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Sランク魔力持ちの天才冒険者、刀というユニーク武器とともに学園最強を目指す   作者: メナ=ソウド
第2.5章 魔法刀製作:研究発表編
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62.研究発表会、ポテチのはじまり

 第77回アルメナ学園研究発表会の開会式が始まった。

発表会参加者の俺たちは応援席にいる一般生徒とは別で、コロシアムの真ん中のフィールドで開会式にのぞんでいる。

そしてセイラ=エルメス会長の司会のもと開会式は進み、まもなく終盤を迎えようとしていた。


さて、開会式とは文字通り会を開く式であり、いわゆるオープニングのようなものである。

これがあるとないとでは始まった感が違う。

そのような理由もあって開会式とは神聖なる儀式として世に認識されている。

故郷の村でもそう教わった。


だが、失礼なことに、それに対して不平を垂れる天才冒険者がいた。

それは俺、メナ=ソウドだ。


「つまらない、座りたい!」


俺は小声でそう言い、口をとんがらせる。


闘技場のフィールドといえば、土である。

ゆえに立たねばならない。

一方で応援席はというと、イスである。

ゆえに座ることができる。

羨ましいっ。


これに対して不満を述べて何が悪いというのだ?

ただでさえ退屈な開会の言葉を、立って聞かないといけないのだぞ。

これほど辛いことはない。

それに司会のセイラさんの優しくてゆったりとした声が余計に眠気をかき立ててくるし。


だから俺は悪びれずに小さく独り言で呟いてやった。


「メナ君辛そうだね。イライラしてる?」


隣のカロナが気を使って声をかけてくる。


「ふわああ。こちとら今強敵と戦っているからな」


開会式のつまらなさ及び眠たさと真摯に戦わなければならないのだからな。

そっちで目一杯である。

もはや発表のことなど眼中にないといっても過言ではない。


それに辛いのはそれだけではない。

今は夏。

加えて今日の天気は晴天。

そんな猛暑にさらされているのだ。

汗もタラタラこぼれ落ちる。

そんな暑さというファクターも俺を苦しめる。


「はあ……こういうときに氷属性のスキルとか使えればなあ……」


俺はため息をつく。

まあ、氷属性なんてこの世に存在しないんだけどね。

でも、この暑さを体験するとひんやりとした氷属性というものが欲しくなってくる。


などとくだらないことを考えていると。


「メナ師匠、あと少しの辛抱でござるよ。頑張るでござる。ほら、最後の理事長の挨拶でござるよ」


コノハが後ろから俺を揺すってきた。


「あと……少し……か」


あれ?

なんでだろう?

ようやくこの退屈から解放されるのかと思うと、不思議なことにやる気がでてきたぞ。目が覚めてきたぞ。

……よし、せめてもの罪滅ぼしだ。

最後の話だけは真面目に聞いてやろう。


気が変わり、精神ゲージがたまった俺は話を聞くことにした。

俺は耳をすました。


「それでは最後にラピス=ジョーカー理事長によるメッセージです。ラピス理事長、お願いします」

「はい」


セイラさんからかわって、マイクを受け取ったラピス理事長はフィールドの真ん中にある特設ステージまで上がり、一礼する。

そして、話はじめた。


「あー、おほん。開会式長いですね。みなさん退屈ですよね。わかります。なので手短に済ませます」


ラピスさんが第一声をあげる。

奇しくもそれは、俺の共感をピンポイントで得る内容だった。

どうやら彼女も俺と同じセンスを持ち合わせているらしい。

彼女とは気が合うかもしれない。そう思える。


「えー、研究発表会ということですが、発表者のみなさんはさぞ緊張されることでしょう。どうか自分らしさを全面にだしつくしてください。また、聴衆の方は心身になって彼らの発表を聞いてやってください。わたくしから言えることはそれだけです。これを持ちましてわたくしからの言葉とさせていただきます」


「「「わあああああああ」」」


有言実行とはこのことか。

ラピスさんは宣言どおり、手短に挨拶をすませると、再びセイラさんにバトンタッチした。


「はい。というわけで開会式を終了します。このあと約10分後に第1チームの発表を始めます」


開会式が終了した。




 開会式が終わり、午後勢の俺たちはクラスの応援席に戻ってきた。


発表会は1チーム15分の発表のあと、質疑応答と審議の時間と続き、1チームに当てられる時間はおおよそ30分となる。

そして、発表会の参加チーム数は12チームである。

よって全チームで6時間かかるので、なかなかに長い。


発表は午前と午後の部に分かれており、午前に6チーム、午後に6チームとなっている。

俺たちは9番目なので、午後だ。

控え室の収容人数の関係もあり、午後のチームが控え室に入室できるのは、昼休みが終わってからである。

それまでは参加者の俺たちも周りの生徒と同じようにこの応援席での応援となる。


「ソウド君、頑張れよ! オレたち応援してるぜ」


自席に着くと同時に、クラスメイトの男子が話しかけてきた。

彼はクラスの中心人物でありクラス委員長のリイダ=ラックス君というちょっとお洒落な男子だ。

クラスメイトの名前をほとんど覚えていない俺であるが、クラス委員長ということで彼についてはかろうじて覚えている。


他にもラックス君の後ろに、取り巻きの男女が複数いる。

さしずめクラス代表として俺を労いにきたというところか。


「3年生に勝てる自信はないけど、精一杯頑張ってみるよ!」

「入賞狙えればいいな!」


外面のいい俺は誠実で謙虚な彼らに返事をしておく。


魔法式の因数分解定理、通称MーS(メナ=ソウド)理論は最強理論。

これを編み出した俺が負ける確率は低い。

普通にやれば軽く優勝できるくらいのクオリティだ。


しかし、彼らはそのことを知らない。

入賞できれば御の字くらいにしか思っていない。


カロナやハルゴを除く学園の生徒たちは以前の新入生歓迎戦を通して、俺の戦闘能力の高さを知ってはいる。

しかし、学力の高さまでは覚えていないのだ。

入学したてのときは学術試験でトップを取ったのだけど、新歓戦での戦いぶりのインパクトのせいで、その学術の高さに関しての認識が薄れたことが原因だ。

それにラックス君の口ぶりと表情から分かるように、みんなも1年生である俺が優勝できるとは微塵も思ってないのだろう。


「1年生はほとんど参加しないからね。おかげで退屈せずに楽しめそうだ」

「そう言ってくれると嬉しいよ」


うちのクラスで発表会に参加する人は俺たち勇者党のチームだけだ。

そもそもこの大会は学年関係なしに参加できるものなのだが、内容が内容であるので、1年生の参加チームはほとんどない。

2,3年生が主である。

例年では1年生が参加しないそうだ。


だが、今年は違う。

1年生では、俺たち勇者党とフォーカードのクロたちのチームの2チームが参加するのだ。


「1年生で参加するだけでもすごいわ! これはすごく勇気のいる行動よ。カッコいいわ」

「なんて積極的な! 素敵!」


取り巻きの二人の女子が付け足してきた。

彼女たちは羨望の眼差しでこっちをみてくる。

俺はその発言に罪悪感を抱く。


すみません。

勇気なんてありません。

積極的でもありません。

ただ……お金が欲しかっただけです。


「ほら、もうすぐ第1チームの発表が始まるぞ。そろそろオレたちも席に戻ろう」

「はーい」

「じゃあソウド君、頑張れよ」


ラックス君たちは俺に手を振り、自分たちの席に戻っていった。


そして。


「メナ君、勇気があって積極的なんだね、フフフ」

「ちょっ、カロナ」


隣に座るカロナがニタニタ顔でからかってきた。




 そんなこんなで第1チームの発表が始まった。

応援席で自作のポテトチップスを食べながらそれを見る。


「メナ師匠、それは何ですか?」


左隣に座るコノハがポテチを指差してきた。


「ああ、これはあれだよ。じゃがいもを薄く斬ったものだ」

「じゃがいもでござるか。そのまま食べないのでござるか?」

「このほうが食感がいいのさ」


斬るという概念を持っている俺は、度々こうして自作の食べ物を発明したりしている。

今回の例がポテトチップス、通称ポテチと呼んでいるものだ。


じゃがいもを薄く切り、それを揚げると完成だ。

カリカリした食感とじゃがいも独特の風味が絶妙にマッチしていて旨い。

そのうえ調理工程も簡単なので、非常にリーズナブルである。


「食うか?」

「えっ、いいのでござるか?」

「一人よりみんなと一緒に食べた方がおいしいからね。ほら」

「やったでござる」


俺は袋から一切れのポテチをコノハに与えた。

ポテチをもらったコノハは、不思議そうな目でポテチを見つめる。


「うう、一体これはどうすれば食べられるのでござるうか?」


コノハは悩む。

この世界の食べ物といったら丸かじりがメジャーな食べ方だから、困惑するのもわかる。


「パクっと口に入れるんだ。ほら、口を開けるのだ」

「あーんでござる」


命令通りコノハがあーんと口を大きく開ける。

俺は手に持っていたポテチをそこに放り込んでやった。


「おおっ、パリパリしてるでござるな~。これは癖になるでござる~」


コノハは恍惚の笑みでポテチを味わった。


「でも、食べ過ぎると太るから注意しろよ」


ポテチはカロリーが高い。

ゆえに食べ過ぎると太ってしまう。

これがポテチの弱点だ。

大事なことなのでそのことを伝えておいた。


「いいなあ、コノハちゃん、私もお願い」

「できれば……僕も」


俺とコノハのやり取りに興味を抱いたのか、右隣と後ろに座るカロナとハルゴもおねだりしてきた。

とくにハルゴがよだれを垂らしている気がする。

ハルゴに関しては気がかりではあるが、あげなかったらそれはそれで面倒なことになると思うので、仕方なしにあげることにした。


"パクッ"

"パクッ"


「んん~、いいわ~」

「美味……」


二人ともご満悦なようだ。


「喜んでもらえて嬉しいよ」

「メナ君、これは商売になるよ。絶対売れる! お金になる」


興奮したカロナが言ってくる。

カロナお嬢様はポテチを非常にお気に召されたようだ。


お金になる?

ふふ、まさか。

冗談はよしてくれ。

こんな安物食材じゃ、王都の高級食材には勝てないし。


「だと良いがな。それよりよお金といえば、優勝賞金だ。ほら、発表も始まってるみたいなんだし、ポテチのことは忘れて観戦しようぜ」


「それはダメ。H組のみんな~、メナ君がお菓子作ってくれたよ~」


おいっ。

何いきなりみんなに言い振らしているんだよ。

やめろよ、そういうの。


カロナはその人柄も相まって、クラスの中でもラックス君に並ぶくらいに人望が厚い。

彼女の一声でクラスメイトが反応するのは必然だった。


「「なんだって!?」」

「「おお、これが食べ物だって!?」」

「「どれどれ、旨い!」」

「「みんなこいよ、旨いぞ」」


まもなくしてクラスメイトたちが俺のもとへ、うじゃうじゃとやってきた。ポテチのために。


(ポテチよりも……発表の観戦をさせてくれ)


そして俺の悲痛な叫びが心のなかで響いた。



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