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1.村一番の天才冒険者、王都の学園へ

刀。

それはまっすぐに伸びる片刃をおびた刃物。

鉄や木などを薄く加工してできた()を振るうことで、あらゆるものを引き()くことができる

……という俺の考えた最強の武器。


"カーン"


ここは王国の辺境に位置するのどかな村。

静かに佇まうこの村に、俺は今日も金槌音を鳴り響かせていた。


「あと少し……」


俺はいつものように家の工房で鍛治作業に取り組んでいた。

左手に鉄の棒を持って、右手の金槌でそれを叩く。


「よし、できたぞ。相変わらず良い出来だ!」


長い作業の末、ある武器を完成させた。


いかなるものを引き裂くことができそうな鋭き(やいば)

そしてメチャクチャ持ちやすそうな柄。

これぞまさに完璧なデザインである。


その武器の名を《(かたな)》と呼んでいる。


「やっぱり最高だよな、刀……いや、俺の固有武器よ!」


この世界はいわゆるファンタジーな世界。

たくさんの人間が冒険者としてクエストを引き受けたり、モンスターたちと戦ったりすることで生計を立てている世界だ。


そして、その冒険者たちはさまざまなことを得意としている。

魔法が得意な《魔法士》や武術が得意な《モンク》、打撃が得意な《メイサー》などがメインの職業として存在する。


しかし、この世界では変わったことが一つだけある。



それは斬るという概念がないということ。



モンクやメイサーなど、彼らに共通しているように、この世界では斬るという技やスキルがまるで存在しない。

つまり、この刀のように接地面積の小さい部分を活かした攻撃をしようとする発想のあるものが他に誰一人としていない。


そんな不思議な世界で俺は一ただ人の刀使いとして、こうして黙々と刀の製作に勤しみ、刀とともに生きてきた。


"ガチャ"


「入るぞー、メナ」


刀を作り終え、その出来映えにうっとりしていると、父さんが分厚い書類を抱えて工房に入ってきた。

その顔はいつにもましてウキウキにみえる。


「どうしたの、父さん? なんか嬉しそうだけど。その書類が関係あるの?」

「そうだ、よく気づいたな。さすが我が自慢の息子、メナ=ソウドだ。頭いいなあ。やっぱ母ちゃん似だな」

「そんなこと言われても俺母さんしらないし」

「ふふ、そうだな」


俺の家は父子家庭。

なんでも母さんは俺が物心つく前に他界してしまったらしい。

父さんが言うには母さんは非常に優秀な冒険者だったそうな。

そんな彼女と彼女に一目惚れした父さんとの間にできた息子が俺だ。

幸いにも俺は母方の遺伝子を引き継いだらしく、生まれつきその辺の冒険者たちよりも高いステータスを有していたりする。


「メナ、今日お前に見せたいものがあってな。それがこの書類だ」

「それはなに?」


俺の問いに対し、父ちゃんは歯をキラつかせながら俺の目の前にドンッと紙をつきだす。


「フフフ、聞いて驚け。王都にある冒険者育成の学園、アルメナ学園の入学試験の願書だ!」

「ええっ!?」


俺は驚いた。

なぜならこの《アルメナ学園》とは王国一番の学園だからである。


「お前が冒険者として能力が高いということは周知の事実だ。お前はこの陳腐なド田舎村に収まるような器じゃない。お前にはその刀とともに更なる高みを目指して欲しいと思ってな。父ちゃん頑張って学園の願書をゲットしてきた。どうだ? 受験してみるか?」


「もちろん!」


俺はすかさず了承した。

さすが親子といったところか。

実は俺も王都に出たいと思っていたところだ。


「よし、決まりだな。ではさっそく旅路の準備をするんだ。生活に必要なものは全部バッグに詰め込んでおけよ。いいな?」

「オッケー」


俺は元気よく返事すると、さっそく準備にとりかかった。




それから1週間後。

金や装備品、その他諸々の荷物を整え、大きなバックパックを背負った俺は村人たちに見送られながら故郷の村を出て王都へ旅立った。





俺ことメナ=ソウドは自他ともに認める天才冒険者だ。

なぜならステータスが恐ろしく高いからだ。

とくに《魔力(まりょく)》と《知力(ちりょく)》が群を抜いている。


《知力》が国のトップを超えるレベルのAランクだ。 

その自慢の知力によって、《刀》という俺の考えた最強の武器を生み出すことにも成功した。


だが、俺がすごいのはそれだけではない。

なんと《魔力》にいたってはその上を行く魔王レベルのSランクなのだ。

それははじめて魔法を習ったときのこと、ファイアボールという初等魔法を撃ったときに、近所の山を丸々吹き飛ばすというとんでもないことをしてしまったことで、そのことが発覚した。

それはもうとんでもない魔力だった。


おそらく死んだ母親の遺伝子を受け継いだのだろう。

それほどに凄まじい魔力と知力……さらに刀が俺に与えられた。


そういうわけで故郷の村人からは村一番の刀使いの天才冒険者と呼ばれており、その将来を大いに期待された。


まさに自他ともに認める天才冒険者である。




そんな天才冒険者の俺も15歳となり、村を旅立ち更なる高みを目指そうとしている。


世界でただ一人の刀使いとして、この《刀》という武器が世界を相手に一体どこまで通用するのか試したい

――そんな思いを抱いた俺は、王都にあるエリート冒険者育成の学園、《アルメナ学園》を受験することにした。


そういうわけではるばる遠くの村からこの王都までやってきて、現在にいたっている。

試験を三日後に控えた俺は町の宿で宿泊中だ。

疲労しきった俺は部屋の中で大きなため息を吐く。


「いやあ、疲れたなあ」


村から王都までの旅は約1ヶ月を要した。

その1ヶ月の間、俺は歩き続けた。

切り立った峡谷(きょうこく)を超え、国の東西をわける何層にも(つら)なった大きな山脈を進んだ。

この厳しい旅を終えた俺の足はそこそこの悲鳴を上げている。


「ふう、この悪コンディションで3日後の受験に望むわけか。不安だな」


ベッドに座りながら痛めた足を軽くさする。

調べた情報によると、入学試験には《学術(がくじゅつ)試験》だけでなく《戦闘(せんとう)試験》というものが存在するそうだ。

戦闘試験とは、冒険者としての己の技量を戦闘という形でアピールする実戦タイプの試験だ。

当然足も使う。

しかし、その足を痛めた俺はその戦闘試験においてベストな動きができるかどうか不安になっていた。


「とりあえず3日ある。この間に気合で直すんだ」


もし戦闘試験でやらかしても学術試験がある。

そこで(おぎな)えればいいだけだよな。


「学術試験は簡単だからね」


俺がすごくて、なおかつ世界のレベルが低いので、学術試験の難易度は俺から見るとハナクソみたいなレベル。

一番難易度の高い教科である数学の問題はせいぜい方程式の応用問題レベルだって聞くし。

まあ、学術試験の方は満点近くはとれるだろう。

そしたら戦闘試験で本領を発揮できなくとも、十分に合格できるはず。


「うん、大丈夫だな。刀もあることだし」


俺はポジティブになると、すやすやと眠りについた。



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