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Sランク魔力持ちの天才冒険者、刀というユニーク武器とともに学園最強を目指す   作者: メナ=ソウド
第2章 魔法刀製作:西の町ウェルトラ編
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39.ウェルトラへ

 週末となった。

これからウェルトラへのクエストにでる。


1週間ほど前にアルメナ王国に新たな脅威が舞い降りてきた。

王国における中堅都市、西のウェルトラ及び北東のノースランの2箇所の領域にて、突如多数の魔物軍勢が出現したらしい。

その報告を受けた王国の本部つまり王様は、その事態に早急に対処すべくこれをCランクの緊急クエストと称し、腕に覚えのある冒険者を次々とその現場へと赴かせた。


例のファイアボールによるコロシアム破壊の一件に対する償いとして、難易度の高いクエストを無償で引き受けることを約束していた俺も当然それに招集されることになった。

俺は仲間のカロナ、シホを誘い3人旅として西のウェルトラへいざ出発しようとしていた。

……のだが。

コノハの加入によりそれは4人旅となってしまった。



 さて、場所は王都の【大門】である。

まだ朝早いにも関わらず、行商人をはじめたくさんの人民がこの赤い大門をまたぐ姿がチラホラ見られる。

俺はここを集合地点としたので、残りの3人も時間内に集まってくれている。

そばには手配されているウェルトラ行きのレンタルの馬車があり、これからそれに乗って旅に出るのだ。


しかし、その前にすることがある。

4人目のことについての説明だ。

俺は隣に居るコノハの肩を軽くタッチしながら彼女をカロナとシホに紹介をはじめる。


「ええと、カロナとシホには言ってなかったな。なんと2日前にうちの研究党に新たな仲間が体験加入した。入党希望の理由はさておき、これから彼女も俺たちの仲間になる。ぜひとも仲良くしてやって欲しい。ではコノハ、二人に挨拶を」

「はい、メナ師匠」


俺はコノハをポンと突き出し二人のほうへ向かせた。

コノハは緊張しつつも真っ直ぐに二人を見つめ、ペコリと頭を下げた。


「カロナ、それとシホ殿。どうもでござる。拙者は1年H組、コノハ=ヤマト。ニチホン出身でござる。ジョブは【棒使い】でござる。このたび勇者党に体験加入することになったのでござる。どうぞよろしくでござる」


彼女が言い終えるとまずはカロナが嬉しそうに笑う。


「コノハちゃんうちに来てくれたんだあ、嬉しい」

「そうでござるよ、カロナ。拙者も強くなりたいと思ったでござるからな。カロナが勇者党のことを教えてくれて有り難かったでござる」

「いいのよ、いいのよ」


カロナとコノハはなんだか仲良さそうな口ぶりで話し合っている。

それを見て思った。

ひょっとしてこいつらもとから友達だったのではないかと。

俺はそのことについて聞いてみる。


「なあ、もしかしてお二人は友達?」

「やれやれ、クラスメイトなのだから当然だよ。さてはメナ君、コノハちゃんのこと知らなかったんじゃないでしょうね」

「ギクッ」


俺の問いにやれやれとため息をつきながらカロナが答えた。

なんだろう、普段の俺のため息癖が彼女に移っているような。


俺がカロナの答えに動揺していると、今度はシホがいじけた顔をしながら呟いた。


「なによ、なによ。A組のアタシだけ仲間外れみたいじゃない」


この中で一人だけクラスの違うシホはすねる。

彼女は自慢のピンク色のハード型のツインテールをいじいじしながら口をとんがらせている。


「大丈夫でござるか、シホ殿。クラスは違えど、同じ勇者党の仲間として拙者はアナタとも仲睦まじく生活したいと思っている所存。どうか傷つかないで欲しいでござる」


その様子に情けの念を抱いたコノハがシホの頭を優しくさする。

どうやらコノハは真面目で情の厚い正義感の強い人間で、今のように落ち込んでいる人を放っておけないタチの人らしい。

コノハ=ヤマト、なんてイイヤツなんだ。

これが噂に聞く和の精神というニチホン独特の性質ってやつか。


「コ……コノハっち、ありがとう。うう、なんて健気で無垢な少女。アタシ気に入ったわ、この子。ああ、ちっちゃくてカワイイ」


“ムギュ”


「シ、シホ殿、抱きつかれると照れるのでござる。お、おっぱいすごい」


シホはあっさりとコノハに落ちた。

シホはその小さな少女に抱きついた。

一方でそのコノハはというと胸囲の格差を若干嘆いている。

まあなにより一瞬で打ち解けてくれたので有り難いことだ。


そしてタイミングを見計らって俺は全員に呼びかけた。


「オホン、どうやら心配いらなそうだな。よし、というわけでコノハ=ヤマトが勇者党の一員として頑張ってくれることを期待する。ではそろそろ出発するとしますか」


「「おお!」」


俺たちはそばに用意してあったウェルトラ行きのレンタルの馬車に荷物を詰め込み乗り込んだ。


「じゃあ手綱役はジャンケンで決めるぞ。負けたやつな」


「オッケー、メナ君。私はグーを出すわ」

「わかってるよ、メナっちー。アタシもグーをだすから」

「勝負でござる。ここは拙者も空気を読んでグーを出すでござる」


そして定番の手綱役決めである。

このクソ長い旅路の間、ただひたすらに馬の手綱を引き続けなければならないという損極まりない役回りを誰かが受けないといけないのだ。

当然立候補するものなど出るはずがないので、ここはジャンケンで決めるしかない。


だが俺も負けるわけにはいかない。

みんながグーを出すと宣言したので、ここはコノハの言うように空気を読んでマジでグーを出すやつがいるはずだ。

なのでここはパーで様子見だ。


「「ジャンケーン、ポン!」」


3人ともチョキを出した。



 ウェルトラまでは結構遠い。

馬車を使うなら片道3日くらいはかかるだろう。

つまりそれまでの間はとくに何もなく徒然(つれづれ)に暇な時間が過ぎるだけである。


朝一番に王都を出発してからかれこれ半日近く経ったかな。

日はすっかり落ちかかっており、オレンジ色の夕焼けがこの何もない【ウェルメナ平原】の緑の草原の道をまばゆく照らしている。

その道を馬車が寂しげに馬の(ひづめ)によってバコバコ足音をあげながら進んでいく。


「ははっ、気づけばもうこんなに日が落ちていやがるのか」


先頭の運転席でひたすら脳死で綱を引いていた俺はその時間の経過の恐ろしさに思わず笑っていた。


最初はよかった。

後ろの席でコノハ、シホ、カロナの3人が楽しそうにワイワイしながら女子トークを満喫していらっしゃっていた。

ウェルトラの名産スイーツを食べたいとか、その装備かわいいねえとか、女の子っぽい話題で盛り上がっていた。

その女子トークとやらを聞いているうちは手綱役のこっちもまだ楽しかった。


だけどそう言った話をしているとやがて疲れがたまってくる。

話すのにエネルギーを消費しきってしまった御三方はいよいよ眠りこけてしまった。


そうするとこっちにも刺激がなくなり退屈になる。

ただひたすらに変わりばえのしない景色を眺めながら手綱を引くしかなくなるのだ。

それがかれこれ数時間続き、現在に至っている。


「くそう、暇だ。なんで俺だけこんなことを。畜生、こうなったら3人にイタズラしてやる。さあて、どうしてくれようか、どうしてくれようか?」


後ろでは3人とも無防備に寝ていらっしゃる。

カロナとコノハにいたってはイビキを掻いている始末。

フフフ、イタズラするのにこれ以上のチャンスはない。

暇によってやっけに狂った俺はそのようなくだらないことを思いついてしまった。

俺はいやらしく口角を上げニヒヒと笑った。


が、そのときっ。


「うふふ、どうしてくれるのかしら、メナっち」


やけに(なまめ)かしいボイスとともに急に起き上がりハグしてきたのはシホだ。

唐突に抱きついてきたシホに対して俺は激烈にビビる。


「シシ、シホ。どうして!?」


危うく手綱を放してしまいそうになるほどに動転した俺を見て彼女はにんまり笑う。


「メナっちが一人頑張って運転をしてくれているなか、寝るわけには行かないでしょう。アタシずっと寝ているフリをしていたの、いつ君が襲ってきてくれるのかなって期待しながら」

「は?」


いったい何をそんなわけのわからないことを申すのか。


「フフ、冗談よ」

「冗談なのか。あ、焦ったよ」


焦ったのもつかの間、それが冗談だということが分かった瞬間俺はホッとする。

シホといえどさすがに襲われることを期待するなどというバカな思考をもつ女ではないだろう。

にしてもやけに真剣なトーンだったような気も。

いや、それは気のせいだな。


「それは置いといて、メナっち疲れたでしょ。アタシが変わろうか、運転?」

「あ、ああ。ありがとう。筋肉痛になるところだった」


改まったシホは俺の隣に座ると俺代わりに手綱を引いてくれた。

ときどきさっきのような変な発言はするけれど、こういうところは凄くいい子なんだよな。

アホでぐいぐい来るところはあるけれど根本的にはイイヤツだ。

彼女のそういうところは嫌いではない。


「ねえ、今日はどこまで進むの? もしかしてあの山まで?」


綱を持ったシホは遠い前方にそびえたつ山岳を指差しながら問う。


「いや、その予定はない。あそこは中間地点、【ウェルメナ山脈】だ。あの山を越えればウェルトラだ。だが近いように見えて遠いからなあそこ。あと1日くらいかかる」


今俺たちが進んでいるのはウェルメナ山脈につながっているウェルメナ平原とい開けたう草原地帯だ。

非常に広い。

周辺に草木が生い茂っていなければ砂漠だと間違えるほどだろう。

そんな平原の先に見える山脈は近いようで遠い。

そこへ着くまでまだまだかかりそうだ。


「うへえ、そんなにかかるんだあ。意外だねえ」

「でも安心しな。山のふもとには小さな村があってな。明日はそこの宿で泊まることができる」

「え、ちょっと待って。ということは今日は宿とかみつからない感じ?」


何かを察したようにしてシホは呟く。


「何を言っているんだ、今日は野宿だ。仕方あるまい。最初からそのつもりだぜ」

「そ、そんな~。お風呂ナシだなんてえ……」


シホはショックそうにうつむく。


「なるほど、お風呂のことだったか。たしかに女子には少しいただけないことなのかもしれないな。すまんが今日はナシだ」

「み、認めない、認めないわ……っ」


なんか凄い罪悪感を感じる。

1日入浴できないということが女子にとってはそれくらい重要な問題なのだろうか。

シホだけでなく今眠っているカロナやコノハも同じようなことを思うのかな。

だとしたらちょっと申し訳ないな。


「悪かった、今日は我慢してくれ……ってちょっと待て、この匂いは?」


謝ったそのとき、かすかな硫黄の匂いが漂ってきた。

勘のいい俺はそれが温泉であるということが直ちにわかった。

つまりこの近くに野生の温泉がある。


「ね、ねえメナっち。もしかしてこの匂いは」


どうやらシホも同じことを思っている様子。


「よかったな、シホ=ハーティ。まさか草原のど真ん中に温泉が沸いているとはな。今日は露天風呂で決定だ!」

「やったーーーー」


シホはバンザイとともにいつものように俺に抱きついてきた。

俺たちは匂いのする方角へ急遽進路を変えた。



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