閑話 侵入者1 潜んでいた超人達
その日、アルバシスの気配が消えた。
この世界を誕生当初から見守っていた心優しき苦労人が。
最期の言葉は後は頼むであった。
彼と我らは謂わば敵同士。
何千年も追いかけっこして来た仲だ。
我らは布教する為に、彼は世界の秩序を守る為。
我ら世界宗教の使者を見つけ出しては追い出してきた。
負けじと我らは何度でも侵入を試み布教を試みる。
永きに渡りその繰り返し。
殺し合いをするような中でも無いが、言うなれば好敵手同士。
そんな彼が後は頼むと言い残した。
てっきりもう手を出すなと釘を刺しに来ると思っていたからそれは意外だった。
しかし、数日後にその理由が判明する。
世界の狭間が接触しかけていた。
それは彼が冥界とし整備し、人々には荷の重い魔を封じていた世界。
その封印が解けかけ、一つの世界として合流寸前の状況になっていた。
特に、悪魔は数柱が既に世界に解き放たれ、世界に定着していた。
悪魔を召喚する方法は太古よりどの世界にも存在する。
しかし悪魔は肉体を持たず、受肉したとしても悪魔にその肉を維持する方法は存在しない。本質的に生物では無いからだ。
その為、魂の状態では一日も人の世界には存在出来ず、受肉しても贄を補充し続け無ければ一月も保たない。
しかし、悪魔が存在できる世界と融合してしまったら、当然悪魔は対価なしに世界に存在し続ける事になる。
悪魔の力はピンからキリまで様々だが、神々に匹敵する力を持つ悪魔も少なくない。
野に解き放たれたらどうなるか、想像したくもないが想像に難くない。
この世界の人々にとっては魔王級の脅威が乱立するようなものだ。
しかし、世界一つを用いた封印となると、我らに手を出すのは非常に難しい。
それも複数の世界、アマンスフィー世界群全体の冥界としてドスレーグ世界は管理運営されている。
仕組みを完全に解析のも困難だ。
力なら有るが、技術は持っていない。
だが無視する訳にもいかない事態だ。
「各方、どうするおつもりですかな?」
そこで数千年ぶりにアマンスフィー世界群全体から業界人を全員招集して会議を開催した。
「ミーはアイドル達と信者に任せようと思うよ。闇は光を引き立てる舞台、きっと一際輝いてくれる筈さ。彼女達はもう何処までも羽ばたける」
そう言うのは偶像教のアマンスフィー世界群の総司祭、シュティファノ。
彼はアイドル達に全て託すらしい。偶像教らしい決断だ。あくまで司祭は陰、アイドルのサポートに徹するようだ。
「今の段階でどの程度育っているのですかな?」
「う〜ん、そうだねー。A級以上、S級未満と言ったところかな。皆、もう少しで衣装も使い熟せる様になる筈さ。実戦を積めばS級にも届くだろう。グループは連携で既にコンディション次第ではS級の力を発揮できると思うよ」
「ほう、良くぞそこまで育て上げたものですな。最近はアルバシスの妨害が入らなかったからね。特訓できたんだよ。まあ、少数精鋭だけどね」
偶像教も世界宗教の一角に相応しい勢力を誇るが、実働可能な信者の数は少ない。
司祭達が干渉を行い育てるのはアイドルだからだ。ファンに司祭達は深く関わらない。
ファンを育てる司祭も存在するが極少数。
ファンを含めた信者数は多くとも動かせる人員は少ない。
まあ、アイドルが動けばファンは自主的に動くだろうが、育てた訳でも無い信者は大した戦力にはならない。
しかし、この世界の住人を、それも10代20代の少女をそこまで育て上げるのは大したものだ。
この世界の住人自身が問題を解決する、その考えも賛同できる。
「私もエリメス殿と同じく、この世界での同志達、信者達に立ち向かっていただこうと考えております。まだこの世界の人々は自らを包み隠している。己の全てを曝け出し、真の自分を受け容れ理解し、そして他と互いに包み隠すことなく真の絆を結べば、必ずや危機を乗り越える事が出来る筈です」
「【変態紳士】殿に【照明公子】殿、それが最良なのは分かる。しかし俺は直接手を出すべきだと思う。失敗すれば信者が倒れるばかりか強大な魔が世界各地に出現してしまう。融合した瞬間に悪魔が分散して現れたらどうしようも出来ない。俺達で倒すとして、全てを倒し切る頃には1%の人類が生きていたら幸運な程の被害が広がってしまう」
「ですが、悪魔は現象に近い。千年一万年とかければほぼ確実に復活するでしょう。そうなった時、私達がいるとは限りません。悪魔の力量によって復活にかかる時間が異なる以上、とても対応しきれません。この世界の住人自身の手に乗り越える力が培われている必要があります」
「しかし、リスクが高過ぎるのも事実。そもそも、神に匹敵する悪魔の数によっては、我々の手に負えない可能性すらも有るでしょう」
「確かに、未だ封印は緩くなっても健在、中の様子は分からない。場合によってはこの世界の住人どころか私達の力が及ぶかも未知数。一つの世界では無く、世界群全体の魔を閉じ込めたとなれば、一体何が眠っていることやら」
個性の突出した世界宗教の司祭達による会議では珍しく、真面目な会議は中々決定が下せない。
最良なのは、この世界の住人が解決し、それによってこの世界の人々が力をつける事。
しかしそれは理想。現実的かは怪しく、賭けになる。リスクが大きい。
だからと言って、我々で解決するのも未来を考えればリスク。
そして今回は急な事態。
未知数な部分が大きい。
「そもそも、どうやったら冥界の封印を保てるんだ? 自分達で討伐するにしても悪魔の出現場所も決まっているか分からない。解決方法が全般的に分からなくないか?」
「「「あっ……」」」
議論が白熱する中で、気だるそうに参加だけしていた平穏教の司祭、【最後に立つ】ラガラス殿が抜け落ちていた最優先事項を指摘した。
任せるにしろ任せないにしろ、何をすれば対処出来るのか何も分かっていない。
しかし、封印自体の解析はまず困難。
それでもやらねばなるまい。
結果、我々は次の結論を出した。
我々は封印の解析及びそのものの監視に注力し、地上の事は信者達に任せる。
そして悪魔の出現場所を推測出来ない以上、人海戦術を用いる事。つまり布教活動により一層の力を入れる事を決定したのだった。
次話はまだ完成していませんが、何とか明日、投稿したいと思います。




