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Sランク魔力持ちの天才冒険者、刀というユニーク武器とともに学園最強を目指す   作者: メナ=ソウド
第2.5章 魔法刀製作:研究発表編
66/74

66.研究発表会、水属性×風属性=氷属性

 会場は戦慄した。

アイスブリーズ……クロの披露した氷属性のスキルは観衆たちをどよめかせた。

それにも関わらず円形の闘技場、360°から称賛を浴びたその男は平静を装っている。


「間違いなくあれは氷属性……。クロのやつマジで見つけやがったのか!?」


控え室にて、やつの発表を聴講している俺も感嘆の声をもらす。


クロは未確認とされていた新種の魔素を見つけたという。

そのタイトルを聞いただけでも驚かされたものだが、こうして目の前でデコイがカチンコチンに凍らされている光景を目の当たりにすると、唖然とするしかない。


こんなにすごい発見をしたのにも関わらず、クロは謙虚にもポーカーフェイスを保ちながら、続けて理論の発表に移った。


『今お見せしましたのが氷属性のスキルです。すなわち、氷属性の魔素を発見したということですね。理解していただきましたか? それでは氷属性のメカニズムについて発表させていただきます』


淡々とした調子で言うと、クロは指をパチンと鳴らしアシスタントの子らに合図を送る。

合図を受け取った彼女らはパワーポイントを起動し、ステージの真ん中に設置されている特大の全方向対応のスクリーンにその映像を映す。




______________________________________________



  氷属性の魔素の発見及びその応用について



   アルメナ学園 クローバ親衛隊


   1年A組 ノマン=クローバ



                  1ページ目

_____________________________________________






スクリーンにでっかい文字でパワーポイントの映像が写し出された。

全ての観衆が見れるように、スクリーンは四方向に設置されている。

メチャハイテクなスクリーンだ。


そんなことはさておき、タイトルは氷属性の魔素の発見とその応用ということらしい。

一体どんな発表をしでかしてくるのか、期待の眼差しで彼を見つめる。


『まずは簡単な導入として、本研究を取り組むに至った過程を説明させていただきます』


クロは再び指を鳴らしてアシスタントに合図する。

すると、パワポの画面がカチッと切り替わる。


"カチッ"


その瞬間、俺は言葉失った。


「……っ!?」


画面に写し出されたのは、焼け焦げた闘技場の写真であった。

闘技場全体が甚大な火災によって焼き尽くされた跡。

ギャラリー席から戦闘フィールドまで、至るところが黒い炭となっている画像。

……間違いない。

その残骸は明らかに見覚えがある。


(ちょっ、これ新歓戦のときに俺が燃やしたやつじゃん!)


思い出したくもない俺の黒歴史がよみがえる。

Sランクの魔力を持つ俺が止むなしにファイアボールを放ってコロシアムを火の海させたときのものだ。


(それにしてもいったいなぜこの写真を?)


その疑問に答えるかのごとく、クロが口を開けた。


『いくつか理由があります。今お見せしているのがその一つと言っていいでしょう。……これは2ヶ月程前に行われた新入生歓迎戦の際に事故で発生してしまったコロシアムの火災の写真です』


「どーいうことかわかんねーぞーー!」


観客席からがらがら声でヤジが飛ぶ。

学生にしては老け込んだ声だったので、声の主はおそらく来賓の方だろう。

さしずめどこかの研究所のおっちゃんだろうな。


『はい、すぐにお答えします』


クロは丁寧に応対する。


『事故が起こってしまうのは仕方ありません。0にすることなど不可能です。しかし素早く対処することは可能だと思うのです。あのとき、もっと消火の早い魔法が存在していれば……ですよね。そこで考えたのです。水よりももっと早く消火できる方法を。水よりも数段温度の低い氷。これを用いた魔法を作れないのか?……と。』


クロは熱弁する。


たしかあのとき優秀な魔法士たちが水魔法で頑張って消火活動をしてくれたんだっけ?

それでも間に合わなかった。

コロシアム、焼け焦げちゃったんだよね。

結果的に建て替えることになっちゃったんだよな。

そんで土木関係の職についている腕利きの職人さんたちが、土属性魔法を駆使して、1ヶ月くらいで再建されたんだよなあ。


……って今はそんなこと考えている場合じゃない。


とにかくクロはあのときの火災を目の当たりにして、少しでも早く鎮火するためにはどうすれば良いのかということを考えていたわけだ。

そんなことを思慮にも入れず、勇者党のメンバーとのほほんと過ごしていた俺とは大違いだ。

彼は俺たちの知らないところで世の中のために奮闘していたわけだ。

あいつのそんな人間的偉大さに俺は感服するしかない。


『オホン、これが僕が氷属性を見つけようと思い立ったきっかけなのです!』


「「「わああああああ!!」」」


クロは理路整然と完璧な動機を力強く語った。

そんな彼に再び歓声が上がるのは言うまでもない。

うん、あいつすげええわ。

俺は嫉妬を通り越して尊敬する。





 そのあともクロは上手な物言いで、観衆を納得させながら発表を進めていった。

発表内容はかなり高度なものなのだが何ぶん口が上手いので、なんかわかった気にさせられる。

口が上手いやつってのはそういった特徴がある。

同じ発表者であり優勝を目指す俺にとって、こいつは厄介な相手だ。


『さて、ここからが本題です。氷属性の魔素の生成についてです』


"ゴクッ"


俺は唾を飲む。

同じように会場にも緊張が走る。


さあ、ここからが俺たちにとって一番興味のあるところだ。

学者たちも表情を一変させ、真剣に話に食い入ろうとしていることだろう。


『一般的に世界には火、水、土、風、雷の5つの属性が存在するのいわれていますね。しかし、これは《縮退(しゅくたい)》した状態で観測されているものです。本来なら何種類もの魔素が存在するはずなのですが、その縮退の効果により実際に見られるのは5属性という結果になっているのです。この通説はあの《シュータルク=リフリッツの属性縮退理論ぞくせいしゅくたいりろん》としてご存知の方もいられるかもしれません』


ほう、《シュータルク=リフリッツの属性縮退理論》か。

クロのやつかなり高度な理論を使ってきたな。

確かに魔素理論方面の業界では縮退効果の説は有名な定理ではあるが、学園の教育だけじゃ到底理解できる領域ではない。

俺のように小さい頃から学問は励んでいた人間しかこの話にはついていくことができないだろうな。

見たところ生徒たちも「はじめて聞いたー」みたいな顔をしているし。

どちらかというと学生ではなく研究者向けの発表だ。


『僕はこの説のもと、縮退をほどく……つまり新たなる属性を発見しようと思い立ったわけです。方法は簡単です。"水属性と風属性の魔素をある方法で組み合わせる"のです』


「「なんだってーー!?」」


クロが方法を簡単に説明すると、それに呼応するかのようにしてギャラリーから驚きの声々が上がる。

小難しい理論の話は完璧にはわからないが、とにかく氷属性を作るのに水属性と風属性を混ぜれば良いという。

そんな誰でも思いつきそうな簡単な方法で新たな属性が生まれるということに、みんなは驚きをかくせないみたいだ。


(マジでそんなことができるのか?)


一方で博識な俺は疑問に思う。


確かに縮退を解くには魔素間になんらかの相互作用(ここではクロ曰く水属性の魔素に風属性の魔素を混ぜるということだが)を働かせる必要がある。

しかし、ただ単に混ぜただけでは単なる線形結合に過ぎないので、今の言葉を信じるにはまだ早い気がする。

といっても、さきほど実際に氷属性のスキルを使われたので氷属性が存在するのは間違いないはずなのだが。

何か特別な混ぜ方があったりするのかな?

とにかく続きを聞いてみなければ。


『これを見てください』


パワポが新たなページに移る。

なんというか数式が色々でているページだ。


_________________________________________


・熱力学第一法則


△U=△Q+△W

  =△Q-P×△V


△U:内部エネルギーの変化量

△Q:熱量の変化量

△W:仕事の変化量


P:圧力

△V:体積の変化量



・定圧変化において


U=(5/2)×N×T×R


U:内部エネルギー

N:粒子数

R:定数

T:温度


                 6ページ目

__________________________________________



『要は温度を下げれば良いのです。スクリーンに映っているのは熱力学第一法則及び、定圧変化における気体(魔素も含まれる)の内部エネルギーと温度の関係です』


「温度を下げるということが、氷属性を生むということか?」


審査員とおぼしき一人が問う。


『ええ。そこで特殊な混ぜ方を導入します。まず、複数の水の魔素を球殻のように並べます。そして、その殻の内側に風の魔素を埋め込みます。例えるならタマゴです。白身(しろみ)が水で黄身(きみ)が風です。水属性と風属性を同時に扱える方は僕と同じようにやってみてください』


クロが両手で魔素を操りながら説明する。


"ざわざわ"


「よし、やってみるか」

「ですね」


「私はできないよー」

「ワイもできへんわー。水属性と風属性を扱えるなんてその時点で条件厳しすぎるやんー」


みんなはざわつきながら真似する。

水属性と風属性に適性のある人間といえばかなり絞られるが、それを満たす人々は直ちにその場でクロの言うとおりにする。

彼らはおぼつかない手つきで水属性と風属性の魔素を結合させた。


「シホ、頼む」

「オッケー、任された!」


勇者党のなかで今の条件を満たしているのはシホだけなので、ここは彼女に頼む。

敬礼のポーズで快諾してくれたシホは、右手で水属性の魔素を集め、それを球殻の形にコントロールする。

次いで左手によって風属性の魔素をその殻の内側にねじ込む。


――すると。



「…………」



……反応ナッシング!


「うーん、やってみたけど銀色の魔素なんてでないねえ」


見たところ水色と緑色の魔素が重なっているだけだ。

どうやらこれだけでは氷属性は作れないみたいだ。

もしかしたら他にプロセスが必要なのかも。

ここはやつの指示を待つとしよう。

他の観衆たちも上手くいっていないみたいだし。


クロからの指示を待った方がいいと判断した俺は彼の方を見る。


そんな俺たちの視線に気づいたクロは何か察したような顔をして、説明を続けた。


『あっ、すみません。今の段階では氷はできません。続きがあるのです。みなさん、風属性の魔素だけに力を注いでみてください。黄身を爆発させるような感じお願いします。そしたら上手くいきますよ。結構難しいと思いますが』


この作業は結構難しいらしく、できないものが多数いるということ。

彼の予想が当たったのか、この会場内にいるメンツで成功した人数はかなり少なかった。

しかし、きちんと成功しているのだ。


「「やったああ、できたああ!」」


会場から幾つかの歓声が聞こえはじめる。

どうやら氷属性の生成が上手くいったみたいだ。


「アタシもできたー!」


俺の隣で感激の声を出すのはシホ=ハーティ。

フォーカードとしてたぐいまれなセンスを持つ彼女もまた氷属性の生成に成功していた。


「おいおい本当にできたじゃん! めっちゃ銀色だ」

「やるじゃないの、シホ!」

「さすがでござる」

「お見事……」


こうして至近距離でみていると薄々原理がわかってくる。

まずは黄身、すなわち風属性が内側から膨らむことにより、球殻の体積が増長する……と。

そしたら球殻全体の温度が急激に冷え、氷属性の魔素が生成されるって魂胆か。

どうもそういうトリックらしい。


(……にしても本当にみたこともない属性の魔素だ。クロのやつよくこんな方法を思い付いたものだな)


俺がクロに感心していると、その彼が補足説明をはじめるべく咳払いをした。

クロはギャラリー席を見上げた。


『熱力学第一法則。圧力と粒子数が保存したまま熱も加えず体積だけが急激に膨張する。このとき内部エネルギーは急激に減少し、温度も下がります。そうすることで氷属性の魔素が現れるのです!』


なるほどな。

急速に体積を膨張させるには、風属性の魔素しか考えられないんだな。

だから水属性と風属性を混ぜなければならないというわけか。


彼の説明に俺は納得した。





 このあとも発表が続いた。

審査員からの質疑応答があった。

クロはそれらに対して丁寧に受け答えし、難なく高評価を集めた。


最終的に彼の発表は100点満点のうち96点だった。

これまでのチームの平均点が60点といわれていたこの状況で、一年生である彼らがこれほどのスコアを残すのは異常なことだった。

ノマン=クローバの恐ろしさを今一度感じさせられた。

彼に対する認識を改めさせられた。


優勝を狙うためにも、俺たちはこの化け物に勝たなければならない。

普通なら不安で押し潰されそうだが、俺は無意識に武者震いしている。






※研究の動機、裏設定

クロは炎の対策として氷を思い付いた。

メナがコロシアムを燃やしたのがきっかけ。

でも本音は炎属性(ファイアボールしか使えないと勘違いしている)を得意とするメナの対策を練りたかったから。

ちなみに氷山都市であるノースランに赴いたのもこのことと関係があったりする。


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