ボッチ74 ボッチと紫炎
月初投稿です。
救助活動を開始してから十分程、街から社会的生命の危機に瀕していたり生命の危機に瀕している反応は無くなった。
全員回復済みだ。
そもそも瓦礫の下敷きになった人達も救助しきった。
急を要する救命活動はこれで一段落したと考えて良いだろう。
これでやっと帰れる。
そう思っていると火山の方向から轟音が轟いた。
見れば炎が吹き上がっている。
マグマでも噴石でも無く巨大な炎だ。
ここからだと火山から出ている様に見えるが、十中火山由来では無い。
何より炎の色が紫色だ。普通の炎では無いし、自然のものでは無い魔力を感じる。
何かと思っていると、同じくそちらを見ていた住人から声が上がった。
「何と言う事じゃ! あの禍々しい炎は言い伝えそのもの! 獄炎竜の炎じゃ! 災禍が、世界を炎に沈める災禍が目覚めてしまった!」
「爺さん! あれは御伽噺じゃなかったのか!」
「馬鹿者が! 何故勇者軍がここに来ていたと思っておる!」
「それは火山近くまで侵攻して来た魔王軍を倒す為って」
「その魔王軍は何故こんな田舎の火山まで侵攻して来た? かつて世界を恐怖に陥れた獄炎竜を開放するためじゃ!」
「爺さんの与太話じゃなかったのか」
話が正しいとすると、あの炎は火山の下に封印されていたらしい獄炎竜とやらの放ったものらしい。
振り返ってみると、確かに火山の下には強大な魔力反応があった。
てっきり火山に生息しているだけの魔物かと思っていたが、封印されていたようだ。
加えてその竜は封印される程、凶悪強大な存在らしい。
討伐では無く封印したという事は、単純に討ち倒す事が叶わなかったと言う事だろう。
相当強い可能性が高い。
「一難去ってまた一難とはこれの事ですね。良かった、救命活動が終わった後で」
『寧ろタイミングが良いとすら言えます』
「そうですね。では帰るとしましょうか」
このタイミングだと幸い災難を避けて帰れる。
さっさと帰ろうと少し高い位置まで飛び上がり、進行方向に転移門を開く。
『はい――って、ここは倒しに征くところですよね!? なに帰ろうとしているんですか!?』
しかし転移門を潜る前に何故か女神様からストップが入った。
「何って、災禍が迫って来たので帰ろうかと。世界を炎に沈めて結局討伐されずに封印と言う妥協がされた化け物ですよ? どうにもならない災禍からは避難するしか無いじゃないですか」
『いやいや、その竜を封印していた火山の魔力環境を丸ごと変えていましたよね!? 明らかに封印する力を凌駕しているじゃないですか』
どうやら女神様は、本気で俺に倒せると思っているらしい。
火山を丸ごと変えられたのだから、それによって抑えられていた竜ぐらい簡単に倒せるだろうと。
「いやいや、あれは元々龍脈が枯渇していたからですよ。龍脈が枯渇していなかったらどうにも成りません」
実際、ここまで飛んできた距離から相当離れている筈なのにまるですぐそこに居るかのような強大な魔力を感じる。
加えて既に世界が炎に呑まれ始めたかのように、激しい炎に照らされまるであの不気味な炎に包まれているかのように染まり始めている。
ここまで空間を染めるのだ。直撃したら街も残らない程の火力を有しているだろう。
「俺なんてブレス一発で御陀仏ですよ」
『……さっきから、直撃していますよ』
「へ?」
振り返ると、眼前に紫色の炎があった……。
世界が染まるほど明るいと思っていたら、すぐそこに光源があったらしい。
通りで魔力の反応も間近に感じる訳だ。
火山の方向から女神様への方向へと振り向き話している間にまさかこんな事になっていたとは……。
「……確かに、大丈夫そうですね」
そう方針転換したところで、紫炎のブレスが止まった。
同時に火山からドスンと巨大な何かが叩きつけられた様な音が轟く。
『取り敢えず今は向かいましょう』
火山まで戻ってくると、そこではノーゼル将軍と紫色の炎を纏った黒紫色のドラゴンと激闘を繰り広げていた。
縦横無尽にノーゼル将軍が駆け回り、大型車同士の衝突事故かと勘違いする程の衝撃を感じる凄まじい大剣による斬撃を叩き込み続けている。
しかしそんな重撃にもドラゴンは鬱陶しそうにするばかりでその場から大して動きもしない。ただ首や手を動かしノーゼル将軍を仕留めようとするのみで、有意なダメージを受けている様には見えなかった。
しかし激しく見える重撃も、ノーゼル将軍の切り札では無く軽いジャブ程度であるらしく、油断したドラゴンに更に重い一撃を叩き込む。
「“彗星撃”!」
ドラゴンの首を狙った上段からの光る大剣の一撃は、まるで隕石が落下したかの様な光景と結果を残す。
ドラゴンごと溶岩の固まった地面を粉砕し、巨大なクレータを生み出す。
これにはドラゴンも無傷とは言わず、ふらつきながら立ち上がる。
紫炎を纏っているせいでどの程度の傷を受けたのかは分からないが確実に効いている様子だ。
しかし同時に、あれだけの一撃を首に食らっていながら致命傷までは受けていない様子でもある。
だがノーゼル将軍はそれも織り込み済みらしい。
一撃を叩き込みすぐさま離れると、大量の水を生み出した。
水は魔術では無くアイテムボックス、いやアイテムボックスと同等の効果を持つマジックアイテムから出しているらしい。
加えて普通の水ではなくノーゼル将軍の魔力が籠もった水だ。事前に創り出して貯め込んでいたのだろう。
「“八槍陣”!」
水は槍となり四方八方からドラゴンへと突き刺さる。
その場で創り出した水ではないが、元々ノーゼル将軍の魔力から生まれた水なので術の干渉速度と発動が早い。
殆どの槍は紫炎に触れて蒸発するが量が多く、蒸発しなかった水がクレータに溜まり続けた。
水はノーゼル将軍が何もせずともクレータによりドラゴンに集まり続け、その紫炎の勢いを衰わせ続ける。
ドラゴンは飛び立とうとするが水の槍が阻害し、それを越えるとノーゼル将軍が水上を走って再び重い一撃を放つ。
しかし封印までされていたドラゴンも伊達では無い。
空中に逃れるのは無理だと判断すると、口元にエネルギーを貯めた。
口から激しい紫光が漏れる。
それに対して口に向かってマジックアイテムから取り出した大槍を投擲。
「“刺彗星”」
だがブレスが放たれる前には間に合わず、紫炎のブレスと彗星のような青白い光に包まれた大槍が正面からぶつかる。
実体のない炎に大して槍の方が有利。
そう思っていたが紫炎のブレスは槍を焼いた。
融かすでも蒸発させるでもなく、槍は燃えた。
正確には魔力が燃やされ、槍に込められた魔力が尽く炎に変えられ、あっと言う間に丸ごと炎になった。
燃えたと言うよりも炎に変換されてしまったという方が正しいかも知れない。
槍を炎に変えたブレスは進行方向を変えずノーゼル将軍に迫った。
槍を投げたばかりの体勢でノーゼル将軍は避けられない。
咄嗟に大剣を縦にしブレスを防ぐ。
「“金剛鎮守”」
大剣とブレスが衝突し凄まじい爆炎が吹き荒れた。
追伸
次話は秋分の日に投稿します。




