ボッチ71 ボッチの災害救助?
「では、大丈夫と信じて畑作りでも」
『ちょっと待ってください』
「ああ、もう夕方ですね。じゃあ畑作りは明日に」
『そうではなくてですね』
頭を抑えながらそう言う女神様。
首を傾げる俺。
『世界各地で異常気象が起きていると聞いて、助けに行こうとかは思わないんですか?』
「ああ、そんな話もありましたね」
『もう忘れていたんですか……』
「加害者になった疑惑が浮上したのでそれに全部持って行かれました」
思い返せば世界規模の異常気象、そこから龍脈の話に行ったのであった。
「さて、明日の畑作りの準備でもしておきますかね」
『今の話の流れで助けに行こうとしないんですか!?』
「いやだって災害の後じゃなくて現在進行形ですよね? よく言うじゃないですか、増水した川の様子を見に行くなって、他の災害でも同じですよ。災害中に行ったら巻き込まれて被災者になるのがオチです」
『その災害を引き起こした龍脈の魔力で放たれた龍のブレスを浴びて無傷の人間、人間? 人間ですよね?』
「何で途中からそこが疑問形になるんですか!?」
説教的なのが飛んでくるかと思ったら、途中から凄まじく失礼な疑問を呈する女神様。
「ステータスにもちゃんと人だって書いて、書いてある? か、書いて有るんだからね!?」
『口調が途中から変になっていますよ。何故ツンデレ風に? と言うか確かに行いだけでなくステータス上の種族も人族ではありませんでしたね』
「ひ、人族じゃなくても異世界人も勇者も仙人も、に、人間ですよ!」
とんでも無い指摘に必死に反論する。
超並列思考に超速思考、全ての脳力を総動員する。
出て来い! 完璧な反論!
「エルフとかドワーフみたいな亜人も人族でなくとも人間です! 差別はいけません!」
俺のスーパーコンピュータは素晴らしき答えを導き出した。
ここは異世界、なら多分エルフやらドワーフやらが実在する。そして彼らは当然人間だ。同じ人である。
これを否定する事は酷い差別だ。
女神様も否定出来まい。
『確かに亜人も人間ですが、貴方の場合は半分人ではなく半分神の方の亜神では?』
真顔でまさかの事を言われた……。
確かに仙人は奉られていたり、勇者も異世界人も神が遣わす、女神様が遣わす神の使い的な部分があるかも知れないけど……俺、人間だよね?
「い、異世界人も、仙人もちゃんと人って文字が入ってますから。仙人なんて二文字中一文字も人って字が占めますから少なくとも半分は人間です」
『どう言う計算ですか……。それを言うならエルフやドワーフはどうなります?』
くっ、さっき差別がどうとか言った手前、文字から何とか言い返す事が出来ない。
「……全八文字中二文字が人なので四分の一は人間って事でどうです?」
なので妥協案を提出した。
『行い:人外、能力:人外、思考回路:人外、外見:人間、妥当なところですかね』
俺は膝から、いや頭から崩れ落ちた。
たまたま頭に激突した岩にヒビが入る。
うん、痛くない……追い打ちをかける様な結果だ。
後、残った人間的部分の該当要素が酷い……。
亜神と言うならば、寧ろ外見こそ神にして欲しかった。
これなら四分の一の人間要素が無い方が良い……。
そして一番人間要素でなくてはならない筈の思考回路、何故に女神様はそこを人外だと思った?
「さて、人助けに行きますか」
『おっ、やっとやる気になりましたか。いや、現実から目を逸す為ですかね』
「そ、そんな事ないですから!」
べ、別に指摘された事を忘れたいからなどでは無い。
純粋に人助けがしたくなったのだ。
『なるほど、思考回路に人間性を取り戻そうと』
「さ、さあ、人助けに行きますよ!」
何か女神様が言っているが今は一刻を争う時。
人見知り対策の仮面を被ると努めて無視して転移魔法を発動する。
「“英雄の背中”」
この魔法なら無計画でもピンポイントに助けを求める相手の元へ向かう事が出来る。
こんな時にも使える便利魔法だ。
今回も問題なく転移門が開く。
助けを求める人がいたらしい。
転移門が開くと同時に轟音が轟いてくる。
似た音を聞いた事がある。
災害魔法で山を貫いた後、山が崩落した時に発生した音に似た音だ。
転移門を潜ると、一瞬転んだのかと錯覚した。
大地が大きく揺れている。
ただ揺れているだけでなく軋み砕け沈み隆起しと、まるで荒波の中で融けてゆく氷山のように末期と呼べる惨状だ。もはや災害と呼べるレベルでは無い。
加えてそこで災禍は終わらない。
この災禍の中心に有るのは大噴火だ。
火口が何処に有るのか分からないレベルであちらこちらから溶岩に炎が吹き出している。
熱さよりもその爆発力が凄まじく、まるで山を中華鍋で炒めているかのように掻き回している。
そんな環境の中に、助けを求める生存者がいた。
凄まじく切迫した表情をした髭面の男。
「うおおおああっ!! オメェ等ぁ! 先に行けと行ったろぉ!!」
なんとこの男は大剣で大噴火の災害を打ち砕き止めていた。だが余裕が有る様には見えない。
その後方にも生存者。男は余裕が無い中、彼等を守っている様だ。
噴石も土石流も溶岩の流れも後ろに行かないように剣圧で吹き飛ばしている。
「頭ァ、下っ端共の退避は完了しましたぁ!!」
「俺達にも災害止めんの手伝わせてくだせぇ!!」
山賊らしき男達は山賊らしい外見に似合わず仲間思いで、既に多く逃した後らしい。
「馬鹿言ぇ!! 俺よりも住民の避難を手伝わねくてどうする!! あっちは一人でも多くの助けを必要としてるんだぁ!!」
「ですが頭ァ!!」
一般住民の心配までしてどうやら良い山賊達らしい。
山賊のお頭がここで災害を止めているのも、部下だけでなくこの先に有る街の住人を守る為らしい。
「良いから行けぇ!! ただでさえ皆メリアヘムが陥落して不安なんだ!! こんな時くらいテメェ等がいなくてどうする!! 間に合わなかった分をここで取り返せぇ!!」
「分かりました頭ァ! 先に行って待ってます!!」
やはり良い山賊達だ。
部下の山賊達が麓の方へと駆けて行く。
あっという間に姿が見えなくなった。
噴火の被害を止めている山賊のお頭は勿論、部下も地球では考えられない超人ぶりだ。
山賊もここまでの力を持っているとは思わなかった。
いや、もしかしたらこの世界の基準でも強者かも知れない。
メリアヘムで見た勇者軍の動きと何ら遜色無い。
お頭に関しては老紳士並かも知れない。
強い山賊が良い山賊達で良かった。
速やかに迫力の有り過ぎる緊迫した顔をしている山賊のお頭を助けよう。
俺には山賊のお頭が今一番求めているものが手に取るように分かる。
そして力を貸す事が出来る。
「――命は廻る 魂は廻る 生は輪廻の縮図 世に巡らぬものなし――」
神力も込めて術式を練り上げる。
「――水と土は地に還り 地は実りを与え 実りは命を繋げ 水と土を地に還す――」
奇跡を願って力と祈りを捧げる。
「――神秘の円環命の理 円途切れれば即ち死のみ――」
願う奇跡は壊れかけた調和の救済。
神秘の円環への帰還。
「――環に在れ理の環 環を守れ人の環――」
自然と人の営みとの調和。
「“神崇留入”」
決死の形相で噴火の被害を抑えていた山賊のお頭の前に光の壁が現れる。
光の壁は噴石も土石流も炎も受け止め、一切揺らがない。
そして四枚の光の壁がお頭を囲む。
これで救済は成せた筈だ。
さあ、俺はもう去るとしよう。
ここに俺はもう必要ない。
『ちょっ!? なに終わったかの様に帰ろうとしているんですか!?』
「え? 人助けは終わりましたよ?」
何故か驚いた様にそう言う女神様。
これ以上なにを助けろと言うのだろうか?
首を傾げていると今度は呆れた様な表情で女神様は言う。
『今、何をしましたか?』
「人助け」
『具体的には?』
「神の奇跡、神崇留入を使いました」
『そうですよね。公衆トイレを出しただけですよね!?』
神崇留入を使った何がいけなかったのだろうか?
「トイレの我慢が限界な人にトイレを与える他にどうしろと?」
『はい? トイレを我慢していた人?』
「はい、ほら」
ちょうど良いタイミングでトイレから出て来た山賊のお頭。
さっきまでとは別人の様に切迫した雰囲気が無くなり穏やかな表情だ。
『ノーゼルはトイレを我慢してあんな雰囲気だったんですか!?』
「なんだ、気付いていなかったんですか? トイレが我慢出来ないから助けを求めていたんじゃないですか?」
『元々助けて欲しい事ってそっち!?』
どうやら女神様は勘違いをしていたらしい。
災害に押し負けそうです助けを求めていると勘違いしたのだろう。
こうして俺は一人の救済に成功するのだった。
さて、帰ろ。




