閑話 死王4 希望の星
夏至投稿です。
「光栄に思うが良い。“死滅の雷”」
闇と雷、そして死の力が込められたこの魔法は術名通り死滅をもたらす。
その雷は街を焼き払うどころか蒸発させ、他の魔力を巻き込み増幅してゆく。加えて霊的にも滅却する死の雷。
これも神代の遺物。
原悪の邪神、そしてその軍勢を討ち滅ぼす為に編み出された対神魔法だ。
どんな術も打ち砕き、物理的に堅牢であろうが実体なき霊体であろうが、そして神であろうが関係無い。全てを滅ぼす死の雷だ。
龍脈にすらも損傷を与える可能性がある事から、使う予定など無かったが出し惜しみをしている余裕は無い。
第一の目的は勇者の殲滅。
最も大きな不確定要素の排除。
逃せば神々よりも厄介な相手だ。
降臨した神々は最悪こちらが撤退すればそれだけで消耗させ最後は勝つ事が可能だが、勇者はどんな成長を遂げるか解らない可能性の塊。
弱い内に何としてでも排除しておく必要がある。
大地を穿く様な圧倒的な破滅の雷が形となりこの世に顕現する。
勇者軍は一丸となり破滅を止めようとするが、全ては無意味。
呑み込まれて打ち砕かれて逝く。
魔術も結界も、剣も盾も消失。
無駄な足掻きであるが、心より称賛しよう。
見事であった。
貴様らは紛うこと無き勇者軍。数千年に渡り人類を守り続けてきた人類の最精鋭。それを継ぐ後継。
真の勇士。
死体が残ったのならば、配下に加えてやろう。
しかしまたしても、それは現れた。
転移門より来る仮面ローブ。
死滅の雷は勇者軍に到達する前に仮面の結界に当たる。
そして破れたのは雷の方だった。
結界を砕く事も越える事も敵わず、周囲に弾けてゆく。
何故だ!?
術式も魔力すらも破壊する術式だぞ!?
何故結界を砕けない!?
だが動揺している暇は無い。
即座に二撃目を練り上げる。
「“黒槍”」
これは死滅の雷とは違う。
規模は大人しく、少し大きめの槍程度。
しかし、込められた魔力と術式の規模は同じ。
つまり土地を滅ぼす範囲魔法の威力が濃縮されて詰まっている。
予想通り、またしても奴は現れた。
馬鹿め。これで終わりだ!
「なっ……」
黒槍ですら奴の結界を砕けなかった。
そして奴は再び転移門に消える。
あまりの結果に啞然としていると、突如念話が届く。
『もうよい。作戦は変更だ。既に作戦は失敗した。我に合わせよ』
『魔王様!』
相手は魔王。
悔しいが魔王の言う通りだ。
メリアヘムは陥落したが、相手の主戦力と勇者は顕在。
これでは意味が無い。
成果と言えば、未知の強者を引きずり出せた事くらいか。しかしそれも存在が知れただけで他は未知のまま。
対処法は今のところ無い。
侵攻作戦は完全なる失敗だ。
「“ディバインスラッシュ”!!」
「なっ!?」
もはや、次に繋げるしか無い。
魔王と交戦する。
当然演技だ。
ここで魔王の正体まで知られる訳にはいかない。
味方であると印象付け、内部に潜り込む必要がある。不確定要素が多い段階ではそれが最善だ。
「遅れて申し訳ありません! この都市を包んでいた闇に阻まれておりました。ここは私に任せて避難を!」
「貴方はもしや【天翼の聖者】ミカエリアス殿!?」
「はい、ミカエリアスと申します。ご挨拶は後ほど」
しかし、勇者軍の殲滅を完全に諦める訳でも無い。
あくまで作戦の主目的を魔王への信頼度を高める事としただけ。
莫大な魔力を注ぎ込み、回復した配下と共に大儀式魔法を構築する。
防がれる事が無ければこの島が龍脈ごと消滅する事になるだろうが、もはや関係無い。
先に配下達が術式を構築し始めていた事もあり、術式はすぐさま完成する。
「「「“破滅招来”」」」
発動した我らまでダメージを受けそうな圧倒的な破局エネルギー。
闇の球体であるそれは存在するだけで周囲のあらゆるものを砕き、凄まじい天変地異を引き起こす。
雷が幾重にも轟き、砕かれた大気の代わりに風が防風となり吸い寄せられ渦を巻く。
この一撃であれば、例え防がれようとも周囲は大きな被害を受ける。
殲滅は不可能でも確実に削れる筈だ。
消耗が激しくは配下の魔族が使いものにならなくなるが、元々使いものにならないのだから関係無い。
しかし予想外の事が起きた。
奴は、目の前に転移門を開いたのだ。
「「「あっがぁぁぁぁあああっっ!!!?」」」
目前で大爆発が巻き起こる。
我は咄嗟に結界を纏う。
配下が次々に爆発に呑まれ焼かれ時には消失して逝く。
我が結界も凄まじい負荷を受ける。
まずい、このままでは!
そこに助けが入る。
転移門へ向けて放たれる空間の刃。
魔王だ。
転移門はやつと違い頑丈では無い様で、簡単に打ち砕かれた。
それにより爆発がある程度拡散し、何とか耐える事に成功する。
しかし、見れば配下は全滅。
魔王と共に啞然と固まってしまう。
そしてその間に、勇者に逃げられてしまった。
残る勇者軍も次々と退避してゆく。
人のフリをしている魔王もそこに合流する。
「これでもう私達だけですミカエリアス様も早く!」
「いえ、私は結界が無くとも自分の身ぐらいは守れます。大聖女様がお先に退避してください」
「分かりました」
一刻を争う撤退に、反論で時間を無駄にすることなく大聖女までもが退避に成功する。
だが、魔王の狙いはそれだ。
大聖女の身には神が降りている。
大聖女を不意打ちで倒したとしても、神までも倒すのは難しい。神が健在ならば魔王の正体が知れ渡ってしまう。
だからといって全員逃がすつもりもない。
狙いは最後に残り転移門を維持し続ける賢者。
奴一人でもここで倒せば、次に転移門で逃げられる様な事態も回避できる。
だがそれすらも実現できなかった。
突如現れる流星。
それはイフリートに激突し、凄まじい破壊の嵐が吹き荒れた。
加えてイフリートは魔王の方へと吹き飛ばされた。
豪炎を拭き上げたまま、流星の運動エネルギーまで得たイフリートは魔王も無視できない強大な兇器。
防がざるを得ない。
賢者を後ろから刺すどころでは無かった。
「オルゴン様! 貴方だけだも退避を!」
そしてこの状況下では人間のフリの延長しか出来なかった。
「貴方は、人類の希望です!」
「……感謝する。貴殿の事は決して忘れない」
そして賢者オルゴンまでもが転移で撤退し、遂にメリアヘムから人間が居なくなる。
魔王は本気を出せるようになりイフリートを弾いたが、結果は完璧なる失敗。
勇者軍の主戦力すらも減らせずに終わった。
そして魔王軍の拠点にしようと考えていたメリアヘムも、当初の予定と違って壊滅的な被害を受けている。
魔力を奪い去り、脆弱な状態になっていても形の残る建物が当初は多かった。魔力を戻し多少修繕すれば十分強力な砦だった。
しかし、メリアヘムは全体が燃え倒壊している。
ここまでの被害は我らの所業によるものでは無い。
天災、流星によるものだ。
我らの侵攻は謎の仮面ローブと天災と言うたった二つの不確定要素から、圧倒的優位を覆され失敗に終わるのだった。
次話は明日、投稿します。




