プロローグ
激しい爆発音が静かな集落中に鳴り響く。
「え、思っていたよりド派手なんだけど」
立ち上る白煙には石や砂が混じり、それらは礫となって降り注いでくる。
「これは本格的だなあ。初心者には厳しいレベルのアヤカシがこのタイミングで出現するのはまずいよな」
「システムの不具合? バグ?」
自分たちの周囲を複数の唸り声が取り囲み、その声は少しずつ距離を縮めているというのに、男二人は冷静に分析しつつ手首にはめている腕時計型端末に視線を向けた。
ちょっとわからない、と片方の男が答えた。
「そういう分析はひとまずこの危機をクリアしてからにしませんか」
呆れたようにくちばしを挟んだのは若い女性だった。彼女も彼らと同じ端末を手首にはめている。
「バディを呼び出すのはここをタップするんでしたよね」
彼女がそう確認したときにはすでに目の前には狼の姿をした大型のアヤカシが躍り出た後だった。
長く突き出た三本の爪を振り下ろしてくる。
それが合図のように、四方八方から同じ姿のアヤカシがぞろぞろと現れた。
その場に居合わせた男女五人は、同じタイミングで、同じ仕草で手首の端末に触れた。
ふわりと舞い上がる爽やかな風が、土や小石が混ざった獣臭のする白煙をかき消していく。一人、また一人と浮かび上がる影は徐々に輪郭を明確にさせ、やがてはっきりとした姿を見せた。
真っ白な軍服に身を包んだ初老で長身の紳士、振り袖を現代風にアレンジしたミニスカ少女、ペスト防護マスクに黒のロングコートで性別不明の不気味な医師がなにやら得意げにポーズを決めている。
ほんのわずか遅れて姿を見せたのは、5匹のちいさな虎を引き連れた、スーツ姿の美青年と時代劇でよく見るくたびれた感たっぷりの浪人。面倒くさいのかすこぶる仏頂面だ。
かなり個性的なキャラデザインだが、待望のバディが現れた。
四面楚歌の状態を打破するための強力な助っ人だ。プレーヤーである自分たちと力をあわせてアヤカシを撃破する……重要なキャラクター。
「……地元に関係する歴史的人物とか、そういうのをキャラクター登録したんですよね」
「したよ? あれ、ピンとこない?」
「ぜんぜん」
「まったく」
「こねーんだけど!」
まるで打ち合わせしたかのような連携で紡がれる困惑のセリフ。
「あの、お名前、聞かせていただいてもよろしいですか?」
紅一点が恐る恐る訊ねてみた。キャラデザインのせいでわからないだけかもしれないのだ。名前を聞けばきっと。
凝った刺繍が施された袖を翻し、白軍服の紳士が答えた。
「福羽逸人だ」
全員が息を飲む。
え、と息を漏らした刹那、しびれを切らしたアヤカシが一斉に飛びかかってきた。
「誰それ、知らないぃぃぃぃぃ」
断末魔とはほど遠い叫びが、ゲームステージに選ばれた廃村や山々に響き渡った。




