ボッチ79 ボッチ、女神について知る
年末年始投稿です。
女神様が心変わりしない内に、何とか仙境庭園の先、畑予定地にまで辿り着いた。
広々とした広大な高原だ。
果てにはまた山脈が聳え立ち、この高原を囲んている。
巨大な山に囲まれている事で、高原の広さがいまいち分かりづらいが、どんなに狭く見積もっても1キロ以上はここから山脈まで有る。
畑を作るには十分過ぎる広さだ。
「女神様、畑作りって何から最初にやった方が良いとか定番はありますか?」
『豊穣を司る女神では無いので詳しくは知りません。それでも昔は農業をする人ばかりだったので、多少なら分かります。ただ、魔法でやる以上は殆ど参考にならないと思いますよ? 加えて農業関連で神として手伝っていたのは主に天候関係の事ですし』
「へぇ、農業の神様の仕事なんかもしていたんですか?」
『あくまでも手伝いですが。異世界転生担当の女神は普段力を貯めなくてはいけませんが、それ以外は手が空いているので多少は手伝ったりするんです。神として力を貯めるために信仰も集めなくてはいけませんし』
畑について聞いたら神様事情も聞けた。
せっかくだから女神様の事を聞いておこう。
たった一人の隣人。
人付き合いの苦手な俺だが、相手は神様、不思議と話せるし、今後も長い付き合い、多分寿命的にも永い付き合いになるのだから知っておいた方が良い。
それに純粋に気になる。思い返せば人(?)に興味を持つのは初めてかも知れない。
『ふふ』
「どうかしました?」
『いえ、何でもありません。質問があるのでは?』
「そうでした。女神様ってどこで信仰されているんですか? 今更ですけど、女神様の名前は聞いたことありませんし、でも、日本の神様って前に言ってましたし?」
今女神様が言った神の力を貯めるには信仰が必要という内容的にも、前に神力の話をした内容的にも、神様の力の源は多分信仰心、祈りと言う奴だ。
しかし、女神様の名前は聞いたことが無い。転生を司る女神様の名前なら、最近の異世界転生ブーム的にも名前が知られても良い筈だ。
地球の女神様だけど信仰心はこちらの世界で集めているのだろうか?
『名前を聞いた事が無いのも当然です。私個人を祀る神社は有りませんから。私は特定の信仰をさせる神ではありません。神と言う一纏めで祈られる神の内の一柱です』
「信仰が神の力になるそうですけど、それで力が集まるんですか?」
『問題ありません。日本の人々は神社に参拝しても、そこに祀られている神を知らない方も多いですから。貴方も、近所の神社にどの神が祀られているか知っていますか?』
「そう言えば、知りません」
言われてみれば近所の神社、神様が祀られている事しか知らない気がする。
狐の像が置いてあればお稲荷様が祀られている、くらいは分かるし、寺なら仏像が祀られていると見れば分かるが、寺に関しても仏像を見ただけで何の仏像か考えた事も無かった。
多分、なになに神社の神様ってだけ認識していた気がする。
『つまり日本人は、特定の神が祀られている神社仏閣でも、ただ神という特定されない対象に祈る事が多いんです。他にも例えばいただきます、と言う言葉はその食事が出来るまでに関わった全ての人に感謝する言葉ですが、神への感謝も含まれています。しかし特定の神を思い浮かべる事はおそらく無いでしょう。そうした祈りは八百万の神々全体へ送られ、関わった神々に多く届きます。
神社の場合も同じで、その祈りは神社の主よりも実際に加護を与えた神に多くの祈りが届きます。なので、日本においては名を知られず特定の社が無くとも問題無いんです。
言い換えるとだからこそ、私は日本に属する女神であるとも言えます。異世界への転生を司る女神をわざわざ祈る人は現代なら兎も角として、まずいませんから』
確かに、おそらくどの国でも特定の神を信仰するのなら、何かしらの御利益がある神だろう。
縁結びに安産祈願、商売繁盛とそう言う分かりやすいものを司る神が信仰される事が多い気がする。
宗教が力を持つ時代なら、人の生活や将来に関係ないものを司る神を祀っては人々はまとまらない。
「そんなシステムなんですね。じゃあ、この世界での祈りよりも日本での祈りの方が多かったりもするんですか?」
『ええ、この世界では特定の神へ祈る事が主流ですから。やろうと思えば神が現世に降臨できる世界ですから、その傾向が強いんですよ』
女神様は勇者を送る神だ。
勇者は魔王と言う人類を滅ぼしかねない敵が現れなければ召喚されない人類の切り札。
そんな勇者を送る女神様の重要性はこの世界では大きい様に思えるが、違うのだろうか?
『私は勇者を送り込む事しか出来ませんから。この世界の神では無いので、直接手助けする事が出来無いんです。それに私よりも圧倒的に勇者が活躍しますから、意識は勇者自体に向くんですよ。情報伝達も現代の地球の様に広く早く行き渡る訳ではないので、私の存在を知っている人々も多くはありません。
結果として、私に届く祈りは日本でのものが圧倒的です。人口も違いますし』
「女神様はそれで良いんですか? 勇者を送っても大して祈られないで?」
『構いません。実際、人々を救っているのは私では無く勇者達ですから』
流石は女神様、心の中も清い心の女神様だ。
その女神様の心を荒ませる、やはり悪いのは勝手に像を作るあいつらだ。女神様になら、滅ぼそうと思われても仕方が無い。
「そう言えば、最初から日本の神様なんですか? 神話的にどの神様から生まれたとか?」
『八百万の神の一柱に数えられていますが、イザナギとイザナミの二柱から始まった神ではありません。だからと言って他国の神でもありません。
説明が難しいですが、概念から始まった神です。多くの神話で太陽が太陽の神である様に、信仰対象と共にある、共に生じた神ですね。流石に神であっても自分の由来など正確な事は分かりませんが、おそらくはそうでしょう』
「信仰が先って事ですか?」
『いえ、人類が誕生する遥か以前から存在しますよ。神々の中でも結構な古参です』
ここに来て最大の衝撃事実、下手をすれば転生してから最大の衝撃事実が判明した。
女神様、めちゃくちゃな年齢らしい。
神様だから何万歳と言う可能性は考えていたが、まさか神様の中でも古参とは思わなかった。
『この世界の神々、と言うよりもこの世界よりも歳上ですよ』
「こ、この世界よりも。へ、へ〜……」
可能な限り、成人の日辺りまでは毎日投稿していきたいと思います。




