7.入学式、前編
講堂についた。
ここで入学式が行われる。
さきほど先生に呼び止められた俺は少し遅れて中へ入った。
「おわ、ほとんど生徒入場してんじゃん」
講堂には1階席と2階席がある。
1階席には式の主役となる1年生が、2階席には2,3年生が席に着いている。
座席はさらに細かく指定されており、クラスごとでまとまって座るように決められている。
左側がAからD組、右側がE~H組である。
成績のいいクラスからグラデーション式に配置される。
俺は遅れつつも一番右手に位置する自分のクラスの空いている席に座ろうとした。
端に座るおにぎり頭のぽっちゃり系の男子に声をかける。
「すみません、ここ座ってもいいですか?」
彼の隣には誰も座っていなかった。
そのデカい体ゆえに誰も座らなかったのだろう。
イスが小さいのが原因の一つだな。
学園の経費をこのイスの拡大ために使ってもいいのではないかと、内心思いながら返事を待つ。
「……あ……どぞ」
「お、ありがとう」
その威圧感たっぷりな体つきに反しておとなしめの口調で男子は応対する。
この学園では珍しいタイプの性格だな。
多くの生徒は貴族や衛兵家系の生まれだったりするので、変にプライドが高く高圧的なやからが多いってカロナから聞いたんだけどな。
それに比べると、隣に座る大柄の男子はずいぶん穏やかにみえる。
こりゃまたずいぶんと無骨なキャラだな。
俺が隣に座ると、彼は自分の巨体のせいで俺に迷惑をかけないようにと必死に体を端に寄せる。
「別に気を使わなくていいぜ。気持ちだけで十分さ」
「……か、かたじけない」
「イスが小さいのが問題だ。別に君は悪くないと思う。……おっと自己紹介がまだだったな。俺はメナ=ソウド、よろしくな」
「よろしく……。僕はハルゴ=シルディ。ジョブは……盾士。た、耐久力……自信ある」
俺たちは自己紹介を済ませると握手する。
盾士のハルゴ=シルディ。
彼のデカい体が盾士向きであることは明らかだ。
体の大きい人がタンク職を引き受けることが常識だし。
盾士ということで刀士の俺と相性はよさそうだ。
彼とは仲良くなれそうだとなんとなく直感した。
「よろしくな、ハルゴ。やっぱり君は見た目どおり盾士なんだな」
「よく言われる……。メナは……何のジョブ?」
「俺は刀士だ」
ハルゴが俺のジョブを聞いてきたので、俺は躊躇なく刀士という自分のジョブを口にする。
もちろん理解されないことは想定している。
「かたなし?」
彼は予想通りのリアクションを見せた。
公的には存在しないジョブだから驚くのも当然だろう。
刀士とは俺が発明した刀という武器を扱う俺専用のジョブだ。
俺以外にこれを知っているのは故郷の村人たちだけだ。
「ちょっと特別なジョブなんだよ。説明するの面倒だしこれ以上はあえて言わないや。また機会があったら教えよう」
「へえ……なんだか面白い。……その紙は……関係ある?」
ハルゴは宣誓の原稿を指差す。
「ああ、これはちょっとした頼まれごとさ。別に刀士とは関係ないぜ」
「ほお」
いまこの場で「学術試験トップだった俺が新入生代表として宣誓を任されたんだ」と言ってしまえば、おおごとになる可能性がある。
それを危惧した俺は、この原稿について詳しく言及することを避けるべきだと判断した。
「ほら、それよりも司会の先生が壇上に上がってきたぞ」
「うん」
俺たちはいったん話をストップし、式の開始を待った。
本当は代表として選ばれたことを自慢したい気持ちも少しだけあったが、それをぐっとこらえて式に臨んだ。
◆
入学式がはじまってから1時間くらい過ぎた。
俺たちは入学式ならではのありがたい話を退屈そうに聞いていた。
そして入学式もようやく終盤になりつつある。
これから生徒会長のあいさつだ。
「それでは次に生徒会長、セイラ=エルメスによる祝いの言葉です。エルメスさん、どうぞ」
先生に代わってセイラ=エルメスという生徒会長が壇上にのぼった。
彼女はカロナと同じくエルメス家の娘であり、カロナの姉らしい。
姉妹そろって真面目そうな黒髪の巨乳女子である。
その美しいルックスに男子たちも目を奪われている。
セイラは背筋をピンと伸ばし、笑顔で正面を見つめてマイクを握った。
「1年生のみなさん、アルメナ学園ご入学おめでとうございます。私、セイラ=エルメスも心から祝福させていただきます。さて、この学園に入学されたみなさんは立派な教育を受け、ゆくゆくは偉大なる冒険者となり悪の権化、魔王から人々を救う人材となることを期待します。 私はこの学園のすべての生徒を一人の冒険者として尊敬しております。一人一人がたくましく健全に学園生活を送ることを心よりお祈りいたします。これをもちまして私からの言葉とさせていただきます」
「「わあああああ」」
セイラのあいさつが終わった。
その素晴らしい言葉に俺たちはただただ拍手を送った。
彼女に魅了された俺は右目のコンタクトレンズをはずす。
俺は彼女のオーラを確認する。
「おお、白だ。カロナと同じだ」
俺の右目はその人の感情を読み取ることができる。
白なら正義的な感情、黒なら悪感情という具合に感情を色で判定することができる。
ちなみにピンクが恋愛感情だったりする。
俺はこの能力をめったに使うことはないが、今回はどうしても彼女の心の色を見たかったので、レンズをはずしてしまった。
彼女から発せられるオーラはきれいな白だったので、彼女が仏のような聖人であることが一目でわかった。
その聖人は俺に視線を合わせると、優しく微笑んだ。