58.王族の人間関係はややこしい
俺とキエさんの戦いがまもなく始まろうとしている。
俺たちは戦闘フィールドに立ち、武器などの装備品を整えるなどして、決闘に向けて万全の準備をしているところだ。
………にしても、まさかキエさんと戦うことになるとは思いもしなかったな~。
しかもただのメイドではなく、実は国軍の部隊長を勤めているという半端ない強さをお持ちの方だ。
だが、こっちも負けるわけにはいかない。
どれどれ、彼女の装備はビキニアーマーか。
ふふ、ほどよい大きさの乳がいい感じにエロスをかきたたせるぜ。
……おっと、いかんいかん、ちゃんと集中せねば。
とにかく露出度の高い衣装だからここは木刀を使おう。
「準備できましたか、メナ様?」
「はい」
「じゃあ始めますよ~。よーい、どん!」
キエさんの掛け声ともに試合が始まる。
「まずは俺からいきます」
開始と同時に俺は一気に彼女のもとへ攻撃を仕掛けにいく。
悪いが俺も急いでいる。
こんなところで時間を食うわけにはいかない。
早くカロナたちに謝りいかねばならないからな。
そういうわけでキエさんには申し訳ないが、最初っから全力で行かせてもらう。
それに仲間たちの修行に付き合っていた俺も、新歓戦以降もメキメキと実力をつけてきた。
そんな俺がこんなメイドモンクに負けるなど到底あり得ん。
一瞬でケリがつくのは目に見えてる。
このような強い根拠から余裕の笑みをこぼす俺は、自慢のスピードを生かしてあっさりとキエさんの後ろをとる。
よし、背後を取った。
「これでジ・エンドだ。清刃鋭斬!」
俺は刀を振りかざした。
"スカッ"
「なにっ!?」
うそだろ。
完璧にとらえたと思っていたのに避けられた!?
手応えはあった。
だが、俺の攻撃はあっさりと空を切った。
その信じられない事実にポカンとしている俺をあざ笑うように、キエさんは含み笑いで口を開く。
「ふふ、この程度ですか。これが噂に聞くあなたのユニーク武器、刀とやらですか。もう少し期待していたのですが、遺憾です」
「チッ」
その憎たらしさに思わず俺も苛立ってしまう。
「やはり大したことありませんね、メナ様。以前拝見させていただきましたよ、新入生歓迎戦におけるあなたの戦いぶりを」
「え?」
「あのときから思っていたのです。そう、メナ様の太刀筋は甘い。きっとその刀という武器が原因でしょう。ユニーク武器の強さに溺れて技を磨くことをお怠りなられていたのではありませんか? ずっとお山の大将の気分になられていたのではありませんか?」
「うぐ」
キエさんは痛いとこをついてくる。
彼女の指摘はまったく的を得ている。
そうだよ、その通りだよ。
だってスペードル先輩を除けば、今まで刀を当てれば絶対に勝てたもん。
刀を当てさえすれば、それだけでよかったのだ。
そのため、刀というユニーク武器を発明して以降、俺はスピードを中心に鍛えてきた。
それゆえ、キエさんの言うように太刀筋に関してはさほど訓練していなかった。
まさに刀に頼りきりの戦闘体形をつくってきたというわけだ。
しかし、目の前の相手にはそれが通じないらしい。
国軍部隊長という本場の冒険者相手に、手も足もでなかった。
つまり、お山の大将となっていたわけだ。
キエさん、ホントあなたのおっしゃる通りです。
「私が正論すぎて返す言葉も見当たらないご様子。どうやら私の勝ちみたいですね。さて、今度は私の番です」
彼女はクールな顔で魔素を拳にためる。
くっ。
このままやられるのか、俺。
刀技では全く歯の立たない彼女を相手に何かなす術はないのだろうか?
考えるんだ、俺。
刀が使えなければ、どうすればいい?
……そうだ、あれを使えば。
ふふふ、まだ勝ち筋は残っているぜ。
「キエさん、たしかにあなたの戦闘の腕は非常に優秀なのですね。先の攻防で悟りました。ですが俺とて負けるわけにはいかない。カロナとコノハに謝りたいんだ。刀が封じられようと、俺にはまだ手の内が残っています」
「へえ、それってもしかして魔法ですか? だとしたら無駄ですよ。皮肉なことにあなたの魔力はSランク。そんな強すぎる力で魔法を撃てばこの王宮一体がどうなるかわかったものではありませんからね、フフフ」
ほう、なまじ俺のことを分析していることだけはある。
だが、それがかえって仇になるとはな。
キエさんの情報は新歓戦のときのもの。
俺だって進化するんだ。
俺が使用できるのはSランクの魔力だけじゃない。
つい昨日、成功したのだから、魔法制御をな!
さて、Bランクでいこうか。
そしたら、あの魔法が使えることだし。
「『盛りに盛る我が魔素よ、ここに鎮まりたまえ』、魔力制御B!」
「ん? あなた一体何をするつもり?」
「もう遅いです。油断していたのはキエさんのほうです。くらええ、『因果を超越せし念力』サイコキネシス!」
俺はエリシアさんからパクった魔法、サイコキネシスを発動し、彼女の体を硬直させる。
「なに、動けない!?」
「形成逆転です」
俺は刀を持ち直し、一歩ずつ一歩ずつキエさんへ近づいていった。
「清刃鋭ざ――――」
「まだです!!」
「なにっ!?」
「うおおおおお! カロナ様には絶対に近づけさせない!」
キエさんはあるだけの力を全て注ぎ込み、自力で俺の念力を振り払おうとする。
カロナに対する強い忠誠心から来ているのか、そのパワーも非常に強い。
とにかくマジ半端ない力だ。
ヤバい、このままじゃ、突破される!
"キィィィン"
あっ。
やられた。
瞬く間に念力を解かれた。
ふう、やっちまった。
俺の敗けだ。
「はあ…………はあ……。まさか……ここまで本気にさせられるとは。失礼致しました、メナ様。どうやらあなたを見くびっていたようです。認めましょう、その力量。しかし、あなたをカロナ様に会わせるわけにはいきません」
「そうですか。負けました。とどめをさしてください」
諦めた俺は無抵抗になる。
「ええ、竜巻パン―――――」
「そこまで!」
キエさんが俺に止めを刺そうとした直前、何者かがストップをかけてきた。
その声の方へ視線を移してやると、そこにはなんとミステリアスな雰囲気を醸し出したラピス理事長がおられた。
「ラ、ラピス理事長!?」
「どうも~、メナ=ソウド君」
えっ、なんでここに理事長さんが?
急な展開にポカンとしていると、ラピスさんはキエさんの方に視線をかえる。
「あらあら~、国軍の部隊長ともあろうお方が学生相手にずいぶんと苦戦しているようでしたねえ、キエ?」
「あら、そちらこそ体を使って成り上がった汚いアラサー女狐理事長さん。王族を乗っ取ろうと密に目論んでるあなたに言われる筋合いはありませんが」
「ウフフ、冗談がお上手ですわね」
「そうですか~?」
キエさんとラピス理事長はお互いに睨み合い、挨拶する。
……が、その二、三言のやりとりで、この二人が相当に仲が悪いことがわかってしまう。
なんかすげえ険悪なムードに巻き込まれた。
◆
危機一発といったところか。
キエさんにやられる直前にラピスさんが試合を中断させた。
そのことにまずは安堵するが、それ以上に俺を不安にさせる状況が目の前で起きている。
ラピスさんとキエさん、この二人の険悪さが俺を萎縮させる。
「大丈夫ですか、メナ=ソウド君?」
「ええまあ」
さて、話を切り出してきたのはラピスさんだ。
なにやら彼女は決闘で敗北しかけた俺の体調を心配しているらしく、その白い手でボディタッチしてくる。
そのように俺を慰める傍ら、彼女はキエさんに対して咎めを入れる。
「我が学園の大事な生徒にムキなるとは、もう少しで大怪我でしたわ。もしかして私情ですか? でしたら尚更タチが悪くてよ?」
「私情などではありません。私はあくまでもカロナ様のご意向に従っただけ」
「へえ、まあいいわ。だけど、このままあなたがいてはこの大事な生徒に危害が加えられる恐れがあります。ゆえにこの場は学園の理事長としてわたくしが預からせていただきます。さあエルメスの屋敷に戻りなさい、キエ。そしてメナ=ソウド君、あなたはわたくしに付いてらっしゃい」
「は、はい」
一体何が起こっているのかいまいち把握できずにいた俺は、流されるがままに理事長さんについていくことになった。
その別れ際。
「メナ様、彼女は危険な人物です。どうかお気を付けてください」
意味深な捨て台詞を残し、キエさんはしかめっ面を変えることなく、エルメス邸へと姿を消していった。
そうしてキエさんが退場し、俺は理事長とふたりきりになった。
「メナ=ソウド君、前々からわたくしはあなたに興味がありました。少しお話しませんか?」
「え?」
「ささ、こっちがうちです。いらっしゃい」
「すみません、 俺、エルメス邸に用があるので」
「そうなの?」
「まあ」
「でしたらわたくしがそちらまで送ってさしあげましょう。話はその道中にでも」
「そういうことならお願いします」
そういうわけでエルメス邸へ案内されることにった。
へへ、運がよかったぜ。
危うくカロナん家から追い出されるところだったが、なんとかなりそうだ。
といってもキエさんの残した言葉も気になるけど。
ラピス=ジョーカー、この人にも何か裏があるのやもしれん。
取り敢えず警戒はしておくか。
ラス◯スです。(予定です)




