閑話 帝国2 世界の節目
ハロウィン投稿です。
本日2話目になります。
戦略会議室に入ると、中には息を切らした重臣達が既に着席していた。
流石の奴等も、事の重大さは分かっているらしい。
「皇帝陛下、御入場!」
部屋にいる全員が一斉に起立しこちらを向き礼をする。
「よい! 早急に報告せよ」
「「「はっ!」」」
魔術師達が部屋の中央、数段下がった所を囲み杖を掲げる。
床には大きく緻密な魔法陣が展開され、杖の先、杖で囲まれた先がまるでベールを剥がすかのように違う光景へと変わってゆく。
そこで投影されていたのはまるで海が流れているかの様に莫大な水量を誇る大規模な滝と固まりかけたこれまた島のような規模の溶岩。
「何をしている。早くメリアヘムを映し出せ」
「……恐れながら陛下、これが現在のメリアヘムの姿です」
「何っ!? この溶岩がか!?」
「はい、この溶岩がメリアヘムです」
その言葉に一気に騷しくなる。
「魔法が失敗したのではないのか!? 有り得ん、証拠を出せ!」
「そうだ、有り得ない! そもそもメリアヘムには監視魔法を弾く結界があった筈! 結界のせいで失敗したのではないのか!?」
重臣達が信じられないと口々に叫ぶ。
それに対して魔術師達は投影を動かしてみせる。
メリアヘムとする溶岩が小さくなってゆく。
どうやら倍率が変わってゆくようだ。
そしてメリアヘムに近い近隣の街まで地図に含まれる様になった。
こうされると溶岩がメリアヘムだと疑いようも無い。
周りの地形等から座標に間違いが無いのだから。
先程の騒がしさから一転、誰もが言葉を失い絶句する。
「……ただ陥落したのでは無く、消失したのか……」
絞り出せた言葉はこれだけであった。
周りからの反応は無い。
だが、ずっと止まってはいられない。
有り得ない大事件だからこそ、早急な情報共有と対策、今後の行動指針が必要である。
「まずは情報共有だ。各々知り得る限りの情報を共有せよ」
「「「……御意」」」
強引に情報共有を促す。
「第一報はメリアヘムに潜ませた密偵からの報告でした。こちらがその報告です」
情報局長が初めに立ち上がり口を開く。
そしてこちらに広げて見せるのは細長い何かが書かれた紙。
「『メリアヘム南地区にて轟音と共に激しい火災が発生、【煉獄の戦神イフリート】が突如起動し暴走している模様』、この報告を最後に密偵との連絡は途絶えました。文章を送るタイプの魔道具による報告であった為、これ以上の情報は密偵の報告からは分かりません」
次に立ち上がったのは外務大臣。
「大使館からもほぼ同時刻、少し遅れて緊急連絡が入りました。内容は『イフリートがメリアヘムを破壊している』、密偵の報告合致します。その後、『魔王軍の侵攻を受けている』との連絡も入りました。これら報告は通話型魔道具によって報告されました。音声の録音がこちらにございます」
そう言って外務大臣は魔道具に魔力を流す。
通信コストが大きいらしくハッキリした音声は報告にもあった二つだけ。
しかし、音声であるから雑音も混ざっている。破壊音や怒声等だ。
何度も録音を流させ続ける。
「闇がどうとかと聞こえなかったか?」
「ああ、闇が迫る、崩れると聞こえた」
「今のところ、バールガンと言っていませんでしたか!?」
「何だと、もう一度繰り返せ!」
その結果、微かにだが確かにバールガンと言うワードが聞こえた。
そして魔王軍四天王とも。
「つまり、メリアヘムは魔王軍四天王バールガンによる侵攻を受け陥落したと言う事か」
「イフリートの暴走も奴が何らかの手段を用いた結果でしょう」
「奴の名乗るバールガンの名、もしもその名が本物だとしたら奴は最後のアッシュール王、その后は伝説の錬金術師カルヴァリエです。かのイフリートの製作者候補の内の最有力者であるカルヴァリエが本当の製作者だとしたら、イフリートを暴走させられても不思議ではありません」
「バールガンはアンデットを操る死霊魔術師です。アッシュール王であっても不思議ではありません」
情報が繋がってきた。
イフリートが暴走したのも、そしてメリアヘムが陥落したのも。
魔王軍四天王であるバールガン、魔王軍最高戦力が動いたのなら、メリアヘムが陥落したのもおかしくは無い。
事前情報として、メリアヘムの最高戦力デオベイルらが神国と王国の仲裁をしに向かったとの情報もあった。
そこを狙われたのなら陥落もあり得る。
「待て、王国と神国が動いたタイミングは? あまりにもタイミングが揃いすぎている。もしや全て魔王軍の策謀か?」
「二柱目の魔王が現れ消失したと言う事件もありました。これも魔王軍が何かしたと考えるのが妥当だと」
「それも調査にS級戦力を割く為の策と言う訳か。成功したかは兎も角として」
「もしや七星宝具が二つも失われたのも魔王軍の仕業では?」
最悪のシナリオに辿り着き、再び会議室に沈黙が訪れる。
ただでさえ、人類最強の城塞都市が陥落したのに、人類最強の兵器の内二つが魔王軍の手に渡ったかも知れない。
最悪にも程がある。
「そうだ! 勇者はどうなった!?」
「「「…………」」」
誰も答えられなかった。
メリアヘムの状況からして、勇者までもが全滅した可能性が高い。
そうなれば、勇者と言う最後の希望までもが人類から失われた事になる。
最悪の中の最悪の事態だ。
「すぐさま捜索隊を出せ! 勇者が生き残っているかも知れん! 早急に保護するのだ! もはや国の存亡を左右するどころの事態では無い! 人類存亡の危機だ! 王国と神国とも連携をとるのだ!」
しかし、ここでさらなる予期せぬ事態が発生した。
「緊急報告! 王国でクーデターが発生しました!」
「「「何だと!?」」」
「緊急事態です! 神国でクーデターが発生しました!」
「「「なっ………!?」」」
それもこの状況に追討ちをかける凶報。
しかしそれで終わりでは無かった。
「「「ッッ!!??」」」
突如大きな揺れが会議室を襲ったのだ。
「気候観測所より緊急連絡! 帝都を含むディアメシア地方全域で大規模な地震が発生!」
「港湾都市オルテアより非常連絡! オルテシア海に突如嵐が発生! 一帯は嵐に呑み込まれたとの事!」
「交易都市クメレンより報告! クメレンを含むクメレネシア地方一帯で地盤沈下が発生! 各所が液状化現象及び突如発生した湧き水によって沈みかけているとの事!」
「気候観測所より続報! エヴァパリエ火山で大規模な噴火が発生! リゾネール氷河が崩壊! ミトドロス山脈で大規模な崩山! ベスメレン地方全域で観測史上初の大雪を確認!
各所から災害観測情報が上げられ続け止まりません!」
悪夢でも見たことが無い想像出来得る限りの最悪を超えた最悪の現実。
我の心臓は、今にも止まってしまいそうだ。
次話は明日投稿します。




