14.先生のかわりに授業することになった
体育館にて。
なんだかんだで試合が終わった。
結果は俺の勝ちだった。
「あ、あれが刀士、メナ=ソウド……」
「やべえ……なんてというスキルだ」
「一発で勝っちゃった」
「彼は学術だけでなく戦闘もすごいのね」
etc。
驚きの声をあげるクラスメイトたち。
そして、俺にやられて目を丸くしているスウィンガ先生。
「メナ=ソウド君……まさかこれほどの実力とは」
「いえいえ、先生もなかなか手強かったですよ」
俺が勝てたのはたまたま相性がよかったからだ。
先生はモンクという近接物理職。
刀士の俺は彼のような近接職相手には滅法強いと自負している。
それに戦っていてなんとなく感じたのだが、先生のランクはさしずめ筋力と敏捷とセンスでBランクくらいなのだろう。
たしかに相当優秀なステータスではあるが、俺には到底及ばない。
俺が勝つのは当たり前だった。
「君のステータスは魔法士向けだったから、それに備えた戦い方をしたつもりだったのだけどね。まさかその刀技は近接系のものがだったとは……。少し油断していたよ」
「残念でしたね、俺は魔法使えないんですよ」
「なにっ!? 魔法が使えないだと」
俺の本当のステータスを知っている先生だけがそのことに異常に驚いている。
その事情を知らないクラスメイトたちはちんぷんかんぷんでいる。
「まあ精神的な理由があるのですけどね。たとえ強大な魔力を持っていたとしてもそれを使いこなせるかどうかは別の話なんですよ」
「なるほど。何か訳があるようだね」
「まあ」
「わかった……。細かいことは聞かないよ」
先生はこれ以上触れてはいけないと勝手に悟ったようだ。
彼は気まずそうに目線を下に下げた。
別にそんなに大層な話ではないのだけれどな。
はじめて魔法を使ったときに山を丸々一個吹っ飛ばしてしまったことがトラウマになっているだけさ。
それ以降は魔法を一度も使っていないんだよ。
「お気遣いありがとうございます」
「もしかしてその魔法が使えないということが、君が刀という武器を使っている理由なのかい?」
「まあそうなりますね」
俺は先生の質問に答えた。
その後、なぜかクラスメイトの方からざわつきを感じた。
「「へえ」」
「ソウド君って本当は魔法が得意だったんだ」
「だけど『得意』と『使える』は別なんだね。魔法が使えないからあの摩訶不思議な刀っていう武器を使っていたんだ」
「でもよくそれであの先生に勝てたよね~。刀技ってなんなのかしら?」
「たしかに~。気になる~」
刀技の存在がクラス中に波紋を広げている。
刀技によって先生を一撃で倒したことが納得できないらしい。
なにやら余計に"興味"を持たれたみたいだ。
そもそもさっきの試合はみんなが"俺の実力を知りたいという興味"が原因で勃発したものだ。
そして試合が終わってみれば、今度は"先生を一撃でしとめた刀技を知りたいという興味"を新しく持たれてしまったのだ。
(やれやれ、これじゃあ先生と決闘する意味なかったじゃん。……ふう、ここまで来たら洗いざらい説明するしかなさそうだな。最初っから刀技の説明をした方が良かったのかも)
俺はため息をつきながらここにいる全員に呼び掛けた。
「みんな、刀技について少し説明するよ」
「頼むよ」
「なんでそんな武器で先生に勝ったのか気になるわ~」
「僕も」
先生に勝った理由について自分の経緯を含めてみんなに説明することにした。
「さて、今言ったように俺は魔法が使えないんだ。しかし、冒険者として生きていくには魔物たちと戦わなければならない」
「「そうだね」」
「だから当然、魔法を使用できないから魔法士になることは不可能だ。そこで別の職にしようと思ったのさ」
「なるほど、モンクやメイサー、盾士などにするつもりだったのだな」
「そのとおり。しかし、そこには不都合があった」
「「ほう?」」
みんながみんな食い入るように俺の話を聞いてくれている。
こんな田舎者の俺の話を親身に聞いてくださるなんて……。
俺はそのことをありがたく思いながら話を続けた。
「俺は筋力がEランクで耐久力がFランクなんだ。つまり、そこらの一般冒険者レベルさ。だから近接系のジョブは本当は向いていないんだな」
「「ええっ!?」」
実はそうなんだよ。
俺は近接職に必須な筋力と耐久力がクソなんだ。
それなのにスウィンガ先生に勝利したのが奇怪でならないはず。
だからクラスメイトたちは驚いている。
「俺もアホじゃない。そこで考えたんだ、どうすれば戦えるようになるのかをな。それで思い付いたのがこの刀という武器だったわけさ」
「「へえ」」
「この原理について説明するのは面倒だから省略するけど、とりあえずこの刀さえあれば、どんなに筋力がなくても敵に大きなダメージを与えることができるんだ」
「「すげえ」」
俺は刀を簡単に振りながら言う。
その様子は、異世界から転移してきた人が元の世界独自の文化を説明しているのに似ている。
まあ別に俺が異世界から転生してしきた人ということではないがな。
……いや、実は俺は異世界転生した人なのかもしれないな……前世の記憶はないけれどね。
「そうだな、誰か使ってみないか?」
さて、軽く説明したものの口で言っても伝わらない気がした。
ここは実際に誰かに体験してもらう方が良さそうだ。
「ええ? どうする?」
「誰いく?」
「なんか怖いかも」
提案してはみたが、みんなビビってる。
刀に興味はあるものの、今までになかったその新たな武器を受け入れることが不安らしい。
保守的な彼らはもぞもぞしている。
かなり躊躇している。
(このままでは誰も刀に触れようとしない……。誰かいないのか?)
俺は周囲をキョロキョロ確認する。
しかし、全員目をそらす。
くそっ、誰もやりたがらねえ。
こうなれば友達のカロナにお願いするしかないな。
ハルゴに頼むのも悪い気がするし。
「カロナ、頼んでいいかい?」
「えー、少し怖いよ」
渋るカロナ。
「お願いだよ、ちょっとだけでいいからさ」
「そこまで言うなら……」
カロナは渋々と承諾してくれた。
「ありがとう、じゃあこっちに来てくれ」
「ええ」
◆
カロナを隣に来させると、刀を渡した。
「おお、これがカタナ……」
カロナはかなり神妙そうに刀を握りしめる。
「どうだ、けっこう軽いだろ。振ってみな」
「うん」
"ブンブンッ"
カロナは刀を振り回す。
「おお、上手いじゃん」
「あら、そうかしら~? ありがとう、メナ君!」
少しほめてやると犬のように喜ぶカロナ。
ふふ、こいつチョロいぜ。
とはいえ、はじめてにしては本当にさまになっている。
マジで彼女には剣撃センスがある。
彼女になら刀をプレゼントしてやってもいいかも。
それくらいに上手い。
「カロナさん、すごい」
「さすが王族」
「すばらしいですわ」
クラスの人気者のカロナが上手に刀を扱っている姿を見て、クラスメイトたちも刀に対する恐怖心が小さくなってきているようだ。
「私天才かも」
カロナはご機嫌になった。
「よしよし、では実際にこの威力を見てもらおうかな。……そうだ、そこのミットで試してみよう」
授業で使う予定だったっぽい盾のような形をした木製のミットがそばの床に積み上げられているのを確認した。
俺はこれを使おうと思い立った。
「スウィンガ先生、そのミットを使ってもいいですか?」
「ん、ああ。かまわねえぜ。いっそのこと君が授業してくれ」
うっ。
今言われて気づいたのだが、俺は完全に先生の授業を乗っ取ってしまっている。
まるで俺がクラスメイトたちを相手に講義している状況になりつつある、というかなっている。
だが背に腹は変えられん。
申し訳ないが、少しだけ授業の時間をお借りさせてもらう。
「ごめんなさい、スウィンガ先生。すぐに終わりますから」
「あ、いや、怒ってないぞー。俺も気になるから。それにこれも立派な授業だ。ありがとな、先生助かるぞー」
「あ、そうですか。ではお言葉に甘えて」
どうやら先生は肯定的らしい。
頭の硬い先生ならこういう場合怒るだろう。
しかし、柔軟なスウィンガ先生は俺が刀技を説明するのを快く許可してくれた。
なんていい先生なんだと内心で感謝しながら話を進める。
ミットをカロナの目の前の壁にかけると、彼女に指示した。
「じゃあカロナ、刀を使ってミットに攻撃をあててみてくれ」
「わかった!」
カロナは構える。
そしてクラスメイトたちもそれを固唾をのみながら見守る。
「じゃあいくわね。……せやっ!」
カロナは刀を振りかざした。
さあ、どうなるか?
俺の予想ではミットは真っ二つになるだろう。
"スパーン"
予想通りの結果となった。
ミットは綺麗な切り口を残して、見事に切断された。
「こ、これが刀技!?」
カロナは自分の攻撃に驚いている。
そして、ワンテンポ遅れてクラスメイトたちからどよめきが起こる。
「すげええぞ!!」
「二つになった」
「なんという奇妙な現象なんだ」
「こんな形状みたことない!」
斬撃という概念のない彼らにとって、そのミットの痕跡ははじめてのものだろう。
だからミットが真っ二つに裂かれたことの意味をただちに理解できないはず。
俺はそこで補足する。
「これが何を意味するかわかるか?」
「「いや……」」
全員首をふる。
「そうだよな。えー、ご覧のように木のミットが二つになった。つまり、この木よりも柔らかい人体に対しても同じように真っ二つにすることが、この刀技によってできる。ここまではオーケーか?」
「「うん」」
全員うなずく。
よしよし、ここまで理解してくれている。
授業するなんてはじめてだから、伝えられるかどうか不安で仕方ない。
だけど今のところ上手くいってるみたいだ。
こうやって一歩一歩説明してやれば良いのだな。
そして俺は続けた。
「で、それはどういうことかと言うとだな……。人体ってのは心臓をはじめ、生命にとって大事なものが詰められているものだよな。もしそれをこのミットのように真っ二つにしてしまうとな……………………容易に命を刈り取ることができてしまるのだよ……。真っ二つにするということはそういうことを意味する」
「「なっ!?」」
たったの一撃で人の命を奪うレベルというあり得ない次元の話をされて、みんなの表情は急変する。
それほどにとんでもない理論が展開されているのだ。
俺が提唱した刀技という議論がメチャクチャ恐ろしいということを意味している。
「これが刀技の強さであり怖さだ。といっても鉄などの硬い金属で作られた刀に限る話だ。さっき先生に放ったときは木製の刀だったからそこまでの威力はないんだよ。ま、それでも一撃で先生を倒すくらいの威力はあったんだけどね」
「「す、すごい!?」」
「これが刀技の種明かしだ。しかもこれは筋力を必要としないからね。だがら先生を一発でやっつけることができたのさ。要するに、刀が革新的で優秀な武器だということだな」
最後はそれっぽく締めくくった。
こうして俺は刀について講義した。
このあと一区切りつくと、先生に授業を返した。




