4.入学試験
第一の試験を突破した俺は指定された教室の席に座った。
「やあ、メナ君。最初の試験は無事に受かったみたいだね」
「まあね」
声をかけてきたのは隣に座るカロナだ。
さきに学園に入った彼女はさきほどの特待生の勧誘の話を知らない。
「まさかあんなに周囲が落とされていたとはおもわなかったけどね」
「そうね。あの感じだとと100人に1人通過するかどうかというところだったしね」
「そりゃまたとんでもなく高倍率だな」
100人に1人か。
そういえばあの試験を通過したのは周囲にはほとんどいなかったな。
それほどに狭い関門をくぐり抜けてきた俺たちはその時点でかなり優秀な冒険者というわけだ。
というかそれだけの人が落とされるのなら、その第一の試験をクリアした段階で合格にしてくれていいんじゃないか?
そんなことまで思ってしまう。
「でも試験はもっと難しいはずよ。なぜなら第一の試験を突破してきた人たち同士で競い合うことになるからね」
「ま、なんとかなるさ」
俺は不安になることはない。
俺はさきほどステータスを見せただけで上官の先生に特待生にしてもいいと言わしめた。
そんな俺がまさか落ちるはずもない。
むしろ首席合格だって夢じゃない。
さて時間になり第二の試験が始まろうとしている。
教室に試験官の若い色黒の男がやってくると口を開いた。
「第一の試験合格おめでとさん。えー、あの試験をパスした君たちはかなり上等な冒険者であろう。だが本番はこれからだ、これよりアルメナ学園入学試験を正式に始める」
「「はい」」
「とにかく君たちは入学試験の資格を得た。しかし、これから行う試験は、ただ入学できるか判断するだけの試験ではない。入学後のクラス分けのための試験でもあるのだ。 だからよ、てを抜いて受けるんじゃねえぞ」
その発言で一気に教室は静まり返る。
この試験は今後の学生生活を大きく左右するであろう【クラス分け】にも適用されるそうだ。
これを聞いた俺たちはますます緊張する。
「「クラス分けだと!?」」
「そうだ。同じ学園の生徒でも当然個人差がある。だから個々のレベルに応じた教育を受けさせるためにおおまかに2つのレベルに分けるのだ。A~D組が【上位クラス】、E~H組が【下位クラス】と制定されている。つまり、これからの試験はただの入学試験ではなく、そのクラス分けにも使われるものなんだ。だからしっかりと受けるように」
クラス分け試験。
どうやらこれが本来の入学試験のもうひとつの姿だったということか。
個人のレベルに合わせた教育をするというまさに生徒側に寄り添う教育方針だ。
俺たちは今からそのクラス分けもかねて、入学試験を受けることになる。
◆
入学試験は学術試験と戦闘試験の合計点で合否が決まる。
まずは学術試験を受ける。
これは記述式の記述試験だ。
主要5教科の総合得点が学術試験の点数となる。
その5教科とは数学、理科学、魔法学、武術学、世界学だ。
ウェイトは理科学と魔法学が200点、数学、武術学、世界学が100点の700点満点のテストだ。
ここで高得点を取れば、上位クラスへの道に一歩近づく。
そしてまもなく1教科目が始まる。
「じゃあ今から1教科目の数学の試験を始める。カンニングなんてするなよ。では、はじめ!」
試験官の先生の合図とともに俺たちは一斉に問題を解き始めた。
鉛筆で書く音がカタカタと教室に響く。
その流れに合わせて俺も問題用紙に目を通す。
_________________________
第一問目。
『12%の魔素水200gと20%の魔素水300gを合成することで生まれる魔素水の濃度はいくらか?』
第二問目。
『1+2+3+……+99+100はいくらか?』
……etc。
最終問題
『炎の塊を正6角形状に生成し、それを直線軌道に速度10m/sで発射させる魔法式を構築せよ』
___________________________
ん?
なんだこれ、簡単すぎるぞ。
1問目は方程式の応用問題といったところかな。
2問目が足し算か。
これは解き方わかるやつ少なそうだな。
……えーと、他にも数問あって、最高難易度の最終問題は魔法学と数学の融合問題か。
って、どれもこれも簡単すぎるっ。
Aランクの知力をもつ俺はその簡単さについ驚いてしまった。
「くそー、数学難しい」
「わからないよお」
「魔法式ってなんだよお」
どうやら簡単と感じるのは俺だけらしく周囲の生徒は問題に苦戦を強いられていたと言うのが現状だ。
俺は余裕をかましながら模範解答よりもパーフェクトな答案を記述した。
完璧に論理立てて作られた美しすぎる自分の答案に酔っていると、気づけば制限時間となっていた。
チャイムがなると1時間目の数学の試験が終わった。
だが、簡単だったのは数学だけにとどまらなかった。
他の科目も似たような難易度だった。
結局周囲のレベルが低いせいか科目問わずこの程度の問題しか出題されなかった。
俺はすんなりとそれらの問いに答えては、その答案の素晴らしさに酔いしれた。
そんなこんなで学術試験は終了となった。
暗記教科である苦手な世界学をのぞくと満点を取ることができただろう。
例年の合格のボーダーは2000点のうち600点と言われているので、この時点で俺は合格を確信した。
◆
次は戦闘試験だ。
俺は学術だけでなく戦闘も得意だ。
だから戦闘試験ども優秀な成績を残してやる。
そんでもって最上位のクラスにいくんだ。
さて、学術試験は700点満点。
それに対して今から受ける戦闘試験は1300点満点だ。
あきらかに後者のほうが配点は高い。
そのためこの試験が実質的に本番と言えよう。
筆記試験で思うような結果が出せなかったものもここで挽回することができる。
逆に筆記試験で好成績を納めてからといって調子に乗り足元をすくわれるパターンもある。
とにかく全員が全力でこの実戦の試験に臨むのだ。
教室にいた俺たち40人は校舎外の第4グラウンドに集められている。
ここで戦闘試験を行うらしい。
審査員の教員たちが7名、そばのテントの机に座している姿も確認できる。
そして、さっきの試験官の先生が同じようにこの場を担当する。
当たり前のように先生は言いはじめる。
「あー、みな学術試験ご苦労さん。5時間もの間よく解答してくれた。さあ、次で最後だ。おまちかねの戦闘試験だ。さっきの試験でいい成績を残せなかったものはぜひともここで頑張ってくれ。いいか?」
「「はい」」
俺たちの元気のいい返事を聞くと、先生は試験の説明を始める。
「ではさっそくルールを説明する。試験は1対1だ。順に戦ってもらう」
「相手は誰なんですか?」
一人の生徒が問うた。
先生は少し間を置くと自分を指差した。
「フッ……それはこの俺、スウィンガ=クロムだ」
「せ、先生相手だって~!?」
「まあまあ、そう驚きなさんな。公平なジャッジを下すにはこの方法が最適なのでな。君たちは遠慮なく俺にぶつかってくれればそれでいいよ。戦闘の点数はあちらの先生方が採点してくださる」
戦闘試験。
その内容はスウィンガ先生というさっきの試験官の先生との1対1のバトルだ。
その戦いぶりをそばにいる他の先生方が採点するらしい。
意外性たっぷりな試験形式に俺たちは肝を抜かされた。
「「先生相手に勝てる気なんてしないよお」」
「いやいや、別に勝たなくていいからな。そもそも俺も負けるつもりないから。あくまでも試験の一環だ。……ということで早速はじめよう。まずはモブ=エキトラ!」
「はい」
一人目の生徒の名が呼ばれると、試験開始となった。
俺たちはグラウンドのはしっこスペースでその試合を観察する。
となりには受験番号が1つ前のカロナがいる。
そのカロナが俺の顔をじっくり見つめながら話かけてきた。
「あれ? メナ君、すごく楽しそうだね」
「それはそうさ。戦闘だぞ、戦闘。筆記試験も楽しいけれど、実戦はもっと楽しいからな」
「戦うのが好きなんだね」
「まあね。俺にはこの武器があるし」
実は俺は「ついにこのときが来たんだ!」と内心で興奮していた。
俺のあみだしたユニーク武器、【刀】を王国トップのこの学園でお披露目できるからだ。
昔からこの武器を見せびらかせたいと思っていた俺はそれを心待ちにしていたのだ。
そんな楽しみもあるが今は観戦に集中しよう。
モブという生徒が戦闘体制に入り始める。
彼は右手に木製のメイス、左手に鉄製の盾を装備している。
典型的なメイサーだ。
対するスウィンガ先生は素手だ。
こちらはモンクみたいだ。
「では試合開始!」
合図と同時にモブはスキルを発動させる。
「雷様の一撃、イカズチ!」
モブは両手を合わせ気合いをこめながら雷系統の魔素を練りだす。
生成されたビリビリとしている黄色の魔素は明るく発光し周囲を眩しめる。
モブはこのハイクオリティな魔素を自分のメイスに付与させる。
攻撃の準備を完了させたモブは、雷の魔素をまとわせて殴打するメイサーの大火力スキル、イカズチを発動させる。
イカズチは一撃の火力が大きく動きの遅いとどめ向きの技だ。
そんな技を序盤からいきなり使うというバカっぷりを彼は見せ付けていく。
もちろん攻撃は先生にかわされてしまう。
外れた大技は地面に激突し、激しい揺れを轟かせる。
「これは減点対象だな。その技は勝負どころで使用すべきだ」
「うむ」
「だが、かえってそれが奇策となり功をなすのでは? よけられたのはたまたまスウィンガ先生が相手だったからで」
審査員の先生たちはモブの一挙一動をこまかく観察して点数をつけてゆく。
その点数はそれぞれの先生の感性に従う。
その動きを良しとするものもいれば、悪しと判断する先生もいる。
そのような感じで試合は進んだ。
「よし、これで終わりだ。モブ=エキトラ君。ご苦労さん。ふむ、なかなか良かったぞ」
「ありがとうございます」
2,3分ほど戦闘を行いスウィンガ先生は試験終了を告げた。
結局先生は攻撃を見極めるだけで攻撃することはなかった。




