ボッチ80 ボッチの焼畑農業
年末年始投稿です。
神様の中では雰囲気からなんとなく若そうだと思っていた女神様が、実は人類よりも昔から存在していた古参の女神と言う衝撃事実が判明したが、だからといって何かが変わるわけではない。
本題も相変わらず畑作り。
「それで、畑作りに大切な事って何ですか?」
『通常は土作りでしょう。しかし今回は魔法で育てるので土作りも日照条件も水も気候すらもおそらくは関係ありません。ただ、畝は作った方が良いと思います』
「畝ってボコってした奴ですよね?」
『かなり大雑把な表現ですが、今思い浮かべているもので相違ありません。畝は水捌けを良くする役割が有りますが、人の通れる道を作る役割もありますから。魔法で簡単に生やせたとしても足の踏み場が無ければ収穫出来ませんから』
「なる程、確かに植える前に区画整理するのは大切ですね」
そういう事でまずは畝を作ろう。
土属性魔法と仙術を組み合わせて視界いっぱいの範囲を制御下に置く。
そのまま畝を、と思ったが草を処理していなかったので一旦止める。
まずは雑草の処理からだ。
『……それは何ですか?』
「見ての通り火です」
簡単な草刈り方法。
そして農業と言えば焼き畑だ。
綺麗さっぱり草を無くせ、肥料にまで出来る。
魔導書の魔法を使うとまた大惨事になりかねないので、シンプルに今回は火を生み出すだけにした。
『本当に大丈夫ですか? 貴方、火事のプロですけど?』
「何ですか、火事のプロって……」
確かに火を出す度にちょっと燃え広がったりしているが……。
『普通は人生でも火に関する事故は有るか無いかです。それを複数回、しかも原因になるなどプロとしか言いようがありません』
「げ、原因って、ちょっと燃え移っちゃっただけですよ」
『ちょっとで森を焼き尽くしたり、山を融かしたり、街が無くなる様な大惨事は起こりません』
「いやいや、街を消したのは俺じゃないですからね!?」
『着いた時はまだ原型が有りました。跡形も無くなった一因は貴方にも有ります』
「それを言うなら女神様にも一因が有りますからね!?」
『……よくよく考えるとあれは不可抗力でした。不幸な事故です。元々滅んでいた街について嘆いても仕方がありません』
手首が非常に柔らかい女神様。
くるりと意見を変え、弁論まですぐさま紡ぐ。
やはり保身も司っているのでは無いだろうか。
『さ、さあ、邪魔な雑草を焼き払いますよ! やっちゃってください!』
しかし、何だかんだ女神様も賛成してくれたので焼き畑を開始する。
出した炎の火力を上げていき、草に火が灯る。
火は着いたが、乾燥した草で無いから中々燃え広がらない。
特に燃え広がるのを待つ必要は無いので、更に火力と炎の範囲を広げて直接燃やしてみる。
やはりこちらの方が早い。
後は風も送ろう。
風は風魔法と仙術を同時に使う事で火よりも自由自在に使う事が出来る。
風を送って送って火の勢いを強くして行く。
あっという間に辺りが火の海になった。
『……今回は元々燃やし尽くすつもりで火を放ちましたが、これは中々凄まじい光景ですね』
「ええ、想像以上です……」
風を送ってからの火の回りは早く、加えて火力も強く、空が染まりそうな炎が視界を埋め尽くしている。
まあ、草だから早々に燃え尽きるだろうが、衝撃的な光景だ。
桃畑の方まで延焼しては堪らないので、桃畑側から風を強めに送る。
煙も飛ばせて一石二鳥だ。
後は暫く待つだけ。
5分ほど経つと、炎は弱まった。
地面を埋め尽くしていた炎は密度を低くし、黒焦げた地面の姿を見せるようになった。
もう良い畑に成りそうな雰囲気の土だ。
早く畑を作ってみたい。
しかしここで慌ててはいけない。
雑草をしっかり処分し肥料に変えなくては、その折角の畑も駄目になってしまう。
慌てず焦らず着実にだ。
と言ってもまだところどころ炎が残っているが、煙として見えるだけだ。大体は燃えただろう。
そろそろ水をかけても良いかも知れない。
「もう水をかけても良いですかね?」
『ええ、もう十分でしょう』
女神様のお墨付きも得たので、鎮火に移る。
使うのはクリエイトレインを元に仙術と組み合わせ生み出す雨だ。
前の反省から、やはり急ぐ用でも無ければ確実性が大切である。
完璧に組まれた術よりも崩した方が水量をコントロール出来て安全だ。
仙術で雲を呼び寄せ、水魔法で補助しつつ水分自体を供給し雲を増幅させる。
その状態を保ちつつ、急激に水が解放されない様に水分を雲に閉じ込め堰き止めておく。
そして雲の密度を一定にし、燃えた部分のみを覆う。
後は降水。
水と炭が触れた音と共に一斉に白煙、水蒸気が立ち登る。
その煙の状態を確認しながら降水量を調整してゆく。
やはり殆どが燃え尽きていたのか、すぐに白煙も登らなくなった。
一旦、雨を止め、雲を高原の外に移動させて状態を確認する。
やはり雨を止めても白煙は登っていない。
もう鎮火したと考えて良いだろう。
俺も随分と成長したものだ。
燃やし過ぎず、迅速に必要な分だけ水を出して鎮火させられる様になった。
「どうですか女神様、この完璧な手際。もう火事のプロなんて言わせませんよ」
『……あの遠方に見える黒煙は何ですか?』
「へ? 黒煙?」
女神様が指差す先、そこはノーマークだった山脈の外。
前に災害魔法でぶち空けてしまった穴の先。
そこからは黒煙が立ち昇り、炎まで確認出来た。
なんか、山脈の外が燃えている……。
「一体、何故……?」
『おそらく、ここに煙が来ないように強風を送り続けたからかと。地形からして風は山脈の唯一の切れ目、ここから一直線上にある崩落場所に流れ、炎を外に送ったのでしょう』
「まさかの風が……」
盲点だった。
火加減に気を配り、水も精密に操作したのに、風はそこまで意識していなかった。
何より、風の抜け道が一つしかなく、ここから一直線上にあるのは完全に考慮していなかった。
ただ、魔法や仙術が巧みに使えれば良いと言う訳ではないらしい。
物理も忘れてはいけないようだ。
『やはり、火事のプロですね』
「…………」
今回ばかりは、言い返す事が出来なかった。




