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Sランク魔力持ちの天才冒険者、刀というユニーク武器とともに学園最強を目指す   作者: メナ=ソウド
第2章 魔法刀製作:西の町ウェルトラ編
49/74

49.シホ=ハーティvsエリシア=ファントム

この回だけヒロイン2視点です。

 時刻は夜。

いつもならばみんな眠っている頃合い。

だけど、今夜は違う。

某幹部様のお出ましということで、たくさんの冒険者さんたちが町の正門に来ているからだ。


そんな彼らの先頭に立つアタシはまもなくプランY=八百長作戦を実行する。


「ハーティ様~、頑張ってくださーい。あの黒エルフに一泡吹かせてやってくださーい」

「魔王軍の幹部を討伐するということは大変名誉のあることです。健闘をいのりまーす」


八百長とも知らずにみんなはアタシに応援の声を届ける。

アタシはビジネススマイルでその声援に答えた。


(フフン、アナタたちの応援なんて微塵も力になどなりはしない。アタシの活力の源となるのはただ1つ……愛しの彼へのアプローチなのだから!)


アタシは隣にいる(アタシが隣をキープした)彼へと視線を移す。


「見ててね、メナっち。アタシ頑張るから!」

「おう、期待してるぞ」


ゾクッ。

親指を立ててくれた。

ああ、なんて素敵笑顔なのかしら。


それに、いいボイス。

その声が脳内で何度もリピートできちゃう。

フフフ、「おう、期待してるぞ」だって。


ここまで期待されるなんて、アタシゃあなんて幸福な。

でも、足りない!

もっともっともっと欲しい!


そのためにもこの作戦は是が非でも成功させたい。


そんな意思を胸に秘めたアタシはエリシアっちさんに向けて激しい雄叫びならぬ雌叫びをあげた。


「エリシアっちさん!……じゃない、エリシア=ファントム!! アナタは数多の魔族を召喚し、たくさんの冒険者に被害を与えた。あなたが犯したこの悪の所業、アタシは許さないわ。死を持って償いなさい!!」


あっ、ヤバッ。

いきなりエリシアっちさんって呼んじゃった。

いきなりミスった~。

メナっちとカロナっちが焦った顔してる~。


ん~、落ち着け~、シホ=ハーティ~。

よく見てよ、ほら、民衆にはバレてないっぽいよ。

フフ、危機1髪。


というわけでエリシアっちさん、次はアナタの番よ。


「言ったねえ、できるものならやってみな! 魔界のトップに君臨する一人として、アタイは全力で戦おーう(棒)」


魔界の人は演技が苦手なのかな。

エリシアっちさんは微妙に下手くそな演技をする。

それが少し心もとないけど、進めていくしかない。


こうしてアタシと彼女との出来レースが幕を開けた。




 エリシアっちさんとアタシは空いたスペースによる臨時の戦闘フィールドに立つ。

 

さあ、予定通りここから一騎討ちが始まった。

しかし、どのように戦闘するかというところまでは、打ち合わせで決める時間がなかった。

そのため、アドリブで戦っていくことになる。

といってもアタシが勝つように彼女が先導してくれるんだけどね。


などと油断していると、エリシアっちさんが急激に距離を詰めてきた。


「さあて、アタイはチンタラ試合するのが好みではないのでねえ。いきなり本気をみせてあげよう。先攻はもらった! サイコキネシス!」


「にゃにっ!?」


戦いが始まると同時にエリシアっちさんは集中モードに入ったらしい。

そのせいか、棒読み演技の欠片があとかたもない口ぶりで、アタシに攻め入ってきた。


彼女の放った魔法は浮遊魔法……いや、念力魔法のサイコキネシス。

対象の動きをコントロールできるというAランクの魔法だ。

それによってアタシは運動の自由を奪われる。


「う、動けない……」


なんだろう。

あの人めっちゃ本気なんですけど!


ねえ、これって八百長だよねえ。

エリシアっちさんがやられ役だよねえ。


それなのに、おかしくない!?


アタシ動けないよ。

なにもできないよ。

このままいけば、アタシ秒殺されちゃうよ。

「これ出来レースだよね?」って彼女に少し問い詰めたいけど、そんなことできないし。


ああ、ヤバい。

これからどうなるんだろ、アタシ?


 開幕早々、エリシアっちさんの予想外の戦いに唖然としているアタシに彼女は寄ってきた。

そして、耳元でアタシだけに聞こえるように小声で呟いた。


「普通に戦うのもつまんないし、アタイのやり方でやらせてもらうよ、シホちゃん」


「え?」


「さっきシホちゃんが走ってる姿を見て思ったの。やっぱりアナタスタイルいいよね。だからオバさん、ちょっとだけ嫉妬しちゃった♪」


「へ、へえ。だ、だから……?」


「あら、さっき言わなかったかしら? シホちゃんを恥ずかしめてあげるって」


「あれ本気だったの!?」


「ごめんね、少しサドなもんで」


どうやら魔界の人間は感性が我々とは少し違うらしい。


鬼だわ、鬼、この鬼畜エルフ!

戦闘にかこつけてアタシに恥をかかせるなんて。

サドというよりイタズラ好きかあ!


やれやれ。

サイコキネシスで体を硬直させ、じっくりと料理するつもりね。

これは物理的攻撃ではなく、精神的攻撃だね。


でも、アタシだって負けない。

彼女の念力を必死で振り払うべく、アタシは全力でもがいた。

しかし。


「フンガァァーッ!」


……。


ダメだ、びくともしない。

アタシの筋力はBランク。

この程度の力じゃ幹部様の魔法に抗うなんてことは微塵もできないみたいだ。


「さて、手始めに動作チェックを始めましょう。まずはその場でジャンプさせちゃおっ」


無邪気に笑うサドな三十路エルフは、アタシをパペットにした。

彼女の言指示どおり、アタシはピョンピョン跳ねさせられた。


"ポヨヨヨーン"


飛び跳ねるごとに自分の胸が大きく揺れるのを感じる。


くっ。

群衆の前でこんな醜態を曝すなど、ハーティとしてこれ以上にない屈辱。

プルんプルんと揺れるこの体に好奇の視線が突き刺さるよ。

民衆はどんなアタシを見て何を思っているのだろうか。

それを考えただけでもおぞましい。


ったく、我がスーパーウルトラナイスバディはその辺の有象無象を興奮させるためのものなんかじゃないんだよ。

彼を誘惑し、パフパフさせるためのものなんだから!!


「よしよし、アタシの命令通りに動いてくれるね。サイコキネシス成功だ」


そんなアタシの気持ちなど目もくれず、彼女は淡々とした様子で呟く。

もう彼女は八百長のことなんて忘れてるのかもしれない。

だとしたらアタシは……本気で彼女を仕留めなければいけない。


「動作環境はバッチシね。では、本番よ、アナタにはキャストオフしてもらう」


「「「えええっ!?」」」


アタシよりさきにリアクションしたのは、民衆の男どもだった。




 サイコキネシスの威力は強力だ。

どうあがこうと、自分の体が相手の思うがままに動かされていしまう。

当然服を脱がすことだって容易い。


「い、嫌ぁ……ふひ、それだけは……お願い……!」


エリシア=ファントム……彼女の凶悪ぶりにアタシは自然と涙目になっていた。


なぜならキャストオフとは、アタシがこの世で最も恐れていることの1つだからだ。


自分の裸体を見られることもやや羞恥ではあるが、それ以上に恐れていることがある。

今のアタシの両胸の間には、今回の旅でゲットした"彼のアレ"を挟んである。

それを知られるのが何より怖い。


たしかにアタシの癖はやや特殊であるが、それはきちんと自覚している。

普段からアタシは少しでも彼に好かれるために、それを隠して極力まともな女性を演じている。


だが、このキャストオフによって、それがバレようものならば、間違いなくメナっちに軽蔑されることは免れない。

「俺のアレを胸にだと……。お前そんなやつだったんだな、失望したよ」と言われるに違いない。

それが一番嫌なのだ。


だからアタシは必死に懇願する。


「おい、エリシア! さすがにそれはやりすぎなんじゃないか? あんたは悪魔か!」


アタシが本当に嫌がっていることを察知してくれたメナが彼女に意見した。


「悪魔だよ!」

「あっ、そうでしたね」


メナの頑張りも虚しく、エリシアはアタシの体を動かし始めた。


「さて、上の服から行くよー」


「いやあああ!」


両腕をシャツの袂に滑り込ませ、上方向に捲りあげていく。

アタシのきれいなおへそが露になる。


「おおお、こりゃ絶景じゃけん」

「いいでヤンスね」

「さあ、もっとひんぬいでやってくださーい」


味方であるはずの男どもが敵になる。


「おらぁぁぁぁ!! 男どもぉぉー! 見るんじゃないっっ!!」

「うへっ、女性さんたち手厳しーいっ」


「ああ、あのエルフは悪魔だ。私たち女冒険者の敵。シホ様~、あんなのに負けないでくださーい!」

「頑張ってー」


男どもの下卑た発言とは裏腹に、女性たちの怒りのボルテージはどんどん上がって行く。

彼女たちは必死のエールを送る。


それを耳にしたアタシは我に帰った。


そうだ、まだ負けちゃいない。

まだバストゾーンにまでは至っていない。

まだメナっちには嫌われるわけにはいかない!

最後まで諦めるな、シホ=ハーティ!


今こそ最強の女冒険者としての維持を見せてやるのだ!


「うおおおおおっっ!!」


"キィィィン"


念力解除の音が響く。

アタシはありったけの力を振り絞って、念力を振りほどくことに成功した。


そこから間髪入れず、アタシは溜まりにたまったエネルギーをエリシアにぶつけにかかる。

メナにも負けないほどのスピードでエリシアの背後を取ったアタシは、拳にありったけの魔素を纏わせ、スキル:雷神の正拳を放った。


だが、その瞬間彼女は静かに笑った。


「良い演技ができてよかったよ、シホちゃん。ありがとう」

「え? なんで避けないの?」


"ドカーン"


雷神の正拳によって激しい轟音がなり、砂煙が舞った。

その砂煙が消えた後、エリシアっちさんの姿は灰のようになくなっていた。

どうやら本当に討伐されてしまった。


「えっ……えっ……役者すぎるのよ、エリシアっちさん……やられたフリって言ったじゃん。こんなのプランYじゃないよぉ」


アタシは涙を溢す。


最後に見せたエリシアっちさんの笑顔を見て、アタシは彼女の優しさを確信した。

アタシの服を脱がせようとしてきたが、あれは彼女なりの精一杯の悪者の演技のつもりだったらしい。

みんなを欺くために頑張って敵役に徹したのかもしれない。


そして、そんな彼女をアタシは自らの拳で葬ってしまった。

そう思うと涙が止まらなくなるのだ。




 その翌日、魔王軍の幹部を倒したとして、アタシたち一行はウェルトラの村長さんから莫大な報償金や、ウェルトライトをはじめとしたウェルトラ産のたくさんの高級金属を頂いた。


これはアタシたち勇者党の資金として使うことに決まった。

メナっちの目的である魔法刀の製作への道が大きく進歩したわけだ。


こうして無事クエストが終了し、もらうものももらったアタシたちは町を出て、王都アルメナの帰路に向けて出発した。



 さらにそれから2日後のこと。

なんと行きに立ち寄った例の温泉にて、エリシアっちさんの生存を確認した。


それによって心のモヤモヤが取れたアタシは、この温泉で盗撮したメナっちの裸の写真を胸に、まともな女性を演じながら生活するのだった。




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