ボッチ9 ボッチ魔術を覚える
俺は縮こまり女神様から顔を背けながら、ただただ魔法の修行を繰り返す。
ある種の現実逃避だ。
なんか現実を逃避した先にあるような世界に転生したのに、現実逃避ばかりしている気がする。
もう一日中風でも出していようかな?
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
スキル〈風属性魔術〉を獲得しました》
途端、俺が生み出す風の大きく吹き荒れる。
風で手の間に浮かべていた水晶玉は遥か上空に。
スキルを獲得して風魔法が格段に強力になったらしい。
風魔法の修行が終わった。
俺の現実逃避先は修行にも無いようだ。
いや、まだ他の属性がある。
バッゴーンッ!!
ちょうど飛ばされていた水晶玉も落ちてきた。
……危ない。あと少しずれていたら二度目の転生を味わうところだ。流石にそこまでは現実逃避先に苦労していない……と思いたい。
何にしろ今は修行だ。
俺は水晶玉に水を望む。
途端、流れ落ちる水。
少し方向を間違えて足がびしょびしょだが今は関係ない。
水の流れ、魔力の流れを意識しながらゆっくりと手を離す。
「あがっ!!」
自分から出始めた水に加速された水晶玉が俺の爪先に激突。
だが今ばかりは関係ない。すぐに引く痛みなど何ともないのだ。
今は永遠に消えない傷《黒歴史》から逃げるとき。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
スキル〈水属性魔術〉を獲得しました》
……早い。
水は水晶玉で使いまくったのせいかほぼ一瞬の獲得だった。
…………。
次だ次!
さっさと水晶玉を拾って石を出す。
勿論、爪先から離しての使用。
『凄いへっぴり腰になってますよ』
女神様から体勢を指摘されるが無視する。
現実逃避が最優先だが当然痛いのはごめんだ。
俺は実益を優先する男。
どうせ友達の一人も、異世界のここでは知り合いの一人もいないから格好を気にしてもしょうがない。
女神様には醜態という醜態を見られているからこの程度今更だ。
『……なんかすいません。でも、ボッチ脱却するには普段から最低限の身嗜みは気にした方がいいですよ』
「……」
また同情された。
女神様とはまだ短い付き合いの筈なのに、既に何回同情されたのだろうか……。
俺、神様に同情される程の前世?
……あれ?
水魔法の修行はやめた筈なのに目から水が。
無心だ。
……無心で修行を続ける。
《熟練度が条件を満たしました。
ステータスを更新します。
スキル〈土属性魔術〉を獲得しました》
へっぴり腰のまま石を生成し俺はお目当てのスキルを獲得した。
足元を見れば大量の石が積みあがっている。回転しながら生成した結果、足の周りにバケツ程の隙間しか無い程だ。
さっきまで風と水しか出してないので気が付かなかったが、俺は予想以上に魔法を使っていたらしい。
これだけやればスキルを獲得出来ると、納得の量だ。
逆に魔法を学ぶのに普通は時間がかかるというのも理解出来る。
俺は平均の十倍魔力が有るらしいから、俺の十分の一以下の魔力が平均。まだ平均に届かない子供なんかが練習しても一日でほんの数個しか石を出せない。
しかも道具がないと初めから魔法を使えないから、そこまでにも時間がかかる。
そりゃあ、魔法の習得に時間がかかる訳だ。
ふっ……、やはり俺には魔法の才能がっ!
『へっぴり腰のまま格好付けてもアホなだけですよ』
いけない。考えていた事が行動にも表れていたようだ。
これでは厨二病疑惑が確定してしまう。
うむそうだ、この深淵の底から溢れ出る我が大いなる魔法の才能、これを元に我が正統性を示して見せよう。
「格好付けているんじゃないです。我が秘めたる大魔導王の片鱗が、封じきれず溢れているだけです」
だから俺は厨二病ではないのだ。
演じているのではない。本物であるから仕方がないのである。
『厨二病確定ですね』
「何故っ!?」
『……動画で撮ってあげましょうか?
あと教えてあげますが、貴方が魔法をすぐに覚える最たる原因は、スキル〈魔力操作〉ですからね。勿論異世界勇者であることも関わっていますが、〈魔力操作〉と比べると些細な違いです』
「〈魔力操作〉?」
確かにそんな名前のスキルを昨日獲得した。
『〈魔力操作〉は魔力を操作するスキル、魔力を術とする魔術ではなく魔力を直接操作する力です。例えるなら魔術は電気で灯りをつける術、魔力操作は電気を直接使った落雷。こんな違いがあります。まあ電気を使うと電気を操るの関係と言うことですね。
つまり、魔力操作は魔術よりも難しい技術なんですよ。本来はこのスキルを魔術スキルよりも先に獲得することはありません』
どうやら魔力操作は高等技術だったらしい。
成り行きで獲得したのに……。
「ん? でもそれって結局は俺に才能があるってことなんじゃ?」
『確かにありますね。隠しきれないボッチの才能と馬鹿の才能と厨二病の才能が』
「…………」
ただ光を求めて確認しただけなのに何故かより深き暗闇に突き落とされた。
『覚えてませんか? 〈魔力操作〉を獲得したのはあり得ない程の魔力消費と回復を繰り返したからです。そりゃそんなに魔力任せで無理矢理魔術を発動し続けたら、術式の根幹にある魔力の動きだって理解出来ますよ。
一応地球の女神なので詳しくは分かりませんが、きっと前代未聞ですよ? 貴方みたいな方法でスキルを獲得したのは。魔力任せならいくらでもあるかも知れませんが、使いきった魔力を何度も回復させてまで魔術の行使を続けるなんて正気の沙汰ではありません。しかもたかが薪を出す為だなんて、ある意味歴史に残りますよ?
例えるのなら天然水を飲むために必死で走りながら、何本もの水道水を飲み干して山に水汲みに行くようなものですからね?』
「…………」
話を聞くと本当に俺にあるのは魔法の才能ではなく馬鹿の才能だったらしい。
薪出し、結構頑張ったのに……。
………………。
いやいや、俺は賢い男。
ここで認めてしまっては駄目だ。俺はボッチ厨二病馬鹿と言うことになってしまう。
そもそも一つでも当てはまっては不味いものが三つ揃うなどそうそうあり得ないのだ。しかもそんな激レアな人間がさらに激レアな現象、異世界転生されて、しかも集団勇者転生の筈が一人だけ別の場所に転生される確率なんかある筈がない。
故に俺はボッチでもなければ厨二病でも馬鹿でもないのだ。なんせ奇跡的な確率、いや奇跡によって異世界転生を一人だけ別の地で果たしたのだから。
『変なところは頭が回りますね。知力も十倍になったからですかね?』
未だに俺をボッチ厨二病馬鹿と断定している女神様が何か言っているが無視だ無視。
同時に反論もしない。
出来ないのではない! 心の広い俺は何でも受け入れてやるのだ!
本当に反論出来ないから反論しないのではないのだ!
あと目から流れている水は習得した水魔法である!
…………とりあえず俺は、無心で修行の続きをすることにした。
次話は2時間後に投稿します。




