38.刀を狙いしロリッ娘が勇者党加入を希望してきた
クロが帰った直後に、見知らぬ女子生徒が我が勇者党へ訪れてきた。
ただ訪問するのならまだしも、彼女はなぜか「メナ師匠」という謎の師匠呼びで部屋に押し入ってきたのだ。
そして、何がなんだかよくわからずに部屋にあげてしまった。
とりあえず客人であることはわかったので、いつものソファに彼女を座らせ、お茶を差し出す。
知らない女の子相手にお話しするのは苦手ではあるのかだが、このまま黙っているのも悪いので、気になったことを恐る恐る質問してみる。
「あのー、あたなはどちらさま?」
「は、はい。拙者はコノハ=ヤマトと申すのでござる」
コノハと名乗る女子は独特な口癖で俺の質問に答える。
コノハさんと言うのか。
小柄で童顔の女子だな、なんか可愛らしいな。
髪は紺色で女の子にしてはややショートのおかっぱヘアーだな。
桜の髪飾りのアクセサリーも特徴的だな。
それに貧乳ときたか。
俗に言うロリッ娘というやつか。
ふむ、悪くない。
なんか健気で純心そうな子だ。
カロナやシホとはまた違った魅力がある。
一瞬にして彼女の容姿をチェックした俺はどぎまぎしながら返事する。
「へ、へえ」
その反応が白々しかったのか、コノハは顔を俺に近づけ迫ってきた。
「やや、その反応……もしかして拙者のこと認識してないのでござるな!」
「えっ、なんだよいきなり!?」
コノハはそのモチモチな白い頬を膨らせながらプンスカしてる。
いったいどうしたんだろう?
俺なんか悪いことやっちゃったかな?
「やはり、そうですね……でござるねっ。拙者、メナ師匠と同じ1年H組のクラスメイトなのでござるよ。まさか覚えて頂けていなかったとは……拙者、クラスメイトとして落胆でござるぅ……」
「ク、クラスメイトだったのか。すまん知らなかった。どうか落ち込まないでくれ」
俺はこの通り他人の名前覚えるの苦手なんだよ。
まさかこんな娘がクラスメイトだとは思いもしなかった。
アルメナ学園に入学してからかれこれ約2ヶ月、いまだにクラスメイトの顔と名前を一致させていないという不届きものの我を許したまえ。
彼女に謝罪すると、再び質問をつづける。
「で、コノハだっけか。コノハは一体何の用でここに来たのだ?」
「はい。拙者も勇者党に加入したいと思いまして」
「なんだと!?」
入党志願者だったのか。
わざわざ、うちなんかの党に入りたいと申してくれるとはありがたい。
しかも可愛い女子だし。
「どうでござるか?」
「別にかまいはしないけど」
「やったー」
「ただその前に採用面接を行う」
「なっ」
すまない、コノハ。
たった今思い付いた。
たしかに入党を希望してくれるのはありがたいのだが、そう簡単に入党されても俺が困る。
彼女が我が勇者党に加入して、いったい何を目指し何をしたいのかということは、党首として認知しておくべきことである。
それにコノハの性格とかも少しでも知っておきたいしな。
カロナやシホと馬が合うかどうかも気になるし。
というわけでさっそく面接を始めよう。
「そんなに難しいこと聞くつもりないから」
「はい」
俺は面接官っぽい口調でコノハに問う。
「ではさっそく。コノハはなぜ我が勇者党への入党を希望したんだい?」
「はい、拙者ももっと強くなりたいと思いまして」
コノハは真面目に答える。
悪くないがベタな志望動機だな。
もうちょっと突っ込んでみよ。
「なるほど、それはうちの勇者党である必要はあるのですか?」
強くなりたいといっても、このアルメナ学園にはそのようなことを目的とする研究党が他にもたくさんある。
そのなかで我が勇者党を選んでくれたのは光栄である。
だが、なぜここが良いと思ったのか知りたい……それは勇者党党首である俺にとっては自然な欲求だ。
「え……と、メナ師匠のご指導が大変優れたものだと小耳に挟んだのでござる。それに今日のハルゴ=シルディ君の試合で確信したのでござる。彼の成長にメナ師匠が携わっているのだなと」
そうか、さっきのハルゴの試合が関係してたのか。
「ほほう。つまり、君はこの俺に指導を受けたいと思ったんだね?」
「左様でござるぅ」
コノハはモジモジしながら呟く。
へえ、この俺に手取り足取り教わりたいと。
うむ、悪くない。
正直で良い子じゃないか。
こんな子のお願いを断る理由など見当たらん。
よし、即採用だな。
面接終了。
「うんうん。悪くない、悪くないよ。オーケー、理解した。もう加入してくれてもいいよ。本当に加入する?」
「はい、お願いします……でござるっ」
俺が気前よく加入を許可すると、コノハの顔がパァーッと明るくなる。
「じゃあこの入党届けに名前書いてね」
「承ったでござる」
"カキカキ"
コノハは毛筆でサインする。
それを見て思った。
この子、もしかしてあの国の……。
「なあ、コノハ。君ってもしかしてニチホン出身?」
「よくわかったでござるな。その通りでござるよ」
「やはりな」
東の国に位置するニチホン国。
あそこでは「和」なるものを基調とした独特な文化が栄えているという話を耳にしたことがある。
以前キエさんに教えていただいた振り袖という民族衣装も、その文化を代表するものの一つだったっけ。
振り袖か……振り袖。
あれ?
ちょっと待てよ……。
そういえば、あれは新歓戦の打ち上げのときだったよな。
思い出すんだ、あのときのことを。
たしかあの場に振り袖を来たニチホン生まれの女の子がいたはず。
そ、そうだ。
思い……出したっ!!
あのとき、振り袖のござる口調の女の子が俺に刀が欲しいと言っていた!!
そうか、あのときの子がコノハなのか!?
ずいぶん前のことになるが、そのことを思い出してしまった。
ということはもしや彼女の狙いは刀か。
まだ確定ではないが、念のため確認してみよう。
「なあ、書いてるとこ悪い。俺の思い過ごしだったらすまない。コノハってもしかして刀が欲しくてうちに来たのか?」
「ギ、ギ、ギ、ギクッーーー!!」
あ、ビンゴだ。
なんかすげえ動揺してる。
やれやれ、コノハはそのクチの人間だったか。
いるんだよなあ、俺の刀が欲しいがためにこうやってすり寄ってくるやつがよ。
せっかく良い子だと思ったのだが、どうやらそういうわけではないらしい。
コノハは俺じゃなく、俺の刀に魅力を感じた人間というわけだ。
俺は天才なので、そのことに気づいてしまった。
「なるほどな、俺のいる勇者党に入り、刀の技術を盗もうと企んでたわけだな。さあコノハ、正直に答えなさいっ」
「う、うう……。その通りでござる」
コノハは参ったように白状した。
なんか犬がトイレ以外の場所で小便をしたときに「あ、悪いことしちゃった」みたいな感じで反省してるときの顔に似ている。
「となると当然入党の話は破談だね」
「くっ」
「さ、帰った帰った」
俺はコノハを部屋の外からつまみ出した。
そしてシッシッと手で払いのけるポーズで彼女の帰宅をうながす。
「お願いします、メナ師匠。どうか刀を拙者に伝授してください。拙者、メナ師匠の御刀をはじめてご拝見したときから、なぜか本能的に刀に一目惚れしてしまったのです。拙者、なんでもします、なんでもしますから。どうか拙者を見捨てないでいただきたいのです。メナ師匠が応じてくれるまで拙者は帰りません」
だが相手もなかなか折れなかった。
口調を乱れており、その必死さがドシドシ伝わる。
コノハは部屋の扉から一向に離れようとしない。
……しかも、あろうことか土下座してきた。
「おい、女の子が俺に土下座とかみっともないから止めるんだ。周りの人たちに見つかったらどうするんだよ。変な目で見られるでしょ!」
「止めません!」
くっ。
俺は焦り出す。
端からみると、一介の男子がこのロリッ娘を部屋の外へ放り出し、泣きじゃくらせながら土下座させているように見えるから。
うん、これを見られたら不味いな。
「おい、いいからその土下座をやめるんだ。頼みますから」
「いや、ダメなのです。……そうですか、これでは足りませんか。だったら仕方ありません、これでどうですか?」
土下座に加えて追い討ちをかけるかのようにして、ロリッ娘は唐突にその小ぶりなお尻をフリフリだした。
"フリフリッ、フリフリッ"
コノハのお尻が振り子のように左右に振動する。
それにともなって履いているスカートもゆらゆらと揺れている。
俺はそのとんでもない光景に慌てふためいた。
「おい、マジでそんな恥ずかしいこと止めろ。見てるこっちのほうが恥ずかしい。とんだ変態プレイをさせている生け簀かない党首だと思われちゃうじゃないか!」
「いいえ、止めませんとも。メナ師匠が入党を認めて頂けるまで私……いえ、拙者は止めません。その先に刀があるのなら! 刀のためならこのくらいの恥、屈辱は覚悟の内です。拙者はその覚悟をこうして真面目に体を張って体現しているのです」
ま、真面目のベクトルが違いすぎる。
なんだ、こいつバカなのか。
ええい、仕方ない。
とりあえずこいつを入党させるしかない。
俺にはこの選択肢しか残されていないみたいだ。
「わ、わかったよ、コノハ。そんなに刀が欲しいのだな。ならばチャンスを与えてやる。入党を許可するよ。だからそれを止めて部屋に入るんだ」
その言葉が出たとたんコノハは土下座をストップし、嬉しさのあまり両手を一杯に広げて跳ねた。
悔しいが、その動作は可愛らしい。
「やったー♪ このコノハ=ヤマト、これからメナ師匠の御弟子としてがんばります。そして必ずや刀を伝授していただきます!」
ウェルトラへのクエスト出発前に、新たな仲間が増えました。




