黒雷砲と猛吹雪
決着。
バイコーンに向け駆けるロウ。
バイコーンは一瞬怯んだように下がりかけるも、すぐに戦意を取り戻してロウとまっすぐにぶつかる。
互いに、技術もへったくれもない頭突きの攻撃。だからこそ純粋な力が試されるその衝突は、頭部に角という武器を持つバイコーンが吹き飛ばされ、ロウの勝利となる。深々と刺さったように見えた角だったが、ロウの額からは血の一滴すら流れていない。
それからは、先程までの戦いと同じようなことが続いた。もちろん、立場が逆になって、だ。
バイコーンが攻撃し、それをものともしないロウに反撃され、また攻撃、反撃、攻撃、反撃――。
このままではどう足掻いても勝ち目はないと悟ったのだろう。既にボロボロになったバイコーンは、いつかのユニコーンのように、魔法を放つ構えを取る。
頭を下げ、角をロウの方向に向ける。その二本の角の間に、黒い電気が走る。
そこから放たれるは、ユニコーンの光線に――いや、紘輝の《聖光斬》にすら勝る威力を孕んだ黒雷砲。
「かっけ」
それを見ていた霧也が思わず呟く。なんというか、中二心をくすぐられる技だ。少し離れたところにいる沙菜も目をキラッキラさせている。心なしか琴音も目を輝かせているように見えるのは気のせいだろうか。……いや、趣味のよく分からない彼女のことだ。意外とあり得るのかもしれない。
閑話休題。
向かってくる黒雷砲を見たロウは、一瞬霧也に目を向ける。
いつの間にかソニアたちのもとへ戻っていた霧也を見て何かに満足したのか顔を戻すと、次の瞬間、その口腔から氷のブレス、とでも呼ぶべきものを放った。
それは瞬時に膨れ上がり、ボス部屋一帯が猛吹雪に包まれる。
「あんの野郎ッ……!」
小さく毒づきながら、霧也は《電磁結界》と同じように《結界》と《紅煉》を無理やりくっつけ、即席の炎のバリアを張る。先程のロウの視線は、霧也が他の皆を守れる位置にいるかの確認のためか。
吹雪に覆われた黒雷は、次第に勢いを失い、そして、凍りつく。――実体を持たないはずの電気が、凍ったのだ。
あり得ない方法で攻撃を防がれたバイコーンはもちろんのこと、ソニアたちも、そして、魔力を与えたはずの霧也でさえも唖然とする。
「……ご主人様、一体何がどうなればあんなことに……」
「……いや、俺にも分かんねぇわ。つか、電気って凍るんだな……俺にも出来るかな……でも、なんかあれ、下手すりゃ《氷獄の蒼》超えてる気がすんだよな……」
「……色々考えているところ悪いけれど、ロウに対抗して試す必要はないわよ、キリヤ」
「霧兄、あたしは見てみたいから全然おっけーだよ!」
「……君たちは一体、何の話をしているんだ……」
「わー、すっごいねぇ」
「ンだよ、あんな遠くでよぉ! 漢ならぶん殴れ! ぶち壊せ!!」
「……うるさい。脳筋、黙れ」
これぞ正に混沌。正論は三つほど(内一つ毒舌)しかなかった。
さて、そんな間に、未だ驚きから立ち直れていないらしいバイコーンに、ロウが歩み寄る。
さすがに、敵が近づいてくれば、どれだけ衝撃的な出来事があっても身構えるというもの。だがしかし、バイコーンのそれは、ロウからすれば少し、どころか、大分遅かったようだ。
ロウが、爪を一振りする。それだけで、バイコーンの角が両方とも地面に落ちる。
「……?」
角が切り落とされ、しかしその本人は状況を上手く理解出来ていない。偶然か、かつてのユニコーン戦と同じようなことが起きている。やはりペットというものは飼い主に似るものなのだろうか。
ロウが一つ吠える。「これでお前もただの馬だな」と、そんな風に笑っているように、霧也たちには聞こえた。
やっと状況を飲みこんだバイコーンが、怒りの表れか甲高い雄叫びを上げる。
しかしロウは、これまた主に似たのかそれを完全に無視し、バイコーンの頭を無理やり踏みつけ、地面につけて封殺。
ロウはそのまま、バイコーンを踏む足に体重をかけていく。
「あ、ちょ、おまっ!」
止める暇もなかった。
重量に耐えきれなくなった頭部が、パァン! と音を立てて、弾けとんだ。
皆、それを見てしまった。女子全員、顔面蒼白である。紘輝はまだしも、何かと豪快そうな大吾ですら少し気分が悪そうだ。
それもそのはず。何せ、色々な物が辺りに飛び散って――いや、詳しくは語るまい。
「……おい、ロウ。ちょっとこっち来いや」
そんな中、ひどく冷たい声が響く。
シュンとした様子で声に従い霧也に近づくロウ。
霧也は、そんなロウの頭を全力でぶっ叩く。
スパァンッ!!
「キャンッ!」
「キャンッ! じゃねぇ! お前何やってやがんだドアホ!」
「クゥ〜ン……」
「可愛らしく鳴いても無駄! つか、その巨体でんな声出してんじゃねぇよ違和感すげぇんだよ!」
怒涛の口撃である。
「あのままだとヤバイ事んなるのはちょっと考えりゃ分かるだろ!? 何だかんだ言って神経図太い自覚がある俺ですらちょっと気分悪くなったんだぞ! グロに弱ぇ奴なんか吐くわ! あっさり吐くわ! 向こうしばらくは何も食いたくなくなるわ!」
ハァッ、ハァッ、と息を荒らげる霧也。
息を整えると、言いたいことは言い終わったのかシュンとするロウに目を向ける。
「……まぁ、それは今度から気ぃ付けてくれりゃあいい。ともかく、だ。よくやったな、ロウ。お前の勝ちだ」
その言葉に、ロウは嬉しそうに一つ吠えた。
真面目成分一気に抜いてみた。いやぁ、気が楽でいいね。




