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24.新入生歓迎戦、開会式前

 あれからとくに何も起こらず日々が過ぎていき、新入生歓迎戦のときを迎えた。

場所は学園から少し離れた正式な円形闘技場、【コロシアム】である。

ここで歓迎戦が行われる。


朝の10時から開会式が始まるにもかかわらず、すでに開始1時間前のこの段階からたくさんの人々が闘技場の中でひしめき合っている。

生徒以外に一般人も観戦できるということがそれに拍車をかけている。

それほどにこの歓迎戦というものが興味深いイベントであるということを物語っている。


「ビールにお茶、コーヒーはいかがですか~?」

「ポップコーンもあるよ」


闘技場前のバザーで大きな声を上げるのはここぞとばかりに観客を相手に商売するがめつい商人たち。

この機会に便乗して一儲けするつもりなのだろう。


「おいらは新入生側が勝つに1000万円かける」

「じゃあ我は上級生側に2000万じゃ」


入り口隣にある券売り場の前で白熱した議論をかますのは賭け事をする貴族のおっさんたち。

この国では賭博好きな人が多いので、この歓迎戦もその対象となっているそうな。


彼らを哀れな目で眺めていると、ハルゴとカロナがこっちへやってきた。


「メナ君、早くおいで」

「クラスの応援席……こっち」

「ああ、すぐいく」


せかす二人に軽く返事をすませ、足早に会場内へ足を運んだ。



 幸いにもうちのクラスの応援席は一番前の列だった。

話によると選抜メンバーに選ばれている俺がいる1年H組が上位クラスの優先権を押しのけて、一番前の列を確保することができたそうだ。

まさか上位クラスの【暗黙の優先権】にうちかつとはな。

その分、他の上位クラスからのやっかみの視線はさけられないが。


「イエエエエエエイ!!」

「ヒャッフーーーー!!」

「俺たちH組のエース、メナ=ソウド君だあああ」


自クラスの応援席では俺を応援する声で埋もれている。

あるものは他クラスに俺のことを自慢するやつまで出る始末。

上位クラスに対して優越感を抱いている模様。


(はあ、まったくみんなはイベント好きだな……)


あくまでも大会の形式的な主役は俺。

なのだが、明らかにその本人よりもクラスメイトたちの方が盛り上がっているような。

その中心で酒をのみ、酔いどれているのはクラスの陽気な数人の連中だ。

その中にカロナの姿もある。

本来なら18歳未満の未成年だから飲酒はダメだろうと注意してやりたかったが、もうすぐに試合を控えている俺にはそんな余裕もない。


「みんな熱狂……楽しそう」

「くっ、そうだな」


隣にいるハルゴもたまらずにつぶやく。

俺と同じことを思っているようだ。

やっぱりそう思うよな。

よく朝っぱらからあんなにハイテンションになれるよな、けど俺も混ざりてえ。


「ところで勝てる自信は……メナ?」

「ん、試合のことか。へっ、俺が負けるはずないさ」

「さすが」


俺は胸を張って答える。

そうさ、こんなにも周りに期待させているんだ。

そう簡単に負けるわけにはいなない……というか負けるつもりも毛頭ないし。


通常ならH組のやつが上位クラスの上級生、ましてや学園の代表に選ばれる生徒に勝利するなどということは考えられないはずだ。

しかし、俺はこれまでにそのような考えられない状況を数多くひっくり返してきた。


これまでに同学年のA組の生徒やスウィンガ先生に決闘で勝利したり、最下位クラスにもかかわらずこうして代表に選ばれたりもした。

それゆえ、俺のふざけた発言もただの妄言と呼ぶには留まらなくなっている。

ハルゴの驚かない反応がそのことを証明している。


「メナく~ん♪ 本当に勝てると思っているのかな~?」

「むむむ、カロナか」

「エルメスさん……」


さっきまでクラスの連中と一緒に中心になってエキサイトしていたカロナがフラフラとした足取りでやってくると俺に忠告してきた。

彼女から酒のにおいがプンプンする。

相当酔っているみたいだ、しゃべり方も変だし。


くそ、自分たちだけ楽しそうに飲みやがって。

こちとら試合があるんだからそういうことできないっていうのに。

だからこうして端っこでハルゴとのんびりやっているというのに。

くっ、ちょっと悔しいな。

鼻をつまんでからかってやろう。


「あっ、今鼻をつまんだでしょ~。それはこの健気で可愛い女の子の私に失礼よ」

「だって羨ましいんだもん。俺は試合があるんだよ」


「それは残念ね。でも試合終わったら打ち上げで好きなだけ飲めばいいじゃ~ん。そう思うわよね、ハルゴ君?」

「うん……」


「うっ、二人の言うとおりなんだけどな。くそう、これが主役である代償というやつか」


みんなが楽しそうにワイワイするのを、現在飲酒できない俺は指をくわえて眺めるしかない。

そんな俺に合わせてくれている心の友、ハルゴにいたってはマジで聖人様と呼ばせていただきます。


(ふう、見ておれ皆のもの。こうなったらあとで暴れてやるからな、暴君になってやるからな)


と俺は心の中でメラメラと闘志を燃やした。

そして話を戻す。


「で、カロナ。いったいどういうつもりだ? 俺が勝てないとでも思っているのか?」

「100%はね。君のすごさは十分に知っているけれど、なんたって相手はあのフォーカードですもの」

「ああ、そうだったな」


相手はかの最強冒険者家系の一つであるファーカード、スペードル家の男子。

名前はリュウ=スペードル。

ボサ髪で小さくて八重歯が特徴的な男だ。

その上遅刻癖もある。

だが戦闘の腕は立つらしい。


他にも俺が調べた情報によるとジョブがスウィンガ先生と同じモンクとのこと。

その風貌からも察することができるように、彼は典型的で脳筋な近接職とみて間違いない。

つまりカモだ。

刀士の俺からすると少なくとも相性で行けば有利だと踏んでいる。


だが、カロナの心配するように俺とて決してスペードルのことを舐めているというわけではない。

やつのことは以前の対面式のときに確認済みだ。

そのことを踏まえて発言している。

それにセイラさんのお願いのこともあるし、俺は全力で戦うつもりでいる。


二人の助言に(うなず)き肯定すると、俺は思いついたかのようにハルゴを見上げる。


「そうだな、俺も真面目に戦おう。ハルゴ、開会式が終わったら一緒にウォームアップにつき合ってくれないか?」

「え……僕?」


俺からの唐突な誘いにハルゴは目を丸くする。


「朝起きていきなり試合とか良くないからな。コンディション最悪だし。万全の体勢で臨んだ方がいいだろ?」

「そういうことなら……大歓迎」

「うっし、じゃあ決まりだな。場所は闘技場の外にある摸擬戦公園の決闘フィールドな」

「了解!」

「サンキュ、あとで飯でもおごる」

「ありがとう」


交渉決定した俺たちは互いに腕を組む。


そうだ。

せっかく仲間がいるんだ。

こういうときには助けてもらってもバチは当たらない。

お互い協力することが大事。

心なしかハルゴからやる気が感じられるし。

これが円満というやつだな。


「ちょっと待ちなさいよ!」


円満。

……というわけにはいかなかったようだ。

一人だけ不満足な女子がおられる。


「カ、カロナ」

「なんで私を誘ってくれないの、メナ君?」

「いやだって、カロナ魔法士じゃん。相手はモンクだぞ」

「くっ」


「それにさ、ウォームアップは俺の出番の直前までやるつもりだ。だから第1試合の先鋒戦(せんぽうせん)を観戦するつもりはないんだ」

「あっ」


どうやらカロナは気づいたみたいだ。

先鋒戦はシホ=ハーティ対セイラ=エルメス。

つまり彼女のお姉さんの試合でもあるのだ。

俺の練習につき合うより、カロナはそっちの試合を見るべきだと思う。


別にカロナにこられると練習の邪魔になるなどということは決して思ってはいないからね。

『カロナは魔法の詠唱がくそ長い魔法士だ。そんな彼女は練習の足手まといだ』なんてことはこれぽっちも思ってないからね。

そこんとこは誤解しないでね。

こっちが本音というわけではないからね。


「そういうことだ。カロナはお姉さんの試合を観戦をするべきだと思うんだ。大事な家族の晴れ舞台なんだしさ」

「そうね、メナ君の言うとおりだわ。わかった、ウォームアップはハルゴ君に任せるよ」

「承知」

「ということでメナ君、しっかり頑張るのよ、ファイト!」

「ああ」


カロナは激励の言葉を投げかけると再びクラスメイトのもとへもどっていった。

俺はそのうしろ姿に目を焼き付けた。

そして気づいた。


そうか、カロナは俺を応援したかったんだな。

ありがとう。

任せておけ、カロナ=エルメス。

君が心配しなくとも大丈夫さ。

君は俺が勝つか不安になっていた……でもそれは俺を強く応援してくれている証。

その想いは十分に届いた。

あとは俺がそれに全力をもって応えるだけさ。


カロナの応援にいっそうやる気が高まった俺は強く拳を握り締めた。



その後スウィンガ先生がやってきて盛り上がっているクラスをまとめると、開会式のときがいよいよ迫る。

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