61.研究発表会、開会式前
勇者党党室にて。
カロナ、コノハと仲直りし、いよいよ発表会に向けての準備を始めようとしていた。
リーダーとしてその場をとり仕切っていた俺は、部屋の中心に立ち、まもなくメンバーたちに準備の要項を伝える。
とくにスウィンガ先生やデービル先生まで、駆けつけてくれているのには、本当にありがたい。
「さて、今度こそ準備を始めるぞ。異存はないな?」
「ええ」
「もちろんよ」
「ごさる」
「うん」
「頼むよ、ソウド君」
「ワシも協力するのじゃ」
カロナ、シホ、コノハ、ハルゴ、スウィンガ先生、デービル先生の順に返事する。
うむ、いい返事だ。
今度こそ何もないみたいだな。
前はこの段階でカロナに逃げられてしまったからな。
だが、もうそれも解決した。
今度こそ準備に取りかかることができるだろう。
彼らの返事からもそのことを確信した俺は話を続けた。
「では早速始めたいと思う。分担は俺が決めておいた。今から指示するので、それに従って欲しい。」
"コクッ"
全員頷く。
「よし。では言うぞ。まずは――」
さて、役割は大まかに表役と裏役の二つに分けられる。
まずは表役。
観衆の前で理論等の研究成果を発表するのは、リーダーである俺だ。
そして、今回の発表は理論と実践を交える形式で披露したいので、実践としてその場で魔法を撃ってもらう役として、カロナにこれを任せる。
俺とカロナの二人が表役ということになる。
そして、もう1つが裏役。
発表は表だけでは成立しない。
より観衆に分かりやすく伝えるには、舞台裏の準備が必要だ。
例えば、映像魔法を応用したスライド形式の映像媒体、パワーポイントというやつの作成だ。
これがあるとないとでは伝わり方が全然違う。
パワーポイント以外にも、当日使用するデコイの作成や補足資料の作成などが裏役に与えられる仕事だ。
これらをコノハ、シホ、ハルゴ、スウィンガ先生、デービル先生たちに任せる。
そのような内容を俺はメンバーたちに手短に伝えた。
「――というわけで今言った分担で頼む。とくに裏役の4名。もし、わからないことが出てきたら俺を呼んでくれ。俺はカロナ、デービル先生と魔法のリハーサルでグラウンドにいるから。オーケー?」
「「OK!」」
「じゃあ開始!」
こうして発表に向けての準備が始まった。
◆
そして、無事期限内に準備もでき、いよいよ研究発表会当日を迎えた。
本日は晴天なり。
青空の下、吹奏隊のファンファーレが鳴り響くなか、華やかなに開会式が開かれようとしている。
会場はなんとあの闘技場、コロシアムである。
以前新入生歓迎戦で使用されたところである。
あのとき俺がファイアボールで闘技場を壊してしまったのだが、どうやら修理が完了し、使用可能になったらしい。
もし、修理が終わっていなければ、別の会場になっていたことなろう。
さて、今回俺たちは発表する側……つまりステージ側の人間であるので、H組の応援席には座れない。
俺たち含め、今回の発表会に参加した研究党の生徒たちは、コロシアムの控え室に集められている。
控え室といえば、普段立ち入ることができない部屋なので、テンション上がるよね。
「へえ、控え室ってこうなっているのね~。かなり広いわね」
シホ=ハーティは控え室に対して興味深げに声をもらしている。
「ほらほら、見るでござるよ。ここの窓からギャラリーが見えるでござる。クラスメイトも着席しているでござるよ」
コノハが部屋内の小窓を見つけたようである。
ここから応援席の様子が見えるそうだ。
どれ、俺も覗いてみるか。
「おお、生徒たちたくさんいるぜ…………ん? あれは?」
盛大な舞台ということもあり、外の応援席はたくさんの来客たちで賑わっているのだが、その来客層に俺は驚いた。
ギャラリー上段の来賓席に、白衣を着した頭の良さそうな学者たちがうようよいるのだ。
「う、うそだろ、白衣多すぎるっ。生徒より学者の方が多いんじゃないか? 発表会ってこんなに注目されているのか?」
それらを様子を見た俺は思わず口をあんぐりとさせた。
「何を今さらビビっているの、メナ君? アルメナ学園は王国最高の学園なのよ。当然研究のレベルも相当に高い。研究所からも注目されるに決まっているじゃない」
俺のすっとぼけぶりにカロナがやや呆れ声でため息つく。
「それはそうだけどさ、思いの外学者の方が多いことに驚いてな」
「そうね。各研究所は優秀な生徒に目星をつけて、スカウトするためにあちこちからやってきているのよ」
「ほ、ほええ」
研究発表会といっても所詮は、そこらの地域発表会みたいなノリのもんだと思ってた。
せいぜい近所の貴族や王様がちょろっと見に来るくらいにしかとらえていなかった。
だが、蓋を開けてみればこのザマではないか!
各国の有名な研究所のスタッフたちが遠くから足を運んできているのだ。
例えば、あそこの紺色のスーツを来た連中は【ニチホン魔法技術研究所】。
コノハの故郷、ニチホンに君在する王国屈指の魔法の研究所だ。
魔法式構築に関する定理の論文を多数投稿しており、古来からの魔法効率化の発展に貢献し続けている組織だ。
周りが白衣だらけなので彼らの姿はかなり目立つ。
そしてあっちは【スキンスキンR&D研究所】。
あそこは魔法材料系の分野のエキスパートである。
実験等において、髪などの不純物が混入することを防ぐために、学者全員がスキンベッドという特徴がある。
こっちはある意味目立つけど。
だが、裏を返せば統率がとれており、レベルの高い組織であることを示している。
(やべーよ、やべーよ。国を代表する研究機関だよ、アレ。ダメだ、これ。ガチなやつだ。ここから生徒をスカウトするってのかよ)
優勝賞金が大金という理由だけで参加してみたのだが、この大会、思ったよりもえげつなそうだ。
何かを品定めするような、そんなギラギラした眼光で、彼ら研究所のスタッフは俺たち生徒をチェックしようとしている。
そのような場の雰囲気を改めて感じさせられた俺は、無意識にガタガタと震え出していた。吐きそうだ。
緊張にやられている様子を察したのか、さっきまで呆れていたカロナが心配そうな目をしながら俺の手汗びっしょりの手を握る。
「すごい汗、メナ君大丈夫?」
「俺……極度のプレッシャーに弱いんだ」
勇者党のリーダーとしてあまりにも情けないカスカス声で返事をする。
「だったらアタシがパフパフして緊張を解してあげる」
「バカ、止めなさい!」
「拙者の前でそれをするとはシホ殿許せないでござる。早くそのいかがわしいものをしまうでござる」
間髪入れずにカロナとコノハからお咎めがはいる。
だが、今の発言はおそらく空気を和ませようとしてついたシホなりのジョークだろう。
彼女は自分なりに俺を励まそうとしてくれたんだよな。
感謝だぜ。
さて、シホに渇を入れたカロナが再び俺のもとに来る。
「ほら、メナ君落ち着いて。すごそうに見えるあのおじさんたちも、君には及ばないと思うの。多分君の発表を耳にしたら泡吹くんじゃないかしら」
「そ、そうだよな。真面目に発表したら100%優勝できるよな」
確かに国の大御所どもが観覧には来ているが、気にしてはいけない。
あくまでも俺たちの目的は研究の披露や彼らに目をかけてもらうということなどではない。
俺たちの目的は優勝賞金を手にいれることだ。
研究所のスカウトがいるからといって、それにビビってはいけない。
変に気負っていいところを見せようとする必要もない。
普段通りに、この最強理論を述べればいいだけ。
そうすればなんなく優勝できる。
「ありがとう、カロナ、それにシホも。緊張おさまった」
「「どういたしまして」」
「みんな、開会式……始まる」
「そうだな、ハルゴ。よっし、じゃあステージに行くか」
控え室を出て、俺たちはステージへ出向いた。
第77回アルメナ学園研究発表会。
参加チームは12チーム。
そのいずれもが学術に長けている選りすぐりの研究党だ。
各々が長年積み上げてきた研究成果をいよいよここで御披露目する。
その開会式が始まろうとしている。




