ボッチ67 ボッチ仙人
衝撃のステータス更新だったが、ステータスの更新はまだ終わらない。
《アクティブスキル〈魔力収集〉〈魔力精製〉〈魔力変換〉〈仙術〉がパッシブスキル〈魔力収集〉〈魔力精製〉〈魔力変換〉〈仙術〉に覚醒しました。
パッシブスキル〈魔力操作〉のレベルが8から9に上昇しました。
〈魔力超回復〉のレベルが7から8に上昇しました。
〈魔力適応〉のレベルが6から10に上昇しました。》
仙人になったせいか、色々とパッシブスキルになりレベルが上がった。
それが出来て当たり前の存在になったと言う事だろう。
桃の味、どんなのだっけ?
剰りの衝撃に全てが飛ぶ。
何度ステータスを確認しても不老不死と仙人の文字は消えない。
恐る恐る桃の木に鑑定をかける。
名称:仙桃の木
効果:鎮守、仙境
説明:フィーデルクスで初めて育った仙桃の木。勇者にして仙人マサフミ=オオタの手によって創造された。
元々この世界にある木じゃ無かったんだ……。
いや、遠くを見る前にまずは鑑定を見よう。
名称:仙桃の木
効果:鎮守、仙境
説明:フィーデルクスで初めて育った仙桃の木。勇者にして仙人マサフミ=オオタの手によって創造された。
九千年に一度実を付け、その実は九千年かけて熟す。
その実を食した者は不老不死の身となり仙人の格を得る。
うん、間違い無い。
全てはこの仙桃が原因だ。
と言うか実るようになるのも熟すようになるのも九千年の時が必要。
通りで莫大な魔力を注ぎ続ける必要がある訳だ。
それだけの対価が必要だったと思い返せば納得も出来る。考えてみればメリアヘムで使った魔力よりも断然多い。何か起きて当然だ。
起きてしまった以上、どうにかして納得するしか無い。
後は黙々と植樹の作業をして気を紛らわそう。
そう思って仙桃の大木から目線を崖へ移すと、そこには満開の花と豊かに繁る葉に豊かな実りとを同時に成す桃の木々が繁栄していた。
…………もう、何故か植樹が成されている。
崖は桃の木に侵食され崩落するものは崩落しきり、自然に見える崖へとリフォームされていた。
桃の木と合わせて本物の仙境のようだ。ここが桃源郷だと言われても何の違和感も無い。
おそらく、漏れ出した莫大な木属性の魔力やらが植樹した桃の木を増やしたのだろう。
やる事が無くなってしまった。
しかし唖然とするしか無い光景でも、同時にその美しい景観が心を癒やしてくれる。
よくよく考えればそもそも勇者なんだし、仙人になったからって大して変わらない。
元々風景を変えてしまう程の力があるのだ。
寿命が伸びた事くらい些細な事でしかない。多分。
今はせっかく景観を良くする事に成功したのだから、軽く散歩でもしてみよう。
まず全景を見ようと空を飛ぶ。
身を軽くし、風のように飛び上がった。
上から見ても素晴らしい景色だ。
木々の隙間から見ても仙境に見えたが、上から見るとよりその様に見える。
両側崖と言う環境が丁度良い具合に調和している。
「って、俺飛んてる!?」
気が付けば当たり前の様に空を飛んでいた。
こんな事は今まで出来なかった筈だ。
これまで飛んだ記憶と言えば、大気圏まで突入した記憶しかない。
こんな風に歩くように自由に飛べなかった筈だ。
自由に飛べていたのなら大気圏まで行かないし隕石のように落下もしない。
仙人になった変化は予想以上に大きいようだ。
いや、種族の変化では無くスキルの変化か?
冷静に一つ一つの変化を確かめる。
スキル的に飛んでいるのは仙術の力だ。
風と一体化させたかのように風を操り纏い、風に近付け飛んでいる。
風を生み出したり操るのでは無く、風と言う概念に紛れ込んだかのようだ。
ただ仙術だけの力でも無い。
魔力収集、魔力精製、魔力変換で仙術の効率を大幅に上げていた。
魔力収集は似た名のスキル魔力回収と違い全ての魔力を集める能力。
魔力回収は自分の魔力を回収する、出した魔力を尚も自分の延長の様に扱うスキルであるのに対し、魔力収集は単に周囲の魔力を自分に引き寄せる力だ。
これで自然の魔力を操る力を補助している。
魔力精製は魔力を分離する力。
より純度の高い魔力にする事ができる。余分な魔力が混ざらず目的の魔力、より目的とするものに干渉し易い魔力へと精製する事が出来る。
そして魔力変換は魔力の質を変換する事が出来る能力。
火属性の魔力を生み出したり、木属性の魔力を生み出したり、自らの魔力を自然の魔力に近付ける事が出来る。
これらで仙術が当たり前に強化された結果がこれだ。
自然に偏在し、本来なら自らの魔力を浸透させ共鳴させてからでないと十分な量を集められない自然の魔力を集め、自分自身の魔力も自然に近いものへと変換精製。
そんな濃厚な自然の力を望む形へと操る。
それが呼吸するように出来れば空も飛べる筈だ。
特に仙術は術式と言う概念が薄い。
自然をそのまま利用する力だからだ。
風を風として利用し、水を水として利用する。
術式を組むまでも無く、行き着く答えは先にある。
だから術式を考えず、目的に合う自然に干渉すればすぐに求める結果を得られる。
考える余地が少なく感覚で出来てしまうのだ。
しかしこれも、本来なら驚愕に値する事だが、よくよく考えれば不老不死に比べたら有って無い様なものだ。
些細な変化でしか無い。
今はせっかく飛べるようになったのだし、飛行を楽しもう。
高い崖にも桃が咲き誇っていてどの高さで飛んでも花畑に居るような気分で飛べる。
思い切って山脈よりも上へと飛び出す。
…………そして静かに低空へ、桃畑へと戻る。
見てはいけないものを見てしまった。
思い返せば、破壊はこの山脈だけに留まってはいなかったのだ。
山脈の外の破壊は依然として変わらず。
うん、今は考えるのを止めよう。
ははは、鳥になったみたいだ。




