10.決闘、刀技というユニークスキル
決闘は食堂からけっこう離れた第3ピロティにある【決闘フィールド】で行われる。
フィールドは長方形であり地面は石でできている。
大きさはせいぜいテニスコートと同じくらい。
学生はそのエリア内で戦う。
決闘フィールドは主に模擬戦や実戦の練習のために使われる。
そのため気軽に使用できるのだが、今のように上位が下位に洗礼をかけるために使われることもある。
この洗礼は見せしめの意図もあるため、本来ならば大勢のギャラリーが見物に来るのだが、もうすぐ授業が始まるのでギャラリーは数人ほどしかいない。
前方にはグループのリーダーの痩せ男がこちらを見てニヤつきながら武器の装着を行っている。
「貴様~、このボクにケンカを売ったことを後悔するがいい。ボクの名はセマカ=ログ、A組さ。どうだ、ビビったか~。降参するなら今のうちだぞ」
「ふん、クラスがすべてじゃないことを教えてやる」
「ヒヒ、バカなやつ」
気味の悪い震え声でセマカは脅してきた。
しかし、俺にはまったく効かない。
平然している俺の顔をみて、セマカは「今にも後悔させてやるぞ」と言わんばかりの態度を示している。
俺はセマカの武器に目を凝らす。
ふむ、セマカの武器はメイスか。
つまり彼はメイサーだな。
右手に持っているのは茶褐色に光るメイス。
その色から土系統のスキルを使ってくるだろうと推察できる。
「土属性か。なんか似合わねえな」
完全に個人的な見解でしかないが、土属性といったらハルゴのような大柄な冒険者が使うイメージがある。
どうも痩せているこいつには似つかわしくない気がする。
そのちぐはぐさにうっかりツッコミを入れてしまった。
別に挑発するつもりはなかったのだが、つい相手を煽ってしまった。
「こ、この野郎~。ボクのDMをバカにしやがって……。笑ってられるのも今のうちだぞ!」
セマカはよりいっそう怒りをあらわにしていく。
それは彼からあふれる魔素から十分に伝わってくる。
さすがはA組といったところだ。
その辺の生徒とはわけが違う。
魔素の質も量も学園の生徒にくらべるとかなりハイレベルだ。
Cランクくらいはありそうだ。
ま、Sランクの俺からすると誤差レベルにすらならないけどね。
「そういうお前は何の武器を使うのだ?」
「いい質問ですねえ」
フッフッフ。
俺はその問いを待っていた。
俺の編み出した刀という武器をお披露目することができるからだ。
「俺は……これを使う!」
俺は腕を高々に持ち上げて刀を見せつける。
それは鉄を薄く加工して作り上げた一本の棒とでも言うべきか。
目の前のセマカのメイスに比べればあまりにも貧相に見える。
「なんだよ、それ。薄っぺらいじゃん。そんなのでこのDMをくだせるとでも思っているのか~?」
刀をみてセマカは腹をかかえて笑う。
セマカだけでなく、彼の連れも周囲の見物人たちも似たような反応をしている。
「弱そうだな」と誰しもがはじめて刀を見るとそう思うらしい。
しかし、みんなは刀という武器の恐ろしさを知らないだけなんだよな~。
これからその恐ろしさを見せてやる。
今度は足をつらない。
「その薄さがいいのだよ」
「まあいいや。そのへなちょこな棒をさっさとへし折ってやる」
「やれるならな……。いくぞ!」
ついに試合が始まった。
現在時刻は12時55分。
あと5分で4時間目の授業がはじまる。
どうやら一瞬で決める必要がありそうだ。
一撃で決めよう。
俺は相手の武器めがけて一閃する。
「くらええ、アーススマッシュ!」
「うおおおお。清刃鋭斬!!」
互いの攻撃が炸裂する。
刀とメイスが混じりあう。
"ザシュッ"
刀はその鋭利な刃によってメイス間の結合をスッパリと破っていく。
やがてメイスは真っ二つに朽ちる。
それは一瞬だった。
周囲の誰しもがその結末に驚愕した。
折れたのはセマカの棍棒だった。
いや、正しくはメイスがまるで引き裂かれたかのような傷痕をのこし、その原型が無惨にもなくなっていた。
俺はこれを"切り裂かれた"と呼んでいる。
これが俺の刀による攻撃スキル【斬撃】だ。
武器が使えなくなったセマカの負けとなった。
ここにいる全員がセマカのドデカいメイスが俺の貧弱そうな刀をぶち壊すとでも思っていたんだろう。
しかし、結論はそれを翻すものだった。
それは物理学の圧力という観点から説明することができたりする。
詳しい原理は存在するが、この世界でそれを知っているのは今のところ俺だけだ。
人類は攻撃といえば殴打するということしかご存知ない。
しっかりと学問を勉強すれば、このように斬撃を攻撃に利用するという新たな発想が生まれるはずなんだがな。
この斬新な発想によって俺だけがこの刀という武器を発明し、こうして実戦に活用している。
その効果は絶大で今のようにセマカの丈夫な武器を一撃で葬り去るほどだった。
「な、なんで……なんで?」
真っ二つにされたDM。
セマカは自分の武器が見たことのない形に潰されるという常識外れな現象に呆然としている。
戦いに敗れた悔しさよりも自分の武器の有り様に対する驚きのほうが大きかったようだ。
例の右目を使わずとも、彼の顔を見ればそのことが簡単に読み取れる。
「おい、なんだあいつ~!?」
「何が起こってるんだ!?」
「H組のやつに負けるなんて!?」
セマカの仲間も恐れおののいている。
その表情はあまりにもひきつっている。
これほどに滑稽な姿はない。
俺も笑いそうになるくらいだ。
「ハハ……」
笑いだしたのはハルゴだった。
どうやら満足したらしい。
気が晴れたみたいだ。
「もういいのか、ハルゴ」
「うん……ありがとう。すごい……メナは」
ハルゴはスッキリした様子でいたので、セマカたちに謝罪を求める必要はなくなった。
さあ、次の授業まであと4分だ。
急がなければならない。
「よし、さっさと戻るか」
「うん」
俺たちがその場を去ろうとしたとき、セマカは俺を呼び止めた。
「まて……。貴様、名前は?」
「俺はメナ=ソウド。刀士さ」
俺の名前を聞いてセマカは納得したようだ。
「なるほど……。メナ=ソウドか。あのフォーカードと並んで入学式で新入生代表を務めた最下位クラスの天才……。そうか貴様だったのか」
セマカはそう言い残すとガクッと膝を落とした。
さて、今度こそ戻ろう。
と思ったそのとき、
「ちょっと待ちなさい」
俺はギャラリー席にいた女子に言い止められた。
時間もないしそろそろ授業にいきたいと思っていたのだが、俺はその人物をスルーするわけにはいかなかった。
俺を引き止めたのはセイラ=エルメス、生徒会長だったからだ。
「メナ=ソウド君だったわね、話があるわ。今から生徒会室に来なさい」
「あ……はい」
俺は生徒会室に呼び出された。




