ボッチ11 ボッチは魔法使いへの道を駆け上がる
連続投稿最後です。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
アクティブスキル〈無詠唱〉を獲得しました》
目からも水魔法を垂れ流しにしながら消火すること数十分、火は完全に鎮火し何故か新たなスキルを手に入れた。
スキルは名前の通り無詠唱で魔法を使っていたから覚えたのだろう。
と言うか態々スキルがあるって事は本来魔法を使うには詠唱が必要だったんだな。
「ふぅー、何であれ一件落着」
俺は久々に空洞を解除する。
気分の問題だろうが空気が旨い。空洞を発動していたときには感じなかった焦げ臭さや煙たさが今はあるが、それでも空気が旨く感じる。
狭い石の隙間から這い出ると思いっきり体を伸ばした。
『自業自得なのでお疲れ様と言うのも変かも知れませんが、とりあえずお疲れ様です。なんか結果的に凄いギフトの訓練になりましたね』
確かに自滅して焼かれるような状況だったのにギフトを使いこなすような結果になった。
「ギフトってこんなにも簡単にレベルアップするものなんですか?」
『いえ、前代未聞です。確かにギフトの種類と相性によっては急成長することもありますが、あんな馬鹿なトラブルでレベルが上がるほど安い能力じゃありません。何てったって勇者の切り札みたいなものですからね。
だからこればかりは誇っていいと思いますよ。ボッチの才能が溢れている選ばれし究極のボッチだと』
と女神様は頬笑む。
……女神様は珍しく本当に誉めてくれているのだろうが何故だろう? 全く嬉しくない……。
また目から強制的に水魔法が発動されそうだ……。
話を変えよう。
「〈無詠唱〉ってスキルが手に入ったんですけど?」
若干上を見上げながら女神様に聞く。
もうすでに何度も雫を見せた気がするが、だからと言って簡単に見せていいものではない。
『それは名前の通りのスキルです。詠唱をせずに魔術が使えるスキルですね。一応高名な魔術師レベルでないと持っていない上級者のスキルらしいですよ?
貴方って相変わらず変わったスキルから取得していきますね』
目論み通りに話が変わり、女神様は解説してくれた。
あまり深く考えていなかった話題だが意外と有用そうな中身だ。このまま少し聞こう。
少し呆れたような口調で言われたがそこはもう気にしない。
「詠唱をしないで魔法を使うって凄いことなんですか? 俺、多分一度も詠唱なんかしなかったと思いますけど? そもそも詠唱って?」
『詠唱ですか? ……呪文のことですかね?』
あれ? すぐに答えてくれると思ったら思考を放棄したような応えが返ってきた。
「女神様、ふざけてます?」
『ふざけては無いですよ。ちょっと待ってください。なになに、……詠唱とは魔術式を展開する為の補助機能であり、魔術式構築の難易度を大幅に下げる事が可能である……だそうです』
そう女神様は分厚い本を朗読した。
「…女神様、知らなかったんですね」
『しょうがないじゃないですか。私、地球の女神ですよ? 異世界転生を担当していても異世界担当じゃないんです。調べてあげただけでも感謝してください』
「もしかして今までのも本の知識ですか?」
『はい、この世界の神々から雑談がてらに聞き齧った事もありますが、殆どは本と鑑定で視た知識です』
「今まで専門家みたいに解説してたのに!?」
『ちゃんと解説してあげているのですから感謝してください。調べるのも面倒なんですからね?』
そんな素人知識で俺は上から目線でとやかく言われたのか…。
女神様は俺の為に態々調べものをしてくれた、お互いの為にこの事実のみを認識しよう。
大切なのは好意、はい決定。
他のは幻覚か何かだ、きっと。
さて、幻覚を無視するために話を修正しよう。
「で、結局のところ詠唱って何なんですか?」
『う~ん、そうですね~』
女神様は色々な分厚い本をめくりながら唸る。
こう俺の為に頭を悩ましているところを見ると、やはり好意が大切だと本心から思えてくる。俺の為に自分でも分からない事必死に勉強してくれるなんて。
『馬鹿でも理解できる説明、難しいですね~。このままじゃ理解できないでしょうし~』
ん? 幻聴と思いたい言葉を女神様が呟いた気がする。
よく見れば女神さまが読んでいる本のタイトルは“サルでもわかるマジュツショ”、“バカでもできるマジュツガクニュウモン”や“馬鹿を育てる”、“幼児に伝える解りやすい教育”等とふざけた題名をしていた。
恐らく前者二つの漢字すら一つも無さそうな馬鹿にした本が超簡単で柔らかくした解説書、内容の書いてある本で、漢字も使われている後者二つの本は教育者向けの、分かりやすく伝える為の本だ。
つまりは徹底的に馬鹿にされている。
いや、そこまでして調べているから善意ではあるのだろうけど……。
馬鹿だと思われている理由も心当たりがあるし……。
うん、好意善意思いやり、大切なのはこれだ。静観しよう。
『要約しますと、詠唱とは魔術式を呼び出すキーワードみたいなものです。
魔術を料理に例えると、魔術の構築に必要な魔術式は食材や料理技術等の組み合わせで、魔術式を構築するには野菜を作るとこからの努力が必要です。一方詠唱とは料理で言うレストランでの注文、もしくはレトルトを作るようなもの、僅かな手間しか必要ありません。
まあつまり魔術を一から構築するのと詠唱との関係は、手作りと既製品みたいな関係ですね』
「なんとなく理解はできました。でもなんか簡易化し過ぎてて少し分かりずらいんですけど?」
好意として情報を受け取りつつ、さりげなく抗議する。
『そうですか。では電流が流れる流れないの二進法でプログラミングするのと、アプリケーションを使う。こんな関係と言えば分かりますか?』
「……すいません、俺、文系なんで」
まだ例えで言われたが今一理解出来なかった。
……うん、俺は文系だから仕方がないのだ、例えと相性が悪かった。仕方がない。
……なんにしろ、女神様の好意をありがたく受けとることにしよう。
馬鹿だと少しでも思われない為に会話を伸ばす。
本題に戻すとも言う。
「それで、詠唱が魔術を簡単に発動出来るようにしてるって分かったんですけど、何で俺は今まで詠唱をせずに魔術を使えたんですか?」
『それは今までの魔術が簡単だったからですよ。ほら、魔術を料理だとして、目玉焼なら簡易化するまでもなく誰にでも出来ますよね?
後は魔力が多いと言う要因もあります。どんなに料理が下手な人でも、卵が百個あればその内成功しますよね? そんな感じの理屈です』
と女神様。手に持った本が気になるが分かりやすい。
もう本格的にそこはスルーしよう。
そんな事を思いつつ、俺は残りの魔法の修行に移った。
中途半端なので次話はいつか投稿しますが、数カ月かかるかも知れません。期待はしないで頂けると幸いです。




