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Sランク魔力持ちの天才冒険者、刀というユニーク武器とともに学園最強を目指す   作者: メナ=ソウド
第2.5章 魔法刀製作:研究発表編
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63.研究発表会、ポテチの布教の昼休み

 昼休み。

俺は今、コロシアムの応援席の最上階に位置するVIPルームの扉前までやってきている。


(どうしてこうなった?)


「ほ、本当に行くのか、カロナ?」

「ええ、大丈夫よ。おいしいのだから自信持って!」


VIPルームでは、王様含めたくさんの偉い人たちが、この研究発表会の昼休みの時間を使い、立派なテーブルのもと高級な昼食でも交えながらお互いに親睦を深めていることだろう。


そんな高貴な方々の、華麗なる昼食会に乗り込もうとしている。

研究発表会の最中にも関わらず、俺たちは出来立てのポテチを片手に王様たちのもとへ乗り込もうとしていた。




数時間前。

1年H組応援席にて。


 「ポテチを国王様たちに布教しようと思うの」


ことの始まりはカロナの第一声からだった。

彼女には商の才がある。

ポテチを売れば繁盛できる、そう確信していると主張するカロナは本気で俺に提案してきた。


「いやいや、お前状況わかってんのか? 研究発表会なんだぞ!」


俺は至極全うに答える。


カロナ=エルメスよ、冷静に考えてほしい。

たしかにポテチは旨いし、布教できるポテンシャルを持っているだろう。

しかしだ。


今は研究発表会の真っ只中なのだ。


一生懸命研究してきた成果をこの大舞台で披露するという素晴らしい場なのだ。

そんなところに「ポテチどうですか~?」などと言ってポテチを布教するような真似は愚の骨頂。

さすがの俺もこれには賛成しかねる。


「そんなことわかってる、だからこそなのよ」


カロナは上段に見えるVIP席を指差す。


「は?」

「研究発表会開催中の今、王様や貴族などの身分人たちが一つの場所に集まっている、あのVIPルームにね。こんなチャンス早々にないわ」


「おお、なるほど、一理ある」


これもエルメス家の性というやつなのだろうか。

カロナの家は王族の中でも、とくに商社系を売りにしている。

以前、エルメス邸で指輪くれたおじさんもそうだった。

それ以外にも、1回目に訪れたときに見せてもらったたくさんの衣装がある部屋もそうだ。


このようにエルメス家はそういった多様な業界の人たちを相手に売買しているのだ。

その性質が彼女にも移ったのか、金持ちにも関わらずカロナはビジネスにからむ話になると敏感になる。

思い返してみれば、ウェルメナ温泉の民営化発言もそうだったのだろう。


……そう考えれば、カロナがポテチ布教発言をすることもおかしくはないのかもしれない。

しかも、妙に説得力のある動機を重ねてくるから、なおさらたちが悪い。


「で、でもさあ。偉い人が集まっているなら警備が厳重だろ?」


コロシアムの最上に位置する応援席がVIP席、VIPルーム。

位の高い人がそこに集まっているわけだが、その分たくさんの警備がいる。

平民の学生である俺はまずあそこに行くことすら難しいだろう。


「それにもしたどり着けたとしてもだ。あそこで『ポテチ持ってきました~、食べてくださーい』なんて言えたら勇者だぞ。もし舌に合わなかったら死刑にされかねん。リスク高すぎるとおもうのだが?」


渋る俺は現実的な問題をつきつける。


「大丈夫よ、それなら問題ないわ」


「ほう、その根拠は?」


「顔パスよ。私を使いなさい」


そう言うと、カロナは俺の腕を掴み俺を連れて応援席を去った。




 カロナに連れられ、顔パスによってコロシアム内部の関係者以外立ち入り禁止の廊下を歩き、とある場所へとたどり着いた。


「ここはもしかしてキッチン!?」


数台のテーブルがあり、その周辺には水道やガス、調理器具などが用意されている。

それを見た俺は悟る。

どうやら厨房に連れてこられたらしい。


「コ、コロシアムにこんなところがあったのか」


俺は思わず声を漏らす。

闘技場、コロシアムといえば、まさに戦いのスタジアムである。

そんな建造物の内部にこんな場所があるなんて。

すごいハイテクに進化したものだな。


「以前誰かさんが初等魔法でここを壊したからね。その修理の際このキッチンが設置されたのよ」


「へ、へえ。俺のせいだったんだ」


コロシアムがハイテクになり新しく進化したことは嬉しい。

が、それと同時にその原因を作ったのがファイアボールを撃った俺なので、そこんところは申し訳ない。


この二重の感情に板挟みになり、なんとも複雑な気持ちになる。


「さて、メナ君。今から3時間後、ちょうど昼休みの時間ね。この時間VIPルームでは、国王様やお母様、それにたくさんの爵のものたちがお食事会を開くそうです。あなたにはそこでポテチを振る舞ってもらいます」


「え……ええ~っ!?」


ニタリと笑うカロナの指示は、意味のわからないものだった。


納得のできない俺は直ちに聞く。


「おいおい、昼休みに王様たちにポテチを作れだと? もしかして、ここで作れってのか?」


厨房の奥には巨大な冷蔵庫がある。

この中に材料が入ってるようだ。おそらくジャガイモも。


「あら、察しがよろしくて」


いやいや、察とかそういう問題じゃない。


「おいおい、冗談が過ぎるぞ、カロナ。俺たち午後に発表控えているのだぞ。こんなところでポテチ作っている場合ではないと思うんだけど」


「だったら私魔法撃たないわよ? 私がいなかったら発表できないよ?」


「うっ」


こ、こいつ~。

魔法役を人質にとってきやがった。


俺の弱みを握ったことを確信したカロナ=エルメスは、笑いだす。


「おお、この脅し文句使えるわね。フフフ、メナ君。今日1日あなたは私の言うことを聞くしかないのよ」


「くっ」


仕方ない。

この場ではこいつの方が立場が上ということだな。

ここで下手に反抗して、マジでカロナに魔法役の拒否をされるのが最悪だ。

ならば素直にしたがっておいた方がいいな。

はあ、やるしかないようだな。


俺は渋々納得し、ポテチの調理をはじめることにした。


「だったら一つ、条件をつけてくれ」

「え?」

「それは――」


一つの条件を添えて。




 こうして俺はカロナ様に命令され、ひたすらにポテチを作らされることになった。

持参していた小型のナイフを使い、無心にジャガイモを薄口に切り刻んだ。

観客席からときどき聞こえる歓声を聞きながら、「あ、今発表会盛り上がってるな~」などと思いを馳せつつポテチを作り続けた。

そして、気がつけば第77回アルメナ学園研究発表会の午前の部が終了していた。





 そういうわけで昼休みとなった。

俺は今、コロシアムの応援席の最上階に位置するVIPルームの扉前までやってきている。


(どうしてこうなった?)


「ほ、本当に行くのか、カロナ?」

「ええ、大丈夫よ。おいしいのだから自信持って!」


VIPルームでは、王様含めたくさんの偉い人たちが、この研究発表会の昼休みの時間を使い、立派なテーブルのもと高級な昼食でも交えながらお互いに親睦を深めていることだろう。


そんな高貴な方々の、華麗なる昼食会に乗り込もうとしている。

研究発表会の最中にも関わらず、俺たちは出来立てのポテチを片手に王様たちのもとへ乗り込むことになった。


「じゃあノックするね」


"コンコン"


「どちらさまですか?」


扉の向こう側から若い女性がする。


「カロナ=エルメスよ。キエ」

「あら、カロナ様でしたか。失礼しました、すぐに開扉いたします」


その声の主はキエさんらしい。

VIPルームの護衛をしていたのだろう。門番的なやつだな。

そしてキエさんがいるということは、間違いなく中にアリアさんや王様たちがいるということだ。


今からそんな人たちの前でこのお菓子を振る舞うのだよな。

対策は練ったのだが、やはり緊張してくる。


"ガチャ"


キエさんが扉を開けてくれたので、カロナに続けて俺も中に入った。



 VIPルームに入った。


「すげえ、ここがVIPルーム……」


俺は感嘆の声をだす。


VIPルームとは文字通りVIPなゲストのみに入室が許される、高貴な部屋だ。

部屋は赤い絨毯が敷かれており、その上には黄金のテーブル、黄金のイスなども置かれている。

いかにも高級感のある間取りとなっている。

さらに部屋の奥はガラス張りになっていて、この部屋から下層の応援席やフィールドを含めたコロシアム一体を見下ろすことができる。


こんな素晴らしい部屋に、平民の俺が入室を許されたというだけで非常に感慨深いものがある。


さて、宝石を見るような目でVIPルームの光景に目を奪われていると、早速キエさんが訪ねてきた。


「カロナ様、この度はどのようなご用件で?」

「はい、実はこの者の料理を皆様に食べていただきたいと思いまして」


「なるほど、料理人とはその隣の方ですか」

「ええ」


キエさんは俺を指差す。

その様子から、俺の姿、顔を認識できていないことがわかる。


(よしっ、俺だとバレていないようだな。作戦成功だ)


実は俺はさきほど、ポテチを作る前にカロナに一つ条件を出していた。

それは変装するということだ。


やはり王様たちの前でポテチを振るうのは非常に勇気のいることだと思う。

お気に召されなかったときのリスクがでかすぎる。

鋼の心臓を持ってないとできるもんじゃない。


そこで匿名ならと考えた。

もし、提供したポテチがまずくて王様たちに無礼を働くことになったとしても、変装さえしていればその無礼の正体が誰なのかがわからないのだ。

とくに王様やカロナの母さんには顔を知られているので、なおさら変装しておくべきだと閃いたわけだ。


とりあえずキエさんにはバレていないっぽいので、変装成功と言って良さそうだ。


「それで、一体どんな料理を持ってきたのです? たとえカロナ様の紹介であったとしても万が一という場合がございます。大変恐れ入りますが、念のために私が毒味いたします。よろしいですか?」


キエさんは警備としても有能で、非常に用心深い。

ポテチを毒味すると言ってきた。


「キエさん、かまいませんよ。毒なんてありません。むしろおいしいです」


「そうですか。というかどうして私の名前を?」


あっ、やべっ。

つい口が滑ってしまった。

見た目は隠せても言動までは隠すのは難しいっ。


「あ、ああ。それはカロナ様に、教えていただいたからですよ、優秀なメイドがおられると」


焦った俺は棒読みで言い訳する。


「へ、へえ。カロナ様がそんなことを……ムフフ、嬉しいですね」


キエさんが顔を赤くして照れる。

この人すごくカロナのこと大好きなんだな。


「ゲフン、失礼しました。では、毒味に移らさせていただきます」


「はい」


俺は一切れのポテチを差し出す。


"パクッ"


「こ、これは、おいしい……」


「味には自信ありますからね。こんな調理法、刀がなければ思い付かなかったですし」


「なるほど、あなたメナ様でしたか」


刀と言ったのがまずかった。

俺は二度口を滑らせたらしい。


「あっ……いや、違います」


「大丈夫ですよ。先週の一件もありましたが、カロナ様から色々伺いました。ですので今はもうあなたのことは信用しています」


「あ、ありがとうございます」


「ふう、でしたら毒味する必要となかったわけですね。どうしてメナ様が菓子を振る舞いにきたのかはわかりませんが、いいでしょう。どうぞ、あちらにいますのがアルメナ国王様含め、昼食会の参加者様たちです。くれぐれも無礼のないようにお願いいたします」


「はい、キエさん。行ってきます」


研究発表会、昼休み。

目の前におられる王様たちを前に、ポテチの布教がはじまる。



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