25.新入生歓迎戦、上級生代表
アルメナ学園新入生歓迎戦、通称【新歓戦】。
これは俺たち1年生にとってはじめてとなる学園行事。
入学式から約2週間後という早さでとり行われる最初のイベントだ。
その内容はいたってシンプルである。
1年生側と上級生側からそれぞれ3名の選抜メンバーが選ばれ、先鋒、中堅、大将の3本試合を行うというものだ。
先に2本とった方の勝ちとなる。
とまあこれが形式的なルールとなっているのだが、
実はこの新歓戦は、
「我がアルメナ学園に入学できたというだけで、調子に乗って学業を疎かにする不届きな学生がいるではないか」、
「そんな生徒が増えたらこの学園おしまいだぞ」、
「そうだ、そんな連中を上級生と戦わせることで、自分たちもまだまだだなって思わせればいいじゃないか!」
という当時の学園長の思いつきから発足されることになった戒めのための行事である。
つまり、新入生に向上心をもってもらうという目的のために、学園が設立されたころに催されるようになった新入生洗礼のイベントなのだ。
その話をはじめて耳にしたときには「いったい歓迎の文字はどこへいったんだ?」とも思ってしまった。
といっても今となってはその文化も廃れており、ただの学園のトップの生徒たちによる真剣勝負という闘技大会に姿を変えている。
そして新歓戦もかれこれ数十年にわたって行われている。
それほどに長い年数を積み上げてきたせいだろう。
この大会は年々規模が増していき、今となってはたくさんの一般人までもが観戦に来るほどのものとなってしまったそうだ。
噂によると国軍のスカウトも出入りしているということも。
新歓戦がとても素晴らしい催しだということに疑いの余地はない。
そんな大会に選手として参加できる俺は幸せな人間だ。
そのことを肝に銘じ、俺は息を切らしながらコロシアム内のロビーへやってきた。
ロビーでは、俺以外の選抜メンバーに選ばれている5人の生徒たちがすでにいており、その風格とともにたたずんでいる。
彼らは一番遅くにやってきた俺を凝視してきた。
「あっ、ようやくメナっちが来たよお。よかったあ」
「ホントですわ。メナ君ですわ」
はじめに声をかけてきたのはシホとセイラさんだ。
二人はホっとした様子で俺の手をとる。
「すみません、ご迷惑おかけしまして」
俺は深々と頭を下げて謝る。
そう、俺は遅刻したのだ。
実は俺を含めた選抜メンバーたちは開会式の際にフィールドに顔を出さなければならないらしいのだ。
それがお決まりだそうだ。
俺はそのことを知らなかった。
他の生徒たちと同じように観客席で式を迎えるものだとばかり思っていた。
数分前、スウィンガ先生がクラスの応援席にやってきた際に、俺の姿を見るやいなや
「お前なんで応援席にいるんだ!? 選抜メンバーの君はフィールドで開会式を受けることになっているんだぞ。急いでロビーに行くんだ!」
と呼びかけた。
それによって事情を理解した俺は走ってこのロビーまでやってきた。
他の選抜メンバーたちが待ってくれている中、1年生である俺は遅刻してしまった。
そのことを申し訳なく思い、到着早々頭を下げるはめになったわけだ。
「来たか、メナ=ソウド。俺より遅刻するなんてな、ハハハ。てっきりこのオレと戦うのが怖くて逃げ出したのかと思ったぞ」
謝った俺に対して、嬉しそうに煽ってきたのは俺の対戦相手である2年B組のリュウ=スペードルだ。
せっかく謝ったのにこう言われてしまえば少々腹が立つ……なんか無性にカチンときた。
今回の遅刻は俺にも落ち度はあるが、この男にだけは言われたくない。
こいつは【遅刻癖】のある男だ。
対戦相手であるこいつに対しては他にも調べはついている。
一言で言うと彼は無頓着な男だ。
遅刻や居眠りをはじめ、真面目に授業を取り組まないらしい。
そのせいでB組になったらしい。
しかし、実戦系の授業には積極的に取り組み、その力を存分にはっきしているそうな。
その傍若無人っぷりに周囲もあきれているという。
その話を聞いたとき、一緒にいたカロナは「どこかの誰かさんとそっくりね」と言っていた。
その発言の意味は俺には分からなかったが。
とにかく彼は周囲に束縛されることのない自由奔放な男子なのだ。
そんな自由かつ遅行癖のある彼に遅刻のことで煽られたのが悔しい。
そのことが俺を余計に腹立たせる。
「あんたにだけは言わせないぞ、スペードル先輩!」
「うるさいオレの勝ちだ。貴様の方が遅かった、ハハハ」
「何を~」
「貴様がなんといおうとオレのほうが来るの早かったからな、それだけは覆らな~い。ハッハッハ」
くそ、こいつ譲らねえ。
どんだけ俺が遅刻してきたことが嬉しいんだよ。
まあいい、ここは大人になろう。
ここで食い下がるのはガキだ。
しょうがないから折れてやろう。
俺は歯軋りしながら負けを認める。
「ま、まあいいでしょう。ここは俺の負けとします。ですが試合は必ず俺が勝ちますから」
俺の発言にスペードルはきょとんとした。
「え……? 何を言ってるんだ、メナ=ソウド。以前の対面式のときから疑問に思っていたが、貴様フォーカードをなめ過ぎなんじゃないか? 貴様の負けだ。この遅刻勝負にも……これからの試合にも、な」
さっきまで豪快に笑っていたスペードルは一変し、俺を軽く鼻で笑う。
……まるで俺のことを虎にはむかう猫だとでも思っているかのように。
おそらくその言い草はフォーカードという自分の絶対的な自信からきているのだろう。
(くそっ、バカにしやがって。絶対に勝ってやるからな)
彼の圧倒的な物言いに俺はよりいっそう闘志を燃やす。
「おい、その辺にしたらどうだ、リュウ。お前も遅刻してきただろ。少し大人げないぞ」
俺たちのやりとりを見かねてとある大柄で坊主頭の男が仲裁に入る。
その声は低くて荘厳なものだった。
「げ、ジョーカー先輩」
ジョーカーという男の威圧感に押されたのか、スペードルは大人しくなった。
あのスペードルを一瞬で収めるその男にその瞬間まで熱くなっていた俺も無意識に鳥肌を立たせる。
そして瞬時に悟った。
この人が学園最強と呼ばれているゴウスケ=ジョーカーなのだということを。
スぺードルを静めたジョーカーは俺に目線をあわせると握手を求めてきた。
俺は反射的に手をさしのべる。
「君がメナ=ソウド君だね?」
「はは、はい」
圧倒された俺は上ずった声で返事する。
「お会いするのは初めてだね。対面式の日は【風邪】を引いてしまって出席できなかったからね。ということで自己紹介がまだだったね。自分はゴウスケ=ジョーカーと申します。歓迎戦では上級生代表として大将を務めさせていただいている」
「ど、どうも、はじめましてです。俺はメナ=ソウドです」
互いに自己紹介する。
そういえばこの人と会うのは初めてだな。
対面式のときに欠席していた3人のうちの一人だっけ。
彼の発言から察するに原因は【風邪】なのか。
以外だな、学園最強とうたわれている人が【風邪】の人だったとは。
【風邪】の男、ジョーカーは俺の両腰に携えている刀に目を配る。
「よく君のことを耳にするよ。なんでもセイラ会長のお墨付きだとか。それに話によれば君は面白い武器を使うそうだな。その腰にさしているものかい?」
「ええまあ」
「ふ、興味深い。その実力を楽しみにしていよう。リュウもかなり手強いが、ぜひとも全力を尽くしたまえ」
「は、はい」
”パンパン”
俺が返事をすると、タイミングを見計らったセイラさんがパンパンと手を叩き注目を集める。
「さて、ようやくにして新入生歓迎戦選抜メンバー6人全員がここにそろいました。ということで簡単なご対面は以上にしましょう。私たちはこれから開会式に臨みます。上級生はここから東側の入場ゲートへ向かいます。そして新入生は西側のゲートから入場してください。では、行きましょう!」
「「はい!!」」
俺たちは大きな声で返事し互いを背に向け東西へ歩み始めた。
さあいよいよ開会式が始まる。
きつかったので、っち呼びに変えました。




