15.選抜メンバー予想という名の賭け事
あれから3日たった。
これといって何事もおこらずに日にちだけが過ぎた。
そして今日は新入生歓迎戦の正式なメンバー発表の日。
生徒会長のセイラからその試合に出るように言われた俺の名前も、そこで発表されることになる。
教室にて。
今は朝のHRの時間。
担任のスウィンガ先生がいつものように行事連絡をする。
「えー、本日は来週に開催される新入生歓迎戦の選抜メンバーと、その対戦相手の組み合わせの発表がなされる」
「「おおお!」」
「まってましたぁー」
「学校行事だあ」
入学してからはじめてのイベント。
クラスメイトたちはそれをすこぶる楽しみにしている。
新入生歓迎戦とは文字通りのイベントである。
生徒会によって選ばれた優秀な新入生と上級生とが戦うものである。
つまり、学園のトップレベルの生徒どうしの戦いを生で見ることができるのだ。
これほど生徒たちを熱くさせるものはない。
それは下位クラスから上位クラスまでの幅広い生徒をエキサイトさせる。
「えー、その発表の時間は放課後、場所は講堂前の掲示板だ……それとなんだが…………」
先生は言葉を詰まらせる。
何か重大なことを言うようだ。
一息つくと、再び話始める。
「えー、これは毎年行われていることなんだが…………実は歓迎戦の選抜メンバーを予想するというサブイベント的なものがあってだな。それが【賭け事】として伝統的に行われているんだ!」
「「なんだってええー!?」」
先生はとんでもないことをカミングアウトした。
選抜メンバーの予想が……賭け事だと!?
それは初耳だ。
「まあ余興ってやつだ。一口500円の上限100万円の範囲で、好きな生徒に投票できる。選ばれるのは基本的にはA組の生徒のはずだからしっかりと彼らに投票しておくように。期限は昼休みまでだ。しっかりと投票し終えとけよー」
「「は、はい!」」
「ということでHRは以上! 今日もしっかり授業をうけてくれよな!」
「「はい!!」」
朝のHRが終わった。
◆
昼休み。
午前中は選抜メンバーのことで話が持ちきりだった。
いったい誰が出場するのだろう?
という予想がクラスメイトたちの中で話題の中心となっていた。
候補であるA組には名の知れた一族の生徒が多いらしい。
「あの権力高い貴族、ワルワ家出身の子が出るん
じゃないか?」、「いや、かの王様側近の衛兵家系の盾士、キッシ=ナイトウ君が大穴ね」などという予想が真剣になされていた。
しかし、田舎出身の俺はその辺の情報に疎い。
それゆえ周囲の話にほとんどついていけなかった。
かろうじて認識できたのは、入学式で一緒に新入生代表をつとめていたフォーカードのノマン=クローバという模範男子とシホ=ハーティというエロそうな女子だけだ。
まあ、みんなの中でもこの二人が【本命】らしい。
しかし、フォーカードの二人だとオッズ (倍率)が低いということは言うまでもない。
彼らに投票してもたくさんのお金をもらえるわけではないからである。
やはり【大穴】を狙うのが一番の楽しみ。
その大穴を狙うため、クラスメイトたちは一生懸命に予想しているのだ。
そしてそんな彼らを横目に、俺は一人でプルプルと震えていた。
ついさっき俺はその賭け事のことを知り…………そして、あせっていた。
(俺……選ばれているんだけど。……答え知っているんだけど)
俺は自分が出場することを生徒会長によって知らされている。
俺は冷や汗をかきまくっていた。
本来なら、選抜されるメンバーは発表されるまで誰も知らない。
生徒会のものだけが知っている。
しかし、セイラから頼まれた俺は、俺自身が選抜メンバーの一人に選ばれているということを知っているのだ。
つまり、俺は自分という超大穴に投票することで莫大な金を手にすることができるのだ。
俺は天才なので、そのことに気づいてしまった。
「くくく……このギャンブルは俺の一人勝ちのようだな」
俺は不敵に笑った。
「メナ……早く投票」
「あ、ハルゴ。気づかなかったよ」
悪巧みしていた俺はハルゴの存在に気づかなかった。
ハルゴは不気味にニヤつく俺を見て不思議そうに見てる。
「じゃあ行くか」
「うん……」
俺たちは足早に投票会場である講堂へ向かった。
◆
講堂に着いた。
俺たちは投票に向かう。
投票はノートのようなそのへんのテキトーな紙の切れ端に、自分の名前及び予想した生徒の学年とクラスと名前を記入し、それを指定された箱の中に投函するだけである。
そのさいに投票した口の数だけお金がとられる。
このようにいたってシンプルな方法で投票は行われる。
そして、すでにたくさんの生徒たちがここに来ている。
そのため、かなりの行列だ。
少し待たねばならない。
俺とハルゴもその行列に並び、話しながら時間をつぶす。
「ハルゴは誰に投票した?」
「A組のクローバ君とハーティさん……」
「手堅いねえ」
「リスクは……苦手」
なるほど。
ハルゴはそういうタイプか。
こういう賭け事で人の性格とかがわかってしまうからなあ。
挑戦的なやつはここで大穴に大金を突っ込んで夢を見るのだろう。
そして、自分が選ばれるとわかっていながら周囲にそれを黙り、自分に投票するというとんでもなく性格の悪い天才もいる……俺のことだ。
このくらいやっても、きっとバチは当たらないだろう。
「メナは……誰に?」
「ふっ、それはこの俺だ」
さすがに人に聞いておきながら、自分は答えないというのは悪い気がする。
仕方ないので俺は自分自身に投票したことを明かしてゆく。
「はは……メナ面白い」
腹を押さえながら笑うハルゴ。
自分に投票するのが相当おかしいらしい。
「まあな」
「じゃあ僕もメナに……」
「えっ?」
まさか便乗してくるとは。
「面白そうだし……。それに奇想天外なメナならあり得る」
ふはっ。
こいつやりおる。
おかげで取り分が少し減ってしまうじゃないか。
でも同時に嬉しい。
あの堅実なハルゴが俺を選んだ。
それはつまり、俺の強さを認めてのことだから。
嬉しくなった俺はついつい彼の肩をポンポン叩く。
「おお、わかってるじゃないか~、ハルゴ♪」
「ああ……」
そして、投票のときを待った。




