27.新入生歓迎戦、ウォームアップとハルゴの実力
開会式が終了し、俺はすぐさまハルゴを連れて闘技場のそばにある模擬戦用の公園までやって来た。
これからスペードルとの試合にむけてのウォームアップをする。
自分の試合の番まで時間は限られているが、みんなの期待を背負った俺はできるかぎりを尽くそうと思う。
「よーし、この辺でいいよな」
「うん」
公園はそこそこ広い。
向こう側では同じ代表のクロがクラスの仲間たちとともに練習しているみたいなので、その邪魔にならないように少し距離のある場所を選んだ。
ここなら迷惑にならないだろう。
芝生の感触もよさそうだし。
というわけで、練習を始めようか。
俺は芝生のフィールドに立つ。
そしてカバンから木刀を取り出して腰に装備する。
「よし、ハルゴ。こっちは準備できたぜ」
「こっちは……時間かかる」
「そうか、急がなくてもいいからな」
「ああ」
ハルゴはゴツくてどっしりとした長方形タイプの盾を用意している。
大柄でポッチャリ体型の彼にはそれがとても似合っている。
そういえばハルゴは盾士だったな。
彼の盾を見るのははじめてだ。
素材はミスリル製のものか、特有の輝き方をしているし。
硬そうで、すごくかっこいいな。
もし、俺に耐久力の才能があったら間違いなく盾士になっていたね。
うん、断言できる。
……もしそうなっていたら刀なんて武器は生まれなかっただろうな。
俺はハルゴの盾のかっこよさに惚れ惚れする。
「それ、ミスリルの盾かい?」
「うん」
「すげえ硬そうだな」
「硬いけど……ミスリルは炎属性に弱い」
「へえ」
ミスリルについて簡単な知識を教えてもらう。
そしてハルゴは盾の装備を完了させた。
「よし……できた」
「いける? じゃあはじめようか」
「うん」
実はハルゴと試合するのはじめてだ。
学校が始まってまだそんなに日が経ってないから、まだ彼の戦いぶりをお目にかかったことはない。
だから彼が冒険者としてどれほどの腕前を持っているのか正直なところわからない。
だが、これを機にそれが確認できる。
といっても、H組であるからそこまで期待できるものではないと思うが。
ふむ、そうだな。
いきなり全速力で本気を出して彼をフルボッコにしてやっても可哀想だ。
ウォームアップなんだしまずは軽く打ち込んで見ますか。
「よし、いくよ」
「うん……」
俺が一声かけると、ハルゴは小さい声で返事する。
練習開始だ。
俺は勢いよく地面を蹴り一気にハルゴとの距離をつめにかかる。
“ザッ”
「……速いっ!?」
ちなみに俺の本来の敏捷は人類最強レベルのAランクだが、今は手加減のため若干手を抜いている。
別に今回はハルゴをボコボコにするという目的があるというわけではないしな。
あくまでも太刀筋の再確認が目的。
俺もそうやすやすと本気をだしたりはしない。
それでも今の速度は一般人からするとメチャメチャ速い。
ましてポッチャリのハルゴなら、この動きから逃げることすらままならないだろう。
俺のスピードにハルゴも驚いているし。
俺はガラ空きである彼の左足めがけて怪我させない程度の弱い力で刀を振るう。
よし、もらった。
「せやっ!」
“キィン”
甲高い金属音が響く。
「……っな!?」
それはあまりにも信じがたい光景だった。
なんとハルゴは俺の攻撃を見事に防いだのだ。
なん……だと。
受けられただと!
う、嘘だろ!?
今結構な速さで攻撃したはずだぞ。
それなのに防がれたとでもいうのか。
あ、あり得ん……。
俺は弾かれたという現実を受け入れられずにいた。
「ふう……なんとか」
一方でこの俺の攻撃を凌いだハルゴは安心したようにのほほんと一息もらす。
くっ、とぼけた顔してとんでもないことをやっているんだぞ、ハルゴ。
「な、な、なんだよ……ハルゴ。や、やるじゃないか」
「まあね」
動揺する俺の声にハルゴは落ち着いた様子で返す。
それが悔しかったので俺は少しばかり本気をだすことにした。
くそ、こうなったら全速力で行ってやる。
ええいっ、リュウ=スペードルとの試合のことなんて知るもんか!
そんなことよりも目の前のハルゴ相手に攻撃を凌がれたことの方が俺にとっては重大事項なんだよ。
ふっ、この俺の攻撃を防いだことを後悔するんだなハルゴ、ハハハ。
「じゃあ今から少しだけ本気だす」
「了解」
今度こそ攻撃を当ててやる。
俺は超加速のスキル、【疾風迅雷】を用いる。
「疾風迅雷!」
「……っ!?」
俺のスピードはAランク。
さらに加速のスキルをも上乗せするという鬼畜コンボじゃ。
果たしてこれを受けきれるかな?
今度は上段に1発、中断に2発、下段に1発の4連撃だ。
なんだかやってることが悪役の魔王みたいだけど、そのようなことになりふりかまわず刀を振るった。
「せやっ!」
“キ、キ、キ、キィン”
あっ……4発とも防がれた。
そして俺は悟った。
今の攻撃は俺の最高速度だ。
それは人間なら目でとらえることすらできない。
つまり、そのスピードからの攻撃を防ぐことなど物理的には不可能なはず。
にもかかわらず、彼はそれを防いだ。
そこからある一つの結論が導き出される。
そう、彼は俺の攻撃を目で追ったのではなく、『予測』したのだ。
俺はそのことに気づいた。
「勘……というやつか、ハルゴ?」
「まあ」
ハルゴはコクリと頷く。
予測、すなわち勘。
これは防御をメインとする盾士には必須の能力。
近接戦において何度も攻撃を防ぐには、攻撃を見切るための動体視力だけでなく、どこに攻撃がくるのかということを予測する勘と呼ばれる生まれつきの能力が必要だ。
ハルゴはその勘が非常に優れているらしい。
なんたって天才であるこの俺の攻撃をすべて防ぎきるのだから。
「まさか俺の攻撃を全部いなすとはね。……でも変だな、こんなにいい腕を持っているのだったらもっと上位のクラス、いやA組にすらいけたんじゃないか?」
俺はもっともな疑問を投げかける。
「それは……無理」
「なんで?」
「シルディ家は……守るが……得手……攻撃が……不得手かつ不可……そして入学試験では……過緊張……腹痛」
「ほお」
ハルゴ=シルディが答える。
俺はそれを理解する。
なるほど、こいつはつまりアレだ。
本番の試験でやらかしてしまったという俺やカロナと同じタイプなんだな。
俺との違いは例の入学試験で足をつったか、緊張したかという点だけだ。
おまけに攻撃ができないときた。
そりゃあせっかくいい防御ができても試験で悪い成績になってしまうわけだ。
H組になったのも納得できる。
友達の一面を知れた俺は一転して笑顔になる。
そして彼を称える。
「でもすげえな、ハルゴ。君は守るのが得意なんだね。それって誰にでもできることじゃないぞ。とてもかっこいいと思うよ」
「ありがとう」
ハルゴはパーッと顔を赤くする。
そんなハルゴの腕をつかみ俺はお礼をする。
「本当にいいトレーニングになったよ。おかげで体もポカポカになったことだしきっとベストを尽くせると思うよ」
「嬉しい……」
「よし、念のためにもうちょっとだけ練習しよう」
「了解」
俺たちは練習を再開した。
◆
"ウィーン、ウィーン"
闘技場からやかましいサイレンが響く。
どうやら先鋒戦の決着がついたみたいだ。
歓声も聞こえる。
『えー、ただ今の試合、上級生代表セイラ=エルメスさんの勝利となりました』
放送委員による音声が耳に届く。
それによると先鋒戦の結果はセイラさんの勝ちだったという。
俺はその結果を受け入れた。
「そうか、シホ負けちゃったか……」
「残念」
練習を終えた俺とハルゴはぼそっと呟く。
それと同時に近くから同じようにウォームアップしていたクロもやってきた。
クロは真剣な表情をしている。
「ハーティ負けたみたいだね」
「ああ、そうみたいだ」
「勝ってくれよ、メナ」
「もちろんさ、ここにいるハルゴにも協力してもらったしね」
「なるほど、ハルゴ君ありがとう」
「どうも」
俺は準備を片せると闘技場の方を向く。
「さてと……刀士メナ=ソウド、今から勝ちに行ってきます」
「いってらっしゃい」
「メナ……頑張れ」
二人から応援の言葉をもらい、俺は会場内へ姿を消してゆくのだった。




