ボッチ73 ボッチの災害救助
月初投稿です。
まだトイレに籠もっているノーゼル将軍をおいて、要救助者のいそうな人里方面へと飛んで行く。
感知能力を全開に、山で生き埋められている人がいないかも確認しながら迅速かつ慎重に進む。
幸いな事に、土砂の下敷きになっている人はいないらしい。勇者軍の避難誘導が迅速だったのか、生死問わず人の痕跡は無かった。
やがて第一村が見えて来る。
ノーゼル将軍がこちらに飛ぶ噴石や土砂を抑えていたから無事だと思っていたが、多くの家屋が崩れ所々から煙が上がっていた。
噴石が落ちて来た形跡は無いから地震による影響だろう。道にも地割れがあり、少なくとも地震が起きた事は確かだ。
と言うか、この世界に来てからまだ一度も無事な町を見ていない。
下手をすれば無傷な建物すら一度も見ていない気がする。
日本で起きたら最低でも一週間は繰り返し報道される程の被害状況だ。
しかしここも人の反応が無い。
生き埋められている人も居なければ、そもそも住人の反応が無い。
どうやら村からの避難を開始した後のようだ。
龍脈の魔力が枯渇した影響と言っていたから、災害は昨日の骨の龍がブレスを放った時点から始まっていたのかも知れない。
そう考えると避難が完了しているのも納得だ。
この村は大丈夫だと判断して麓への道の上空を進む。
そして付近の村々も見てゆくが、やはりどこも住人の姿は無い。
例外はここまで進むのに追い抜いた勇者軍の人達くらいだ。
きっと勇者軍の存在もあって迅速な避難が成功したのだろう。
そうして進む内に村ではなく街が見えた。
ここには大勢の人がおり、町の外もテントで埋め尽くされている。
そして所々では火山から逃げ出して来た魔物と勇者軍が衝突していた。
場所によっては地面が何色なのか分からない程に魔物で溢れている。
しかし、幸い勇者軍が優勢で街には一匹たりとも通していない。実質的な実働部隊のトップだと言うノーゼル将軍が率いていた軍は精強らしい。
救援は今の所、必要無さそうだ。
問題は街の中。
途中で通った村以上に被害が大きい。
立派で大きい建物が多かった分、地震で倒壊し易かったようだ。
そして倒壊したものが大規模な分、その瓦礫の量も多くまだ瓦礫の下敷きになっている人の反応を多く感じる。
街の人達や勇者軍、冒険者の人達が総出で救助活動をしているが、全然足りていない。
重機並みの力を持つ勇者軍や冒険者の中でも強い人達が外で魔物を抑えているためだ。
重機など存在する筈も無く、巨大な瓦礫を動かせる人材の欠員は救助活動を大幅に遅らせていた。
早いところ救助作業を手伝おう。
まずは感知能力を頼りに要救助者の正確な位置を探る。
そしてより緊急を要するところに急行。
目的地上空に着くとすぐさま瓦礫に魔力を通し掌握し、浮かせる事で瓦礫を排除していく。
こうして顔が真っ青で全身が汗で濡れている明らかに具合の悪そうな男性を救出した。
この様子では救出のみならず早急な処置が必要だ。
「――命は廻る 魂は廻る 生は輪廻の縮図 世に巡らぬものなし――」
『……あれ? この詠唱、どこかで聞いたような?』
「――水と土は地に還り 地は実りを与え 実りは命を繋げ 水と土を地に還す 神秘の円環命の理 円途切れれば即ち死のみ 環に在れ理の環 環を守れ人の環――」
『もしかしなくてもこれは……』
「“神崇留入”」
すぐには動ける様な状態では無い男性の周りに直接神の奇跡を顕現させる。
『こんな時にまで何をしているんですかーー!?』
「何って人を色々な意味で死から救う救命活動です」
『トイレよりも治療の方が先ですよね!?』
「安心してください。“神崇留入”はどんな状況下でも用を足せる様に怪我人が入ると回復してくれる機能も完備しています。他にも外で急を要する事態だった場合用の時間停止機能とか、深刻な便秘を解消する機能とか、何時如何なる状況下でも安心してトイレに全身全霊を注げる機能が完備されているんですよね」
『通りで神力まで消費していると思ったら……そこまでの過剰スペックだったんですね……』
何故か放心状態に陥る女神様。
『と言う事は、トイレの為ではなく回復用途で出したんですよね?』
「え? 見ての通りトイレとしてですけど?」
『…………』
何故か再び放心状態、と言うよりも絶句状態に陥る女神様。
女神様はこんな調子だが、この街にはまだまだ生き埋めになった人達がいる。
女神様の事は気にせずに救命活動を継続した。
どの時点で災害が起きたのかは分からないが、龍脈の魔力が枯渇してから既に半日が経過している。
つまり生き埋めになった人達は最大で半日も瓦礫の下にいる。
これは極めて深刻な事態だ。
身動きが出来ないのなら、トイレに行けよう筈も無い。
一刻も早く助け出す必要がある。
同様に深刻度が高い順に向い、同様の手順で瓦礫を退かしトイレを召喚しと救命活動を進めてゆく。
幸いな事に、今の所社会的な死を迎えている人はいない。
まだ十分に間に合う。
『って、優先順位が明らかにおかしいですよね!? どの項目でトリアージしているんですか!? 人命が最優先でしょう! 人命が!』
「大丈夫です。それも一応監視していますから、本当に危なくなったら助けに行きますよ」
『一応じゃなくてそっちをガッツリ監視しなさい!!』
放心気味だった女神様が怒りだした。
だが怯んでいる暇は無い。
今も必死に助けを待っている人達がいる。
「女神様、人は生物として生きる事も当然大切ですが、人として生きなきゃならないんです。生命が助かるだけじゃ駄目なんです! 社会的に死んだら意味が無いんですよ!」
俺は熱い想いを女神様にぶつける。
神に逆らってでも、人間にはしなくてはならない事がある。
『う●こと命ですよ!? 天秤にかけるまでもありませんからね!?』
「確かに合理的ではないかも知れません。それでも人には守らなきゃいけないものがあるんです! 人は大昔から戦って来たんです! 自然から自由を求め、人からも自由を求め! そこで戦って死んだら終わりなのに、合理性を捨てでも、時に自分を捨てでも未来を掴む為に戦って来たんです! 人の在り方はそうして人類が誕生した時から培って来たんです! その人としての在り方を、アイデンティティを俺は決して奪わせやしない! 勇者として必ず守り抜いてみせる!!」
『ちょっと何を言っているのか分からないです……』
何故か引き気味にそう言う女神様。
どういう訳だか熱意が伝わらなかったらしい。
しかし怒りは治まっている様に見える。
それでも助けたいと言う気持ちは伝わったのか、女神様は止めてこなくなった。
今はそれで十分。
助けを求める人の一刻も早い救済こそが大切なのだから。
そろそろ章を完結させ次章に入りたいと思います。




