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22.祝福と対面式

 "キンコンカンコン"


学校につき、朝の予鈴がなる。

これから授業が始まるというのにすでに疲れきった俺は自分の机の上で大きなため息をついた。


「ふう、まさかあんなに集られるとは」


昨日はカロナのことで色々あったが、新入生歓迎戦の選抜メンバー発表の日でもあった。

それを境に下位クラスである俺がメンバーに選ばれたということが学園の全生徒たちに知られることになった。


上位クラスにとってはそれが不愉快極まりないことなんだろうが、下位クラスにとっては余程に誇らしきことだったのだろう。

俺は先ほど教室についたと同時にクラスメイトたちから集られ盛大に祝福された。

あるものは俺にサインやハグを求め、またあるものは「さすが刀使いのメナ君だ」などと褒めちぎってきた。

朝っぱらからこのように来られると疲労しない訳がない……ただでさえカロナと朝を過ごしてきたばかりなのに。


とにかくそのことで疲れきった俺はこうして机に突っ伏しているのだ。

そしてまもなく朝のHRがはじまろうとしている。



 スウィンガ先生が教室に入ってきた。

そしていつものよにHRがはじまる。


「じゃ、HRをはじめるぜ。さて、今日は朗報がある。昨日の暴動騒ぎの件もあるが、それよりも良いことだ。まあ知っているやつが大半だろう、新入生歓迎戦の選抜メンバーに我がH組のものが選ばれた」


先生はこちらへ目線をむけるとふと笑みをこぼす。

そして俺を指差した。


「おめでとう、メナ=ソウド君。さあ前まで来てくれ、改めて祝福させてもらう」

「あ、はい」


はあ、また祝福かよ。

朝来てからみんなに祝われたばかりなのになあ。

もう眠いから勘弁してくれ。

みんなの羨望(せんぼう)の眼差しがまぶしいよ。


俺はだるそうに返事しながら起立すると、猫背で教壇前へ。


「ここでいいですか?」

「もうちょっと左の方がいいかな」

「はあ」


ふう、ここが教壇からの景色か。

みんなからの視線がメチャクチャ集まるじゃん。

なんかスゲー目立つんだな。

先生は普段からここで授業やってるのかよ、尊敬するよ。


指示通りに俺が教壇の真ん中に立つと、先生は話を続けた。


「でははじめよう。メナ=ソウド君、もう一度言おう。君は選抜メンバーに選ばれた。先日俺にタイマンで勝った君のことだ。君が選ばれてもおかしくないとは思っていた。でもまさか本当に選ばれちまうとはな、ははは。ま、先生も担任として非常に誇らしく思うよ。クラスのみんなもきっと同じことを思っているだろう。ということで本番まで日はあるが一足先に祝いとして君の健闘を祈りたい。全力を尽くして頑張れ、メナ=ソウド!!」


「「頑張れー!」」

「「わああ~」」


クラスメイトたちから拍手が送られる。

それがまた新鮮に感じられた。



 長い拍手がなりやむと、祝福の儀が終了する。

俺は席に戻ろうとすると、先生が最後に一言そえてきた。


「ああ、言い忘れてた、ソウド君。今日の放課後に選抜メンバー【対面式】がある。場所は生徒会室、忘れずに参加しろよ」

「は、はい」


俺は返事を済ますと、席についた。






 「はあ、対面式か」


生徒会室前。

放課後となり、これから対面式なるものがはじまるそうだ。


「知らない人と初めて対面するってなんか緊張するんだよな~。なんたって相手が学園のトップだからなあ。……よし、行くか」


緊張していた俺は覚悟を決めると生徒会室へ入った。


「おっ、メナ君ですね。お待ちしてましたよ」

「あっ、メナっちだ~」


俺が入室すると二人の生徒が出迎えた。


手前の席に座っているのがセイラさんだな。

一瞬カロナかと思ったぜ。


その向かいに座るもう一人は同じ1年生のシホ=ハーティさんだったかな。

なんかよくわからんピンク色でハートっぽい髪型をした巨乳の背の高い女子だな。

こいつはいったい何者なんだ?

入学式の宣誓のときに一度だけ顔を合わせたことはあるが、そのときからやけに馴れ馴れしいというか、俺のことを「メナっち」呼びしてくる。

どこかで会ったのかな?


シホ=ハーティについて気になるが、とりあえず俺も空いている席に座ることにした。

そしてセイラさんが話をはじめる。


「はい、これで全員そろいましたね。では始めましょうか」


ん?

これで全員だと?

たしか選抜メンバーは新入生側が3人と上級生側が3人の計6人のはず。

だけど部屋にはセイラさん、シホ=ハーティ、俺の3人しかいないぞ。

これは何か事情があるのかな?

ちょっと質問しておこう。


「あの~、セイラさん。3人しかいないですよ」


恐る恐る発言する俺に対し、セイラさんは優しく答えた。


「あら、言ってませんでしたね。残りの3人は欠席ですよ」

「えっ?」


「それぞれ事情がありますの。【家の用事】で忙しかったり、【風邪】を引いたり、ただの【遅刻癖】だったり」

「そうなんですね」


へえ。

さすが選抜メンバーなだけはあるか、家の用事があるとは。

風邪はちょっと意外かな、ここに呼ばれるようやつでも風邪とかは引いたりするんだな。

遅刻癖は知らない、こいつただの不真面目なやつじゃん。


俺がそれぞれの欠席理由を確認すると、セイラさんは話を続ける。


「本当は対面式の予定でしたのにね。少々もの寂しいですわね。

……ですがいくつかあなたたちにお話したいことがあったので、少しお話しましょう」


「「はい」」


セイラさん主導のもと、俺とシホは素直に従う。


「ではこの場を借りて……。シホ=ハーティさん、メナ=ソウド君。このたびは新入生歓迎戦の選抜メンバーに抜擢(ばってき)されました。本当におめでとうございます」


「どうも」

「こちらこそありがとうございます」


セイラさんは拍手で称える。

俺たちはおじぎで返す。


「健闘を祈りますわ。とくにシホさんは相手が私ですからね、おほほ」

「ふふ、そうですね」


セイラさんはシホ相手に冗談まじえに笑う。

そしてお茶を一服すると、真面目な顔になる。

彼女は急に俺の方へ視線を向ける。


「さて、この話はここまでにしておいて……。コホン、ここからはメナ君のことになるわね」

「お、俺ですか?」


「ええ。二人とも昨日の暴動騒ぎはもちろん知っているわよね?」

「「はい」」


「まずはそのことで謝らせてください。みんなを不安にさせてごめんなさいね」


セイラさんはペコリと頭を下げる。


「とくにメナ君よね。あなたがメンバーに選ばれたということが騒ぎの原因だったみたいだし。選んだの私なのにね」

「いえいえ、とんでもございません」


「ありがとう、メナ君。それに話はキエから受けているわ。試合を欠場させるために、昨夜あなたが暗闇部隊に襲われたって」

「なっ……!?」

「ああ、ご存知でしたか」


そういえばキエさんが自宅に報告するとか言ってたな。

それがセイラさんにも伝わったということか。

一方でシホは初耳なのか驚いている。


「部隊に依頼したのは間違いなく上位クラスの生徒よ。このようにあなたは本番まで何かしらの干渉を上位クラスから受けることになるかもしれないわ」

「はあ」


セイラさんは眉をひそめる。


「それでも君には試合に出てもらいたいの」

「え?」


俺はその発言に驚かされた。


これは強情とでも言うべきなのか。

今なら選抜メンバーを変更することだってできるはず。

俺じゃなくて別の誰かを指名し直せば、俺は上位クラスから被害を受けなくてすむ。

それが最善の策だ。

だから俺はセイラさんが俺の出場を取り消すつもりでいると思っていた。

そのことをこの場で話すのだろうと勝手に思っていた。


しかしそれは間違いだった。

セイラさんはそれでも(なお)、俺に出場するようにお願いしてきたのだ。

俺はその発言に疑問を抱いた。


「以前あなたにお話したことがありますね。私は学園のために、上位クラスと下位クラスの間の(みぞ)を少しでも埋めたいと思っています。そのためにも下位クラスであるあなたの実力を、新入生歓迎戦という舞台で全生徒たちに証明して欲しいのです。そうすれば、『下位クラスでもできるやつはできるんだ』ということをしっかりと理解してもらえるはず。つまり、クラスやステータスだけが己の価値を決める物差しではないということを教えてあげたいのです」


「なるほど」

「そのためにも協力していただけませんか?」


すべては学園のため……か。

セイラさんの誠な目に偽りの色はない。

どうしてこれを拒むことがあろうか?

俺は二つ返事で彼女のお願いを承認する。


「はい、もちろんです。俺にできるなら」

「ありがと。それとこれはちょっと贔屓(ひいき)になるのだけども、できたら勝ってくれると嬉しいかな?」


「勝つ……ですか?」

「ええ、たしかにあなたの対戦相手、2年B組のリュウ=スペードル君はフォーカード、スペードル家の一人でありメチャクチャ強いわ。だけどそんな彼に勝利することは下位クラスであるあなたの強さを示す絶好のチャンスになるはず」


ふむ。

どうやらこの歓迎戦、俺は負けられないらしい。

でも最下位クラス所属のこの俺が上級生代表、ましてやフォーカードが一人のスペードルを相手に勝利するということは非常に困難なことではある。

が、この刀さえあればまず負けないだろう。

なんせ俺は村一番の天才と呼ばれた男だから。


「はあ、セイラさん。必ず勝って見せます」

「ありがとう、メナ君」


俺は勝つことを誓った。

そのとき。


"ドンッ"


「おっと、それは聞き捨てならねえーなあ!!」

「「……!?」」


強い口上とともにドアが勢いよく開く。

それと同時に姿を現したのは髪の毛をボサつかせたやや背の低い筋肉質な男子だった。

男子は鋭い眼光で俺を(にら)み付けてくる。

彼が俺の対戦相手であるリュウ=スペードルであるということが直感的にわかった。


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