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Sランク魔力持ちの天才冒険者、刀というユニーク武器とともに学園最強を目指す   作者: メナ=ソウド
第2章 魔法刀製作:西の町ウェルトラ編
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46.刀を託されし女子は、侍となった

 町の正門の広場の10m上空で、念力魔法サイコキネシスによって浮遊しながら俺たち大勢の冒険者に恨み節を綴るのは、魔王軍の幹部を名乗る赤髪ダークエルフの女性だ。

しかし、その風貌に明らかな見覚えがある。

それは今朝ウェルトラ山脈で迷子になっていた俺たちを助けてくれたエリシアさんなのだ。

そんな事態を飲みこめない俺とコノハはその場で呆然とする。


「ったく。どいつだい? アタイの召喚したペットたちをやってくれたやつは!」


エリシアさんは怒った口調でそうおっしゃる。

自分のペットが滅されてしまったことに気分を害しているらしい。

その言葉を聞き、なんとなくわかってきた。俺は焦りとともに冷や汗を掻いた。


召喚したペット……。

それって例の魔族のことだよな。

だとしたらその犯人俺たちなんですけど。

うちのカロナとシホが主犯なんですけど。


これは素直に名乗り出た方がよさそうなのかなと考えていると……。


話があさっての方向に向かいだした。


たくさんの冒険者がこの広場に集まっている中、最前列にいる白髪のドワーフのおじいちゃんが口を開けた。


「どれどれ赤髪が特徴的なエルフか。……うむ、あれはエリシア=ファントム、魔王軍の幹部とみてまちがいなさそうじゃ」

「長老さんがおっしゃるとうことはあのエルフが本当に魔王軍の幹部なんですね!」

「おお、幹部のお出ましッスか」


周囲の冒険者たちの返答からそのおじいちゃんがウェルトラの長老であることがわかった。


「やつにはかなりの賞金がかけられておる。ここでやつを始末するのじゃあああ!!」


長老さんは杖を地面に叩きつけて発した。


「「おおおおお!!」」


「俺たちの攻撃をくらうがいいー」

「幹部を倒して多額の報奨金を得てやる!」


奮いたてられた冒険者たちは一致団結すると、エリシアさんに襲い掛かった。


「くそ、どうすれば」

「でござるね」


一方で踏み出せない俺たちがいた。

なぜなら俺たちは彼女がいい人だと知っているからだ。

エリシアさんが迷子になっていた俺たちを助けてくれたのは事実。

そんな善人たる彼女が本当に魔王軍の幹部であるということがまだ信じられないのだ。

だからどうしても彼女に攻撃を加えにいくことができないでいる。

俺とコノハは周囲の冒険者たちが一目散に宙に浮いているエリシアさんに攻撃を与えようとしているのを眺めることしかできなかった。


そうこうしているうちに冒険者たちがエリシアと距離をつめる。

その様子をみて、エリシアさんはため息をついた。


「ふう、このかよわいアタイに集団で襲い掛かってくるなんて。まったく気に入らないね。だったらこっちにも考えがある」


エリシアさんは不適な笑みをこぼすと、ゆっくりと口を開けた。


「『異界に住みせし我が邪悪なしもべよ、ここに還らん』、サモンズ!」


”グオオー!”

”ゼタレサンカウョシ!”

”ルヤテシオタ!”


エリシアさんは超高何度である召喚魔法を放った。

すると彼女の真下から紫色の魔方陣が出現し、そこからたくさんの魔族たちが姿を現す。

ゴブリンやオーク、骸骨戦士など、さっき相まみえたのと同じ種族の魔族たちだ。

その数は数百体である。

かなり多い。


「あ、あいつ召喚魔法を!?」

「さっきより数多くないか」

「おいおい、こんなの勝てねえよ」

「こ、これが魔王軍幹部の領域……」


「くそ、カロナ様とシホ様はいないのか」

「あのお二人は宴で飲み食いしすぎて動けない状況です」

「だったらオレたちで戦うしかないのかよ」


周囲の冒険者はレベルが低い。

1対1ならエリシアさんに敵うはずがない。

だがこの場に集まって居る冒険者の数は軽く1000人を超えている。

だからその数で押せば、彼女を倒すことが可能かもしれないと思っていた。

しかし、その矢先に大量の魔族を召喚されてしまった。

さきほどの戦いにおいて魔族の強さを知っていた彼らは、召喚された魔族の数を見て、再びビビリだしたのだ。


その様子を見て疑問を抱いたのはエリシアさんだ。


「あら? 今召喚した子たちは、さっきあなたたちに倒されてしまった子たちとレベルは変わらないはずなんだけどねえ。おかしいな、なぜそんなにビビッているのかしら?」


「倒したのはオレたちじゃねえんだよ」


エリシアさんの疑問に答えたのはスペードル先輩だ。

彼の隣にはセイラさんもいる。


「そうだそうだー」


先輩の意見に冒険者たちは賛同する。


「あら、そうなの? ここにはいなんだね。だったらどこにいるか教えてよ。用があるのはそいつなんだよ。そしたらこの魔族を引っ込めてあげるからさ。もし、教えてくれなかったら……どうなるか分かっているよね?」


「けッ、脅してきても口はわらねえよ」


強気で答えるスペードル。

正義感と肝の強さは人一倍である。


「はい! お教えします! 魔族を倒したのはカロナさんとシホさんッス。ちなみに場所はギルドの酒場ッス。そこのでかい建物の中にいるッスよ」

「そうだそうだ、だから俺たちを見逃してくれー」

「魔族を倒したのは俺たちじゃないんだー、だから許してくれー」


だが、裏切り者が多くいた。

しかし、それは仕方のないこと。

エリシアさんの魔族のオーラによる恐怖から、命乞いしたくなるのもわからなくはない。


「おい貴様ら、何裏切ってんだよ!」

「だって死にたくないじゃん」


は? という表情を浮かべながら裏切り者に怒るスペードル。

そして開き直る裏切り者たち。


そんな様子を見てエリシアさんは笑い出した。


「ハハハ、臆病な冒険者さんたち。今朝の冒険者さんとはえらい違いだ。ウフフ、でもペットたちは戻してあげなーい。卑怯なあなたたちはやられるのよ」


と言い残すと、エリシアさんは魔族を引っ込めることなくギルドの中へ入っていった。

カロナとシホを本気で殺しにいった。



 広場に取り残された俺たちはこの魔族どもを相手にしなければならなかった。

屈強な魔族たちが冒険者に襲い掛かる。


「うぎゃー、魔族強いッスー」

「だれか助けてクレー」

「死にたくなーい」


などとたくさんの冒険者が絶望の悲鳴をあげる。

カロナとシホが不在なこの状況下でどうすれば良いのか俺にはわからなかった。


「くそう、オレ一人じゃきついぞ、メナ=ソウド。助けてくれよ」

「そ、そんなこと言われましても」


両腕を竜化させたスペードル先輩が、たくさんの魔族をひきつけながら苦しそうに言う。


「メナ君、何かいい考えはないのかしら? ここのことも心配だけれども、私はカロナの方がもっと心配だわ。あのエリシアって人に殺されちゃう……ねえ、カロナを助けてあげて」

「セ、セイラさん」


セイラさんは必死に周囲の冒険者に回復魔法をかけながら、俺にかたりかける。



 二人が俺に求めてくる。

俺は頭を抱えながらひたすらに悶絶とした。


「どうすりゃいいんだ、俺?」


広場ではエリシアさんの召喚した強力な魔族たちが俺たち冒険者たちに襲い掛かっている。

この状況を打破するには、刀技を持つ俺が戦闘に加われば解決するのは間違いない。

敵は数百体といるが、20分もあれば全滅させることができるだろう。


 しかし、それではダメなのである。

20分もかかってしまえば、セイラさんの言うように今度はギルドの酒場にいるカロナたちを助けに行くことができなくなるのである。

エリシアさんがカロナたちを見つけて殺すに至るには、今から2,3分とかからないだろう。

だから俺がカロナたちのところへ向かって彼女たちを助けるのが先決だ。

セイラさんはそれを望んでいる。

しかし、その場合、こっちの広場が悲惨なことになる。

たくさんの冒険者が犠牲になる。



広場を選ぶかギルドを選ぶか。

たくさんの冒険者を選ぶかカロナとシホを選ぶか。



この究極の決断に俺は晒され、頭を抱えているのだ。


「だ、誰か助けてくれー。このままじゃ盾職がもたないぞ!」

「ちくしょう、誰か強い冒険者がいてくれれば」


魔族からの攻撃によって傷だらけになった冒険者たちの悲しみの悲鳴が耳に届く。

だが、彼らを助けに行くと、カロナとシホが間に合わない。

その声々が俺の決断を狂わせる。


「くそう、どうすればいいんだ……」


と俺が必死に悩んでいたとき。


つんつんと誰かが俺の背中をつついてきた。


「メナ師匠」


「コ、コノハか。いったいどうした?」


「答えがわかりました」


何をいまさら意味のわからないことを言うのか、この女子は。

いったい何の答えなんだ?


「このままではたくさんの冒険者が死んでしまいます。拙者はそんな彼らを救うべく刀を振るいたいと思いました」

「あ……」


彼女の発言に俺は固まった。


彼女のやらんとしていることが分かってしまったからだ。

そしてそれがこの状況をどうにかする唯一の方法であるとわかったからだ。

そして彼女が刀士としての俺からの問いに対して正解を出したからだ。




"彼女に刀を託す。"





これが運命的に残された選択肢だと悟った俺は再び彼女を見つめるのだった。


「ダメでござるか? やはり不正解なのでしょうか?」


コノハは上目遣いで問い直してきた。

何を言ってんだよ、大正解だ。

いいだろう。

どうやらはじめて他人に刀を託すときが来たようだ。


「正解だ……」


俺は静かに言った。


「メナ師匠……ありがとうでござる」

「というわけで君が刀を用いることを認めよう。さあ、これを受け取れ。鉄刀だ」

「はいでござる」


俺は腰に携えていた刀と鞘を彼女に受け渡した。

70cmの刃渡りである中型の愛刀がコノハの小さな手に預けられた。


「どうかここにいるみんなを救ってくれよ。俺はギルドの方へ行く」

「はいでござる」



 コノハは言い残すと俺からうけとった刀を右手に持ち、魔族たちに向かっていった。


「こ、これが刀、刀でござるね。フフフ、拙者やる気出てきたでござるよー」


刀をもらったことでテンションが上がったコノハは、異常に軽快なステップとともに魔族に刀をくだしはじめる。


「せやああ! 清刃鋭斬!」


コノハは敵の攻撃を上手にかわし、刀による斬撃をザシュザシュと加えていった。

しかも、ものの見事に俺の得意スキル、《清刃鋭斬》を完コピしたのである。


“グハ”


コノハの一撃によって敵は悲鳴をあげながらくちる。


その様子に俺は唖然とした。

刀を上手く扱うにはそれなりに技術がいるはず。

しかし、彼女の刀裁きには目を見張るものがあるのだ。

はじめてにしては上手すぎる。

まるで彼女は刀のために生まれたのじゃないかと思えるくらいに。


コノハによる一糸乱れぬ剣の舞はとても美しかった。



その姿はまるで”(さむらい)”のよう。



この言葉が不思議と俺の脳裏に浮かんだ。


「フン、下手したら俺よりセンスあるんじゃねえか?」


「そんなことないでござるよ。ですが、この感じなら拙者いけるでござる。みんなを救えるでござる。だからここは拙者に任せてください。メナ師匠は早くカロナとシホ殿のところへ!」


「ああ、分かってる。では行ってくる!」


俺は侍に手を振ると、ギルドへ向かうのだった。




 ギルドの酒場に入った俺は、自分のありったけの敏捷を用いてものすごい勢いでエリシアさんの前までやってきた。


「エリシアさーん……ってええ!?」


そして、目の前の光景に絶叫した。


エリシアさんはカロナ、シホと談笑していたのだ。

さっきまでのエリシアさんの怒りっぷりはなくなっていたのだ。





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