閑話 魔王2 空気
中途半端なので投稿します。
圧勝であった、完勝する筈であった。
我が思惑は一つたりとも外れる事が無い、筈だった。
万が一の事にも備え、過剰な程に策を巡らした。
圧倒的な力を持つ我らが策まで用いたのだ。
しかし結果は、成功したのは初めだけ。
そもそも我の目的は勇者軍の殲滅では無い。
メリアヘムを陥落させたのは我からすればついでだ。
人類に絶望を刻む。
それこそが我の目的。
より深い絶望を与えるために、勇者と人類最大の城塞都市を落とす事にしたのだ。
我が軍が人に化けていたのも、勇者軍を滅ぼす為では無い。
そんなもの、我らが力を振るえば容易く成せる。
そこに準備も作戦も必要ない。
全てはより絶望を与えるために、奴等の心の柱が何なのか、何に絶望し希望を見出すか知る為。
そして勇者軍とメリアヘムを滅ぼすと決めたのは、分かりやすく力の差を見せつける為だ。
勇者の殲滅やイフリートの掌握、龍脈の奪取など万が一の危険の排除もしたが、主目的は絶望を与える事だ。
しかし結果はどうだ。
通過点でしか無かった筈の勇者軍の殲滅すら成せていない。
それどころか我が軍が追い込まれた。
我でも受ければ傷を負う対城魔法、果ては対都市魔法を次々と無傷で防ぐ謎の魔術師。
全ては奴が来てから狂い出した。
せめて賢者オルゴンだけでも仕留めようとしたが、それは流星と言う天災に襲われ失敗する始末。
加えて流星による被害でメリアヘム自体が壊滅的な被害を受けた。
修繕すればどうなると言うレベルでは無い。
整地からやり直さなければならない白紙以下への大被害だ。
そこで全てが失敗に終わったと憤怒していたが、それで終わりでは無かった。
突如発せられる大魔法。
都市を壊滅させる類の大魔法を予兆も感じさせず撃ち込まれ、しかも連発され我が四天王バールガンまでもが容易く敗れ去った。
我も身を守る事しか出来なかった。
バールガンは自らの死霊魔術で復活を遂げ、著しく力を身につける事にも成功したが、そこからも悪夢だった。
長時間の調整を経て生前の力を保持した状態で蘇らそうと考えていたかつての英雄達。
力をつけたバールガンはそれを一瞬で成功させた。
かつての英雄は勿論、かつての魔王に神代の怪物と、我が配下の中でも四天王級でなければまず勝てないであろう大戦力。
しかも龍脈から豊富な魔力供給を受け、死した故に疲れを知らない化け物達。
世界を手にしたと同等の大戦力。
中でも別格なのは神代の怪物、龍の王ウルカールフ。
命が満ちる大陸すらも創ったとされる神代ですらも別格と呼べる存在。
そんな龍の大陸をも焼き尽くす一撃を奴は耐えた。
我でも避けなければならない究極の破滅を、奴は真正面から受け無傷であった。
それどころかそこで終わらず業火の大魔法で反撃してくる始末。
ここで初めて全てを防いだ魔術師と大魔法を使う魔術師が同一の存在であると知った。
最強の盾と破滅的な鉾を持つ存在。
しかもそれだけでは無かった。
剣を手にするとかつての英雄達と遜色ない技で対抗したのだ。
流派も時代も違う英雄達の技をいとも簡単に連続して使用し、大魔法を放っても息切れの一つも感じさせず、かつての英雄を討滅した。
遂にはバールガンにまで迫り、奴を強大な聖属性の力で浄化してしまった。
そこまで来て我は再び憤怒した。
バールガンが倒されたからでも、我の存在忘れるかのような振る舞いをしていたからでも無い。
手を抜いていた事が分かったからだ。
聖属性が不浄なるもの、アンデッドの弱点である事は幼子でも知っている常識。
バールガンがその配下ほどにもなると耐性を持つようにもなるが、弱点である事は変わらない。
他のどんな攻撃よりも効く事だろう。
実際、バールガンは聖属性の力で浄化された。
それにも関わらず奴は、それまで聖属性を使わずに戦っていたのだ。
手加減されて、その程度の相手だと認識されていたのだ。
我が魔王軍が!!
加えて我に関してはそもそも眼中にないと言うかのような態度だ。
この魔王に対して!!
到底許せるものでは無い!!
精々後悔するが良い!!
だが、その機会は訪れなかった。
奴は、バールガンを浄化するとそのまま転移し何処へか消え去ったのだ。
まるで本当に眼中に無い、存在に気が付いていなかったとでも言うかのように。
……まさか本当に気が付いていなかったのか?
我が魔王だと。
探知能力には優れていなかったのか?
その考えに至ると、いつの間にか怒りは霧散していた。
もはや、立ち尽くす事しか出来ない。
だが真相が何であれ、これまでの方針通りとはいかないだろう。
我が正体がバレていない可能性があるが、それを信じ切るのは危険だ。
人の内に潜むと言う路線は変える必要がある。
しかしここに来て、力尽くだけでは危険な強敵が現れた事もある。
やはり絶望で世界を満たす必要性は変わらない。絶望こそが我の力となるのだから。
力は蓄え続けるべきだろう。
我でも勝てない可能性がある。
特に龍のブレスを防いだあの守りは突破できるか分からない。
やはり搦め手で征こう。
作戦の大部分は失敗したが、世界最大の龍脈の中心は手に入った。
メリアヘム自体は地形から原型を留めていないが、龍脈の中心である事は変わらない。
魔龍のブレスなどで莫大な量の魔力を消費してしまったが、何れそれも戻る。
バールガンが滅び制御が解かれ始めている龍脈の制御を我のものへと変更が先決だ。
地形が著しく代わり、どこが起点か分かり難いが魔力を辿れば見つけられる。
そう思ったが莫大な魔力の込められた技々が飛び交っていたこの地の魔力は荒れに荒れていた。
そこらかしこに莫大な魔力の反応がある。
それでも一際大きく、安定した魔力の波動を見つけた。
しかし、そこには別のものが存在した。
「何故ここだけ、破壊を逃れているのだ?」
ポッカリと空いた穴の底、そこには草花が茂り、一本の巨木が立っていた。
巨木の下には大水晶。
周囲はまだ煮立つ大地であるのに、ここだけは平穏そのもの。
探ると強大な結界の残滓。
最後まで耐えきり砕けたらしい。
何故、こんな所に強大な守りが?
その答であろう、膨大な魔力を秘めたクリスタルの元へ向かう。
「くっ、くはははははっ!! 我にも運は巡っていたようだ!!」
クリスタルの中、そこには、伝説の勇者シェルトベインの遺骸が眠っていた。
次話は主人公視点に戻る予定です。




