見下す御霊よ 地脈を統べる御柱よ 荒ぶる現世に降りし神獣よ 我らは願う どうか鎮まり給え 我らが供物を受け取り給え 我ら願い奉る どうか鎮守を――“神獣契約”」
四分の一ほどの莫大な魔力が持っていかれ、フェニックスの上下に天を覆うかの様な巨大で緻密な魔法陣が現れ、何重にも展開された。
続いて地から十二本の光の柱が天まで登り、柱から光の鎖がフェニックスに伸びる。
光はフェニックスを拘束するのでは無く、フェニックスに吸い込まれる様に触れると内部に消えてゆく。
フェニックスは暴れるも、柱や鎖、魔法陣から発せられる神々しい光に掻き消され、魔法陣の範囲から全く出られずにいた。
やがてフェニックスは大人しくなり、眼光から敵意が消えてゆく。
気配までもが何か、柔らかいものに変わった気がする。
そして光の柱が鎖として解け、完全にフェニックスに吸収され、一際強い光を発すると魔法陣も消え、穏やかになったフェニックスのみが残った。
フェニックスは姿も変わっている。
元は普通の炎を纏っていたのが、金色の炎を纏うようになり、飾り羽が増えた。
より格好良く美しくなっている。
また、変わったのはフェニックスだけでは無い。
魔力的なパスが繋がり、何となくフェニックスの意思が伝わるようになった。
フェニックスは俺を待っている。
主人を待つ犬の様に従順に。
俺は近付いてフェニックスの頭を撫でた。
「お前の名前はホルス、俺の新しい家族だ」
「フィフィー!」
ホルスは嬉しそうに鳴き声を上げ、顔を擦り付けてくる。
おお、かわいい奴め!
「ホルス、この人はアウラレア、女神様だ。女神様の言う事もしっかり聞くんだぞ」
「フィー!」
『……ホルス、女神アウラレアです。これからよろしくお願いします』
女神様は笑顔で微笑むが、どこか反応が鈍い。
「どうかしましたか?」
『……あまりにも強大な魔法だったもので驚いてしまいました。あれは、力が弱ければ神であろうと縛れる魔法、いえ儀式、祭祀と言っても差し支えない大魔法です』
「……神を、縛る……?」
確かに神獣契約と言う名の魔法だったが、本当に神様を……?
大魔法どころじゃない。
『おそらく、神獣契約と書いてヒエラポリス、聖なる都市と読むこの魔法は、都市と神獣とが契約を結ぶ大魔法です。神獣の守りがある都市、つまり聖なる都市にすると言う事でしょう。名からしてとても個人が使う魔法ではありません。実際に術の規模からして、宮廷魔術師が総出で儀式を行っても発動出来るかは未知数でしょう』
派手な魔法だったので意識していなかったが、よくよく思い返せば、魔導書に全ての魔力を使ったのでは無く、術の発動後に何故か莫大な量の魔力を持っていかれた。
もしかしたらそれこそ、龍脈の魔力やらを使ってその土地に縛る魔法だったのかも知れない。
「あっ、今更ですけど、契約って事は俺も何か縛られたりするんですか?」
『本来はその筈です』
「本来は?」
『ええ、あまりに強大な従魔を、自分の力量にあまりに見合わない格上と契約する場合、通常は対価を求められます。最たる例は悪魔との契約です』
「契約って悪魔との契約的な契約だったんですか!?」
『そうです。しかし、ホルスは術式が発動せずとも従順です。発動していない以上、対価も何もありませんし、そもそも血の盟約の様な強い強引な繋がりが見えません。ホルスは、完全に貴方を上位者と認め、屈服しているようです』
何だか良くわからないが、うちのホルスは賢くてお利口らしい。
「流石はホルス!」
「フィフィー!」
何にしろ、俺は最高のペットを手に入れたのだった。




