16.選抜メンバー発表、そして反省した
投票を終え、放課後になった。
場所は講堂前の巨大掲示板である。
まもなくここで選抜メンバーの発表が始まる。
A組の生徒に大金を賭けたみんなはその発表を緊張した面持ちで見守っている。
だが、その緊張もやがて絶望へと変わるだろう。
なぜなら大穴は俺だから。
(くくく、俺とハルゴの二人勝ちだぜ。ざまあないね……)
と思いながら、5分前までは最高にテンションが上がっていた。
しかし、"あること"を知ったためにそのテンションが急降下した。
そして今に至っている。
俺は肩を落としながら、その原因である女子を見つめた。
その女子とは隣にいるカロナ=エルメスだ。
「いよいよ発表だね」
「ああ、そうだな……」
真顔のカロナが俺に語りかける。
俺はそれを気だるげな表情で返す。
「どうしたの? 元気ないわよ?」
「だってカロナ、俺に全額投票したんだろ?」
なんとカロナ=エルメスは選抜メンバー予想の投票で俺に上限金額である100万円を賭したのだ。
まあ学園には王族の彼女に限らず金持ちの生徒は多いので、彼女らにとってそれは安い金額ではあるらしいが。
彼女からすると100万の賭け事などというのはちょっとしたお遊びにしか過ぎないらしい。
そういうわけで彼女は遊び半分で大穴を狙うために俺に全額投票したんだとさ。
つまり、こいつのせいで俺への配当金が大幅に低くなってしまったわけだ。
これが俺を大きく落ち込ませた原因だ。
「ええ、私はあなたに投票したわよ。どうせなら賭け狂わないとね」
「くっ」
ポーッとした顔で返すカロナ。
彼女は真性にとぼけている。
くっ。
よくも俺に投票しやがって。
ねえ、なんでわざわざ俺に投票しちゃったの?
他にもいたでしょ?
それに100万全額ぶっこむなんてやめてくれよぉ、俺への配当がゴミになってしまったじゃないか!
しかもその博打、超大当たりだ。
王族恐ろしいぞ。
など言いたいことは山ほどある。
「俺は自分に投票したんだ。それなのに君も俺に投票したって言うのだろ? そうすると俺への配当が減ってしまうじゃないか!! なにやってくれているんだよ、バカ!!」
俺は少し怒りの混じった口調でカロナに罵声を浴びせる。
「あ……ごめんなさい、私……」
あっ……。
言い過ぎてしまった。
カロナは急に申し訳なさそうになると、涙目で俺を見つめた。
それを見て、さきの怒りから一変罪悪感にさいなまれた俺はどうすることもできず、ただ口を固くしかなかった。
そうして最悪な空気のまま発表を待つことに……。
◆
かなり気まずい状態で時間だけが過ぎていったが、ようやく発表が始まるようだ。
セイラ=エルメス含め生徒会のご一行が、デカい貼り紙と布を持ちながら掲示板前へやってきた。
そして掲示板に貼り紙を貼り、それを布で隠した。
「おおー、生徒会がやってきたぞー」
「ついに発表されるのね」
「さあ、俺の予想した選手が載っていますように」
「緊張する~」
etc。
周囲の生徒たちは盛り上がる。
それほどにこの選抜メンバーの発表が楽しみなのだろう。
今の俺にそんな余裕はないが。
「みなさん、お待たせいたしました。これより国立アルメナ学園、新入生歓迎戦の選抜メンバーとその対戦相手の発表を行いたいと思います」
セイラが全員の目の前にやってくると、彼女はペコリと頭を下げ、あいさつする。
「「フーーー!」」
ギャラリーの歓声。
「また、さきほど投票していただいたメンバー予想において、見事に正解された生徒には後日口座に配当金が振り込まれます。そちらのチェックもしておいてくださいね。…………それでは、発表です!」
セイラが合図すると同時に、貼り紙に被せられていた布が剥がされる。
そして選抜メンバーの名前が明らかになった。
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●新入生歓迎戦 対戦表
◯先鋒
新入生代表:シホ=ハーティ(1年A組)
上級生代表:セイラ=エルメス(3年A組)
◯中堅
新入生代表:メナ=ソウド(1年H組)
上級生代表:リュウ=スペードル(2年B組)
◯大将
新入生代表:ノマン=クローバ(1年A組)
上級生代表:ゴウスケ=ジョーカー(3年A組)
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選抜メンバーの発表がされた。
A組やB組の面子が並ぶ中、一つだけ明らかに浮いているアルファベットがある……それはHだ。
最下位クラスの象徴であるH組の文字が、掲示板に載せられていた。
俺以外の生徒にとってそれはあまりにも想定外すぎた。
なぜ、下位クラスが?
しかも、底辺クラスのH組?
階級意識の強い上位クラスの面々が、このことに納得いくはずがない。
このあと彼らからとてつもない阿鼻叫喚が起こるのは当然のことだった。
◆
俺はとっさにカロナを連れて学校を出た。
「はあはあ…………とんだ暴動騒ぎになってたな……」
「そ、そうね……」
さっきの講堂前でのことである。
H組の俺が選ばれたことにどうしても納得できない連中が騒ぎだした。
しまいには生徒会に対して暴力をふるうまでの規模となり、相当なカオティックへと昇華した。
さすがにそのような修羅場に居残っていても仕方ないので、俺たちはそそくさと帰ることにしたのだ。
そしてさっきのことを引きずっている俺たちは気まずそうに会話する。
「まさか本当にメナ君が選ばれるなんて……メナ君の配当を減らしちゃったのは申し訳ないわ。ごめんなさい」
カロナは頭を下げた。
それを見て俺はふと思った。
(あれ? 悪いの俺じゃね?)
俺は気づいた。
"本来謝るべきなのは俺なんだということを"。
カロナは正当に俺へ投票し、見事に的中させた。
その一方で俺は自分が選ばれることを知っておきながら自分に投票した。
完全に卑怯ものだ。
それにとどまらず、俺は「自分に全額投票したことで俺の配当金が減ってしまうじゃないか」などという文句をカロナに吐いてしまった。
(冷静に考えたらあまりにもひどいやつ過ぎるぞ)
俺はこの自分勝手すぎる振るまいに今しがた気づかされた。
金に目が眩んでいたせいでそのことに気づかなかった。
悪いのは俺なんだ。
カロナはいっさい悪くないんだ。
(こうなったらカロナに自白しよう)
俺は勇気をだしてカロナに全てを打ち明けることにした。
「カロナは謝んなくっていいよ。それは公正に君が当てたことだ。だけど俺はズルをしたんだ」
「え?」
「本当は俺が選ばれるのを知ってたんだ」
「うそ?」
「嘘じゃない! セイラさんに聞けばわかるさ」
「…………」
「俺は知っていた……それなのに自分に投票することでたくさんのお金を得ようとしたんだ……」
「そ、そう」
「しかも俺は配当金が減ってしまうという理由で、君が俺に全額投資してくれたことまで邪険に思ってしまった。君の思いをないがしろにしてしまった。……へへ、俺はどうしようもないやつさ。……うっ……ごめんな……カロナ……うっ」
俺は泣き崩れてしまった。
普段はいきがってる俺だが、実は少々繊細なのだ。
今の姿を見てカロナもきっと引いていることだろう。
だがそれに構わず俺はこの校門前でしゃがみこんだ。
生徒たちはまだ講堂にいるので、さいわいその姿を他の誰にも見られることはなかった。
「メナ君は悪くない!」
しかし、カロナは俺を責め立てることなく……むしろ抱き締めた。
彼女のデカくやわらかい胸の感触が顔面に伝わる。
俺はカロナの両乳に顔をうずめている。
その絵面は端からみると、かなりマズい。
しかし、そんなことに構っている余裕はない。
「カ、カロナ?」
「メナ君は悪くないよ。悪いのはそのことをうっかりメナ君に知らせてしまったセイラお姉さまよ」
カロナは責任をセイラに転嫁する。
しかし、それはあまりにもとんでも理論のような気もする。
「ゆ、許してくれるのかい?」
「もちろんよ」
「ありがとう……カロナ」
「どういたしまして」
許してくれるみたいだ。
カロナはなんて優しいんだろう。
そんな彼女に俺は敬服する。
「あっ、メナ君、服」
「え? あっ……」
俺は自分の服が汚れていることにきづいた。
地面にズボンがつき、上服は涙でクシャクシャになってしまっている。
「ねえ、メナ君。うちに来ない? 洗ってあげるよ」
「え? カロナの家に」
「ええ、行きましょ!」
「あ、ああ」
ってなわけで俺は王宮に招かれた。




