34.反省会、それぞれの修行
ギルドに帰還しクエストの報告を終えた俺たちは反省会を始めるべくそばに併設されている酒場に来た。
俺は思わず興奮の声を漏らす。
「おおお、ここが酒場かあ~。はじめて来た~」
酒場では10歳なりたての超初心者から体に傷の入ったベテラン感満載のおっさんまでたくさんの冒険者が楽しい笑い声を上げながら談笑している。
荒っぽい冒険者がウェイトレスのお姉さんに悪絡みしてる姿もちらほらみえる。
これぞまさに冒険者ギルドって感じ。
故郷の村のギルドなんてやる気のない無愛想な受付嬢が数名とFランクの弱い冒険者しかいなくてまるで活気がなかったからな。
それに比べると、ここのギルドはすげえ賑やかだ。
テンションがあがるぜ。
「メナ君とても楽しそうだね」
「ああ、カロナ。王都のギルドははじめてだからね」
「こっちまで……いい気分」
「ハルゴっちの言うとおりね」
俺の嬉しそうな顔が3人にも伝わっているようだな。
だが、はじめて訪れたから喜んでいるというだけではない。
それよりもみんなと一緒にこういうところに来れたことが嬉しかったりもする。
なんというか冒険者っぽいことをしてるのが良いのかも。
学園に入学してからはあまり外を散策していなかったからなあ。
「あ、向こうのテーブルにかけましょう。今空いたみたい」
「ああ、わかった。サンクス、カロナ」
カロナが空きのテーブルを発見したので、俺たちはそこに座ることにした。
「じゃあアタシメナっちの隣~♪」
「あ! 私が座ろうとしたのにっ」
「早い者勝ちよ~、オホホホ」
「おいケンカすんじゃないぞ」
「ぼ、僕の……立場が」
「ああごめんね、ハルゴっち」
「ごめん、ハルゴ君」
「やれやれだな」
なんやかんや揉めながら所定の席に着席する。
結局俺の隣はハルゴになった。
この方が丸くおさまりそうだったから。
俺は木槌をたたくように机をたたいて3人の注目をあつめた。
"コンコン"
「ふう、せっかくいい気分?のところ悪いが、反省会をはじめるぞ」
「うん」
「御意」
「はーい」
あくまでも俺たちは遊びに来たのではない。
さっきの戦いの反省に来たのだ。
といってもそんなにお堅くて湿っぽい感じにはしたくないので、何か食べ物を食べながら緩い感じでさっきの戦いを振り返ろうと思う。
申し訳なさそうに頭を下げている三人に俺は優しく声をかけた。
「えーっと、暗い雰囲気にしたくないからさ、なんかテキトーに注文していいよ」
一応言い出しっぺの俺がこの勇者党のリーダーに任されている。
だからといって一方的に彼らを責め立てようとは思わない。
そんな重いノリにはしたくない。
ゆるーく軽い感じで反省していきたい。
「いいのー? じゃあアタシはチョコケーキで」
「私はゴールデンポテトサラダにしようかな」
「僕は……ホクホクガエルのステーキ」
「というかメナ君お金あるの?」
「あっ……」
忘れてた。
俺貧乏だった。
みんなに奢るほどの金なんてもってねえ。
しかもみんな結構高いの頼んでるし。
「しょうがないわね。私が払ってあげる」
「すまない、カロナ。恩に着る、心の友よ~」
「ふふふ、いいのよ、いいのよ」
「じゃあ俺はパスタで」
焦っている俺を見てカロナは優しく微笑み、俺の分を払ってくれると申した。
さすが王族だ。
メチャクチャ金持ちなんだな。
うむ、ありがたい。
だけど少し切ない。
こういうのって男が奢る立場なんだけどな。
なんか面目ないな。
数分後。
"ドン、ドン、ドン、ドン"
飯が運ばれた。
「「「いっただきまーす」」」
"モグモグ"
「おおー、おいしい」
あまりの旨さにほほが落ちる。
「うん、ポテトサラダいいね。この食感がたまらない。いつものご馳走とは違った風味で私の舌もトロトロになっちゃう。脱衣ものだわ」
「クエスト後の肉……超美味!」
「やっぱりみんなと食べるといつもより何倍もおいしいよ~。いくらでもおかわりできそう」
3人もご満悦のようである。
その姿をみると飯の旨さも倍増だ。
ふふ、今日はクエストに出てよかったぜ。
俺は彼らの笑顔とともに飯を口のなかいっぱいにほうばった。
だが俺たちは食を楽しむためだけにここに来たんじゃない。
サクッと反省会するためにきた。
今日の3人の戦いを見て助言するのだ。
まずはカロナかな。
「さあ今から軽く反省会するぞー。まずはカロナだ」
「は、は、はい」
「君が一番深刻だから細かく説明するよ。それに俺の研究内容にもが関わる話だから」
「わ、わかった、お願いね」
急に真面目なトーンで話し出した俺にカロナは若干あわてふためいている。
そのせいか口の横に食べかすがついている。
くそー、そんなものつけちゃってさ、天然さんかな、この女の子は。
その姿がなかなかに可愛くて俺のツボをくすぐりやがる。
俺は心の中でそれに悶絶しつつも、一つ咳払いでごまかしながら話を続ける。
「ゲフン……。カロナ、言うまでもないよな。君は魔法が長すぎる」
「承知しているわ」
「もちろんそれは素晴らしいことだとは思うんだ。高火力の魔法、これが君の追及したいものなんだろ。すごくいいと思う」
「あ、ありがとう」
よしよし。
俺は別に欠点をバカにしようとは思わない。
あくまでもその戦闘スタイルを尊重したうえでアドバイスを送ってやりたい。
ただその気持ちだけだ。
自分の長所を維持したまま強くなってほしいのだ。
だから彼女の特徴はけなさずに誉めていくスタイルで行こう。
実際尊敬できることだしな。
「そこで一つお聞きしたいのだが、なんだったけ……君の魔法。ほら、なんかさっき撃とうとした……」
「邪竜の炎眼?」
「おお、それだそれ。その中二っぽいやつ。邪竜の炎眼だ」
「これがどうかした?」
「ああ。君はその魔法さえ放てればいいのかい?」
「まあそうだね。他にも高威力の魔法を覚えたらそれも是非とも使ってみたいとは思っているけど」
「オーケー、オーケー。だったら良い考えがある」
「うそ、ホントに!?」
俺の発言に期待したカロナは目をキラキラさせている。
「あの呪文長くて使いにくいだろ。だから短縮形にするのさ!」
「「なんだって!?」」
カロナだけでなくシホもハルゴも驚いているな。
やはりそれほどに奇怪な話なのだろう、魔法式の短縮というアイデアは。
しかし、俺はそれが可能だと確信している。
俺はグラスを片手に知的なポーズをとりながら説明を続ける。
「そもそもカロナの呪文には無駄が多いのさ。威力を追及したとはいえ長すぎる。それはどこかの魔法士が開発したものだろ。だから、その邪竜の炎眼のような高火力の類いの魔法は、呪文の文字数がバカに長くなるのが自然なんだよ。……だが、この俺の論理が正しければその呪文を大幅に短縮することができる」
「ホントにそんなことできるの? どうやって?」
「フフフ、それは"因数分解"だ!!」
「「「因数分解ぃぃー?」」」
「そうさ。魔法式の因数分解。知っての通り呪文は魔法式という数式によってできている。だがその数式を因数分解することで呪文の文字数を減らすことができるのではないかと考えたんだ。簡単な原理だろ?」
俺は得意気に話す。
そもそも俺も長年魔法を使っていなかったから確認することができなかったんだよな。
だから実は因数分解による短縮形の魔法が本来の形のまま起動するかどうかは知らない。
だけど俺の考えが正しければこの理論はうまくいくはずだと信じている。
「例えばA+2AB+Bという式があるとする。この場合はAとABとBの3つだから3文字だよな。だけど、これを因数分解すると(A+B)という形になるのだ。これだとAとBの2文字だから文字数が減るだろ? これを【魔法式の因数分解】または【呪文の短縮】と呼んでいる」
「へえ、そんな考えがあるんだね」
「もちろん実際の魔法式はもっと複雑だけどな。でも頑張ってそれを短縮するのさ。これをカロナの魔法に適用してみたいのさ。言うなればはじめての実験台だ。もちろん俺も協力する。どうだ、カロナ。俺とやってみないか?」
「すっごく画期的なアイデアだね。わかったわ、メナ君。ありがとう」
「おお、サンキュー」
カロナは俺の提案にのってくれた。
もしこれが上手くいけば、学園の研究発表会で発表できるぞ。
そしたら新たな定理として国に認めてもらうことができる。
その暁にはメナ=ソウドの定理って名付けよう。
ムフフ、それを想像しただけでニヤニヤしちゃうぜ。
「あ、まあカロナに関してはこんな感じかな。よし、残りの二人はサクッと説明する。次はハルゴだ」
「うん」
そして今度はハルゴ方を向いて話をはじめる。
ハルゴはつぶらな瞳をしっかりと開け、手を耳に添えながら俺の話に耳を傾けている。
「お前は攻撃スキルを身に付けろ。そうしないと強くなれないぞ。防御だけがすべてじゃないからな。でも裏を返せば攻撃もできるようになれば、君は素晴らしい盾士になれると思う。攻撃の練習をしよう。俺も付き合ってやるから頑張ろうぜ」
「わかった」
次はシホだ。
シホはニコニコしながら話を聞く。
「最後にシホ。君は上級魔法をバカに使いすぎだ。もう少しMPについて勉強しようか。それとフォーカードの君は冒険者としてたぐいまれな才能がある。だからきちんと鍛えたらMPもすごく伸びると思う。そしたら上級魔法を打ちまくってもMPが枯渇することはなくなるだろう。少しきついかもしれないけど君ならできる!」
「わかったよ、メナっち。じゃあ手取り足取り教えてね」
「もちろんさ」
「ありがとー」
この二人に関してはさほど大層な問題でもないきがしたので、この場では軽く説明した。
「オーケー、じゃあ明日から修行頑張ろう。乾杯!」
「「乾杯!」」
"カーン"
俺たちは乾杯すると、再び食を続けた。
その味はさっきよりもおいしく感じられたのであった。
◆
こうして勇者党メンバーたちの修行がはじまった。
放課後になると、メンバーたちはそれぞれ自分のやるべきことをきちんとこなしていった。
カロナは勇者党の党室でひたすら頭脳労働だ。
彼女にはまず呪文を書き出してもらい、それを魔法式に逆変換するという作業に取りかかってもらった。
もちろんそれは大変時間の要することだったので、俺も一緒になって計算を進めた。
途中でわからない式に直面したら、俺と論議を交わしたりもした。
そして逆変換によって得られた魔法式をさまざまな公式を用いて因数分解するという作業にとりかかった。
試行錯誤で共通項をまとめあげたりするのは中々に楽しい作業であった。
当初カロナは因数分解のいの字も知らなかったようなので、一から俺が講義してやった。
彼女は元から頭がよくのみこみが早かったので、すんなりとそれを理解し一緒に計算をすすめていった。
そうこうして魔法式の因数分解にも成功した。
その後、成果を確かめるべく誰もいない山で彼女に「邪竜の炎眼」を撃たせた。
短縮なしの場合と短縮ありの場合の2パターンを試した。
結果、短縮形でもまったく同じ魔法が放たれたのである。
つまり、俺の理論の正しさが実証されることにもなった。
こうしてカロナは高火力かつ文字数の少ない魔法をてに入れることができたのだ。
ちなみに短縮なしの彼女の魔法の発動には7分42秒かかってた。
ハルゴは外で攻撃の練習である。
体育館の木製ミットを借りて、その的に向かって体当たりするという練習や、走り込みによるフットワーク練習をはじめとした基本的な練習からはじめた。
もちろん俺もその特訓に付き合ってやった。
でも意外にそれが俺のためにもなったりした。
とくに走り込みの練習では俺のスタミナの向上も見受けられた。
以前スペードル先輩との戦いにおいて俺のスタミナ不足を指摘されたので、それを改善するにはちょうどいい練習になった。
友達の練習に付き合うことがここまで自分のためになるということは驚きだった。
そんなこんなで練習をつみかさね、いよいよハルゴは攻撃スキル【ジャンボタックル】を覚えた。
ハルゴは自分に自信を持ち始めた。
スキルなどという表面上の強さだけでなく心も強くなっなようだ。
友達としてそれはとても嬉しいことだった。
もちろんシホとも修行をした。
まず彼女にはMPについて軽くお話をした。
MPとは魔法を打つときに消費するポイント的なものものである。
一般スキルの消費MPは1であるのに対し彼女の用いる上級魔法の消費MPは10~50である。
フォーカードの一族であるシホの最大MPは常人のそれを数倍も上回っていたが、それでもその値は1000だった。
だから上級のものばかり撃っても自然回復だけでは追い付かず、すぐにMPが枯渇してしまうことを指摘してやった。
すると彼女は納得し、フレンドリーに俺に抱きついてきた。
というか隙あらばこいつは俺に抱きついてきた。
しかし、それも悪くないので俺はそれを無下にあしらいながらも、実は心の中では興奮していたりする。
これもオスの本能というやつなのだろう。
それはさておき、MPの仕様を理解してもらったところで、今度は最大MPを上昇させる特訓を開始した。
MPが枯渇した状態で無理やり魔法を放とうとすることで最大MPの上限が増えるということが一般的に知られている。
だが、それは身体的にも精神的にもかなりの苦痛がくるそうだ。
それにも関わらずにシホにその修行をやらせた。
「ああん……もうこれ以上はダメ~……アタシおかしくなっちゃう~♪」
などとシホが冗談で喘ぎ声をあげる様子にニヤニヤしつつも、俺は徹底的に鬼の教官になって彼女に魔法を放たせた。
いったい何のプレイなんだか。
そのお陰なのか、それとももともと彼女に才能があったのかどうかはわからないが、最終的に彼女の最大MPはアホみたいに上昇しまくった。
多分10000くらいにはなったのではないだろうか。
つまり10倍も上昇したわけだ。
3人の中で一番成長したと思う。
といった感じで修行していくうちに月日が経っていった。
3人の面倒を見てやった俺はそのかわり魔法刀の研究をおろそかにしてしまったけどね。
魔力が質ならば、最大MPは量に対応します。




