11.生徒会長からの誘い
俺はさきほどの決闘において見事な戦いぶりを披露したことで、生徒会長のセイラ=エルメスに目をつけられてしまった。
その流れで生徒会室に連行された。
「お茶とってくるからそこで座って待っててくださいね」
「は、はい」
セイラは俺を部屋のソファに座らせると、お茶をとりにいった。
本来なら彼女のような美人女子とお話するだけでも緊張してしまうはずなのだが、さいわい彼女は妹のカロナとそっくりなので、カロナと話慣れていた俺はあまり動揺することはなかった。
することのない俺はフカフカなソファに身を預けそわそわする。
「ここが生徒会室か~。なんか事務所みたいだな」
ここはどこにでもありそうな感じのごく普通の生徒会室。
俺が座らされている客人用のスペースの隣には机が5つある。
きっと生徒会のメンバーのものだ。
普段はここで会議しているのだろう。
今は4時間目の授業が始まっているので、そのいずれもが空席だ。
セイラが戻ってきた。
彼女は俺にお茶を渡すと隣に座る。
「はい、どうぞ」
「どうも」
お茶を一口すする。
俺はお茶を飲むことでまったり気分になろうとしたが、そうはなれなかった。
なぜなら俺はこれから叱られるからだ。
セイラは決闘での俺の試合を見て、俺を呼び出した。
その理由はわかっている。
それは俺へのお咎めだ。
さきほど俺は例の刀技によってA組のセマカ=ログの武器を修復不可能なレベルまでぶち壊した。
しかし、たとえ決闘であっても相手の武器を破壊するということは校則では厳しく禁止されている。
いけないことだと承知してはいたのだが、ハルゴが馬鹿にされたことに怒っていた俺はうっかりとその一線を越えてしまった。
その一部始終を見られていた俺はこうして授業の時間を割いてまでしてセイラに呼び出されたわけだ。
「ふう」
茶を飲み終えたセイラは一息つく。
いよいよ説教がはじまるみたいだ。
「メナ=ソウド君。さっきの戦いは見事でしたわ」
まずセイラは俺を褒め称える。
これは怒る前の前兆だ。
最初に皮肉の意味も込めて俺をその気にさせてからだんだん説教にはいるパターンだ。
聡明な俺はそれを瞬時に察知する。
こういうときはそのお世辞にのるのではなく、さっさと謝るのが吉。
「すみませんでした!!」
勢いよく謝る。
これで許してくれ。
「え……?」
「え……?」
「え……?」
なぜか時が止まった。
どういうことだ!?
焦った俺はすかさず右目を使い、セイラの感情を確認する。
「あ、あれ? 赤じゃない、緑だ。怒ってないだと?」
緑は尊敬を示す色だ。
なぜ尊敬なのだろう。
「もしかして俺を叱るために呼び出したというわけではないのですか?」
「あら? 何を言っているのですか? 私はそのような用件でアナタを呼び出したわけではありませんのよ」
「な、なんだって? 決闘でセマカ=ログの愛用武器を損壊させたことを咎めるためではなかったのですか?」
「そんなことでわざわざアナタを呼び出したりしませんよ。それは警備委員会の仕事ですし。……もしかしてそれで冷や汗をかいていたのかしら? ふふ、面白い子ですわね」
セイラは口をおさえてクスクス笑う。
なんということか。
俺の完璧な考察が外れてしまったらしい。
俺はてっきり罰されると思っていた。
怒る前の前兆だとか言ってカッコつけて推察していた自分が恥ずかしい。
「で、ではどういった内容で?」
赤面しながら俺は問い返す。
さっきまで笑っていたセイラは急に真面目な顔になって答えた。
「単刀直入に言わせてもらいますわ。メナ=ソウド君……生徒会に入っていただけませんか?」
「……は? って、ええっ!?」
セイラの発言内容はあまりにも予想外すぎた。
ここにきてまさかの生徒会への勧誘。
この信じられない事態に俺はあたふたした。
この俺に生徒会に入ってくれだと?
いったいどういう風のふきまわしなんだ。
生徒会といえば上位クラスの生徒だけで構成されていると聞く。
それなのに下位クラス、ましてやH組という学園のはしくれであるこの俺にわざわざ白羽の矢をたてた理由がわからない。
俺の考察力を以てしてもそれを理解することができない。
「なぜ俺なのですか?」
「いい質問ですわ」
「はあ」
「ご存知のようにこの学園の生徒会メンバーは上位クラスの子だけで構成されていますの。そうすると会議の際に下位クラスの意見がどうしても反映されにくくなるのですわ」
「なるほど」
「そこでアナタに入ってもらいたいのよ」
そういうことか。
たしかに上位クラスだけで部費の決算や闘技会のようなイベントのあれこれを決めてしまうと、どうしても上位クラスが得するようになってしまうわけだ。
そういう意味では下位クラスからメンバーを採用するのは理にかなっていると言えよう。
だがその理屈でいくと、俺以外の下位クラスの生徒から選出すれば良いのでは?
俺自体そんなに生徒会に入りたくもないし。
「他の下位クラスの生徒ではダメなのですか? 俺よりきっちりしている人は多いと思いますし」
「それがなかなか難しいことなのですわ」
「というと?」
「上位クラスの生徒たちが不満に思うからよ」
「ほお」
「これまでに何度か優秀な下位クラスの子にここへ加入してもらったことがあるわ。だけど、所属したとたんに、その子たちが上位クラスの生徒たちから嫌がらせを受けるようになったの。とくに決闘で」
「それは厄介ですね」
やれやれ。
相変わらず上位クラスのやることは陰湿だ。
他人をおとしめることに関しては一流だな。
俺は半ばあきれた。
「でもメナ君なら安心して任すことができると思ったの」
「そ、そうですか」
「謙遜しなくてもいいのですわよ~。さっきの戦いを全部見させていただきましたから。非常に素晴らしかったわ。とくにあの奇妙な武器。相手のレベルもなかなかのものだったけれど、アナタはそのレベルを数段上回っていましたわ」
「それはどうも」
「というわけで生徒会に入っていただけるかしら?」
「う~ん……」
彼女の考えはわかった。
俺に生徒会に入ってもらいたいという思いは十分に汲み取れた。
これほど言い寄られると、普通の人なら断れないかもしれない。
だが俺は断る。
ぶっちゃけ生徒会とかいうみんなの中心的なポジションにつくのは好まない。
俺は生徒会に入りたくないのだ。
勇気を出して断ろう。
そうすればセイラ会長もわかってくれるはずだ。
「すみません、せっかくのお誘いの気持ちをありがたく思いますが、俺は生徒会に入りたくないです。……苦手なんですよね、そういうのは」
「あら、それは残念かも……」
神妙な面持ちで断る俺を見て察してくれたのか、セイラはわかってくれたみたいだ。
しかし、その顔は非常に無念そうにみえる。
俺はそれを若干心苦しく思う。
(このままスッパリ断るのも悪い気がする。……そうだ、何か手伝おう。別に生徒会以外にも役立つことだってできるはず)
ガッカリしているセイラに俺は声をかけた。
「ホントすみません。ですがそれ以外で俺にできることってありませんか? できるかぎり協力します」
「ホントに?」
俺の提案を聞いたとたんにセイラはパーっと明るくなった。
セイラ=エルメス……なんというか可愛らしい人だ。
カロナ=エルメスとそっくりだな。
「だったら一つ頼まれてくれる?」
「はい、生徒会以外ならなんだって!」
さあ、こい。
こんな俺でもできることなら少しでもやってやる。
「1週間後の新入生歓迎戦に選抜メンバーの一人として出てくれませんか?」
「はい!! ……って、ええっ!?」
うっかり即答してしまった。
「おお~、ありがと~、メナ君。じゃあガンバってくださいね」
「ちょっ、えっ、えっ!?」
「対戦相手は学園トップの上級生たちよ。正式な対戦相手は3日後に掲示板で発表されるからね。じゃ、よろしくお願いしますわ」
「は、はあ」
俺が間髪入れる間もなく、セイラは言いまとめた。
(ふう、提案したのは俺の方だったから今さら取り消すわけにもいかないか)
新入生歓迎戦の選抜メンバーか。
予想外な頼みだったけれど、生徒会に入るのに比べればお易いご用だ。
戦闘には自信があるからな。
それにこれに勝てば学園最強に一歩近づくしな。
よし、やってやる。
やってやるぞ、俺は。
俺は意気込んだ。




