閑話 死王2 死の製作者
ゴールデンウィーク投稿です。
イフリート、あのゴーレムはリリアナと我の合作。
よりその内部機構、本質は死霊魔術を利用し組み上がっている。
我が技術の占める割合が大きい彼女との作品だ。もはや我が子と呼んでも差し支え無い。
そんなゴーレムが侵攻作戦の要。
イフリートは最強のゴーレムである。そうあれと造り、実際現代でもそう讃えられている。
今の錬金術師には製造法の一端も掴めていない。
それだけの技術を込めた完成度の高い傑作だ。
そもそもイフリートは普通のゴーレムでは無い。
一種の封印ですらある。
イフリートの元となったのは星鎧。
七星宝具の一つにして世界最強の兵器と謳われる無敵の鎧だ。
敵だけでなく一度稼働すれば味方すらも壊滅に追いやると言われる最強の兵器。
イフリートは元々この星鎧を人の手の届かない所に隠す為に造られた。
しかしここまで巨大で発する力の大きな七星宝具だ。どこに隠したところで何れ見つかる可能性が高い。
ならば誰にも装備出来ず悪用されないようにしよう、そして何時までも平和の為に利用されるように。
こうして造られたのがイフリート。
星鎧そのものに意思を与えゴーレムとしたもの、それがイフリートである。
元々何人にも傷付けられない無敵の防御力に加え、圧倒的な火力を誇る無敵のゴーレム。
装備者すらも稼働に必要な魔力を吸い尽くして殺すとされた最強の兵器は、限界のある装備者を必要としなくなった事で事実上無限に動けるようになり、元々それが目的では無かったが名実共に最強の兵器へと至った。
その代わり魔力の供給源として接続しているメリアヘムの龍脈上から離れられない、メリアヘムの外に出られなくなってしまったが、我が魔王軍侵攻においてはそれで問題ない。
メリアヘムさえ破壊出来れば良いからだ。
それに全てが終われば我ならばイフリートを再構築出来る。
では何人にも悪用されない為にゴーレムとしたイフリートをどう動かすのか。
堅牢無類たるイフリートだが、外部と繋がる道が一つだけある。それはエネルギー供給源である龍脈とのライン。
そこから侵入すればいい。
ただの魔力の吸い上げ口からイフリートの操作を奪うのは本来不可能に近い。
しかし我は製作者にして死霊魔術を極めし死者の王。
魔力自体に近い疑似霊魂を作製し、龍脈を通らせ異物では無くアップデートと誤認させ内部を再構築させる事ができる。
侵入と書き換えを優先した為、簡単な命令しか聞かせる事は出来ないが、それは問題ない。
それだけイフリートの力が強大だからだ。
イフリートに細かな作戦など必要無い。標的を攻撃させるだけで全てが終わる。
イフリートは計画通り動き出した。
見張りの排除にも成功していたらしく、敵が無抵抗なままイフリートは砦を突破した。
目指すは八つの大結界の内の一つを展開するエスティマの塔。
しかし真の目的は大結界の解除では無い。
エスティマの塔自体にある。
あそこは、我と彼女の研究室があった場所。
塔の事は知り尽くしている。
真の目的は大結界では無く、それを展開する魔力を供給している龍脈だ。
容易くエスティマの塔は崩れ落ちる。
そして龍脈が塔の管理下から離れた。
我はそれを待っていた。
残る薄い都市結界を破りメリアヘムへと降り立つと、我は龍脈の支配を開始する。
エスティマの塔の制御下から離れたとは言え、この龍脈自体の性質は変わらない。かつて何度も利用した慣れ親しんだ魔力の源泉。
本来ならば百年かかる事もある龍脈の掌握を数分で終わらせる。
しかし他の区画はそうもいかない。
まだ勇者軍共の支配下にあるからだ。あくまでも掌握できたのはエスティマの塔が支配していたこの都市の8分の1程度の範囲。
だがそれで十分。
膨大な魔力を手にした我はこの日の為に用意した大魔術の構築を始める。
メリアヘムは比類なく堅牢だ。
ここよりも守りの堅い場所など、世界各地、如何なる時代を探しても存在しない。
常にその時代の最高の技術を蓄積して来た。
過剰とも言える防御力だ。
人類に陥落させる事は不可能とすらも言える。
しかしそれでも欠点は存在する。
それは莫大は魔力が必要な事。
メリアヘムはもはや全体が魔道具と言っても良い。ありとあらゆる強化魔法が織り込まれ、魔法が付与されていない建造物は皆無だ。
魔力に支えられている街から魔力を奪えばどうなるのか、想像に難くない。
龍脈の支配権を奪い魔力の供給源を絶ち、ここで残る魔力も奪えばメリアヘムなどただ巨大なだけのハリボテだ。
それだけで最も堅牢な要塞都市から最も脆弱な都市に変わる。
「“闇へ堕ちよ”」
術式が完成し、エネルギーを奪う深淵の闇が発生する。
触れたものから生命力と魔力を奪い、そのエネルギーで闇は増幅しながら都市を侵食する。
本来、この魔術だけならメリアヘムの防衛力を落とす、十全に力を発揮出来ないまでに機能を阻害する程度の事しか起きない。
この世界最大の龍脈から幾らでも魔力を補給できるからだ。そしてその龍脈は守るまでも無い。
勿論、龍脈を制御する施設の守りは可能な限り強固なものだが、龍脈自体がどうにかされるなど、想像の埒外だ。通常、侵攻が行われる様な短時間で龍脈を奪う事など不可能だからだ。
我もこの都市にいた頃はそう考えていた。
だがだからこそ、我はその隙をついた。
結果は予想通り。
呆気ないほどメリアヘムは脆弱になった。
ものによってはただエネルギーを奪うだけで倒壊してゆく。
嗚呼、人間だった頃、あれだけ頼もしく偉大に思えた人類の象徴は、こんなものだったのか。
彼女と造り上げた建造物も倒壊の波の中にあった。
アッシュールを喪い、痕跡の消えた我に残された、アッシュールに残された唯一の足跡が消えて逝く。
だが構わない。
あれは彼女と言う我の愛した一人の人としてでは無く、天才錬金術師としてのみの側面を求められたカルヴァリエの象徴である。
そんなもの、この世に必要無い。
アッシュールは永遠に戻らない。
浄化された魂は輪廻に還り、再びこの世に降り立つ事は無い。共に戦った皆の魂がこの世に戻る事は決してない。
我に成せるのは復讐だけ。
ここにある痕跡だけがアッシュールのあった証拠だ。
彼女との思い出だけに留まらず、アッシュールの記憶はここで全て潰える。
しかしそれで良い。
誰も戻れないのだから。
元々、我の記憶の中にしか残っていないのだ。
残っていても、それは我らを悪しきものとして貶す偽りの記録。そんなものに意味は無い。
そんなものしか無いのならば、それも含めて手向けとして備えよう。
全て等しく無に帰すのだ。
それだけが我らを唯一の永遠にする。
全てが無であれば我が記憶だけが唯一の永遠。唯一の栄光。
唯一遺る我が定義してみせる。
皆は確かに在ったと。
皆は最高であったと。
我はこの世で最も幸運な君主であったと。
100話目投稿記念ですが、とりあえず【モブ紹介】に原文(作者読み返し用)を投稿しました。基本内容は変わりません。
また、カクヨムでの投稿も開始しました。まだ先になりますが、閑話の視点をいくつか入れ替える予定です。これを以って100話目投稿記念としたいと思います。
尚、次話も閑話が続きます。
追伸、次話は夏至に投稿します。




