迷宮にも魔人
休日が明け、霧也達は早速六十階層から先を攻略していた。
そして、攻略開始から五日。霧也がいるのは、六十五階層。丁度、一日一階層のペースだ。
「――ねぇ、村崎君。なんか……」
通路を歩いていると、紘輝が声をかけてくる。だがその言い方は、上手く言い表せない、といった感じになってしまっている。
しかし霧也には通じたようで、紘輝を横目で見ながら言葉を返す。
「お前も気付いたか」
そんなやり取りが行われているが、具体的な話が何一つないせいで、この場にいるほとんどの者は頭の中にハテナを浮かべている。
だが、ちゃんと理解しているのがもう一人。
「……魔物が、変に少ないわね」
リラだ。森育ちなだけあって、洞察力には優れているのだろう。
その言葉に、霧也が頷きを返す。
「あぁ。[索敵]でも、半径百メティア内にはほとんど魔物の反応がねぇ。せいぜいニ、三体ってとこか」
先程から、少し範囲を広げている[索敵]だが、魔物の反応がほとんど感じられないのだ。迷宮内における半径百メティアというと、その十倍以上はいても全くおかしくないのに。
「でも、いないならいないで攻略が楽になるからいいんじゃないの?」
「まぁ、それも間違っちゃいねぇんだが……」
沙菜の言葉に、歯切れの悪い返事を返す霧也。
「こちらのプラスマイナスは関係なく、異常事態であることに変わりはありませんからね。念の為、警戒しておくべきなのでしょうか?」
「そうだな。迷宮内でのイレギュラーだ。警戒するに越したことはねぇだろ。もちろん俺もしとくけど……一応、お前らも周りに気配っておけ」
霧也のその言葉に、全員が頷いた。
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それから一時間ほど経ったか。
結局魔物とは一度も遭遇することなく、霧也達は六十五階層のおよそ半分を進んでしまっていた。
「さすがにこれはおかしすぎるな……」
霧也の呟きに、全員が頷く。
「魔物が少ない階層、っていう訳でもなさそうね」
「はい。それにしては、罠もあまりありませんし」
「迷路みたいになってる訳でもないしね」
と、リラ、ソニア、沙菜。
彼女達の言う通り、元々魔物が少ない階層だとするならば、それに代わる罠なども、数は今までとほぼ変わらず、その脅威も同程度。道が複雑という訳でもなかった。
そんな話をしながらも歩き続ける霧也達。
「先客がいるとも考えらんねぇし……ん?」
「霧也君? どうしたの?」
顔を上げ、眉をひそめる霧也。そんな霧也を不思議そうに見る琴音を無視して、霧也はある一方向を見つめる。
「……魔物が、一ヶ所に集まってる」
霧也が見つめる先。そこにある広めの部屋に、多数の魔物の反応があったのだ。
そして、その魔物の中心に、他とは少し異質な存在が――
「わり、ちょい行ってくるわ」
そう言い残して、霧也はそちらへ走り出す。それを止められる者は、この場にはいなかった。
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「これは……ある意味壮観だな」
魔物がひしめくその部屋。その入口付近に隠れるように立った霧也がそうひとりごちる。ちなみに、[気配隠蔽]を使っていないので本気で隠れるつもりはないようだ。
「――おや、お客様ですか」
そして案の定、中にいたそれに気づかれてしまう。
中から声をかけられた霧也は、特に気負うこともなく、普通に陰から歩み出る。
そして、自分に声をかけた相手を見て、口を開く。
「やっぱりか……魔人」
「……ほう? やっぱり、というと、分かっていて来たのですか? 人間。この、魔物の巣窟に」
魔人は、霧也の言葉に意外そうに眉を上げると、ついで蔑んだ目で霧也を見る。
「お前、こんなに魔物を集めて何をやってる?」
魔人の言葉には答えず、そう質問する霧也。
「答えるとでも? ……と、言いたいところですが、いいでしょう。冥土の土産に教えて差し上げます」
と魔人が言い終えたときには、霧也は魔物に完全に包囲されていた。その魔物達は、本来この階層で霧也を迎え打つはずだった敵。
「魔王様のご命令により、仲間を集めて回っていたのです。この迷宮とやらに生息する魔物は、力こそ強いものの、魔王様に従うものがいませんので」
「ふぅん」
魔人の説明に、大して興味もなさそうな返事をする霧也。元々、なんとなく聞いてみただけで、本来魔人の目的などどうでもよかったのだ。ちなみにここに来たのは、「なんか企んでそうだからぶっ潰してやろうかな」なんて思ったからだ。
「その返事は少々癇に触りますが……まぁ、いいでしょう。ここでお別れなのですから」
そう言った魔人は、魔物達に命令するように上げた手を振り下ろす。
それに従い、魔物達は一斉に霧也に襲いかかり――
――パァン!
そんな、風船が割れるような音を残して、弾け飛ぶ。
「……え?」
思わず間の抜けた声を上げる魔人。
襲いかかられた当の霧也はつまらなそうに立ちながら、
「で?」
これがどうしたと言わんばかりにただそれだけを言う。
「〜〜っ! 殺ってしまいなさい!」
悔しそうに歯噛みした魔人が、他の全ての魔物に命令を下す。
しかし、
――パァァアンッ!!
やはり、弾け飛ぶ。
「まどろっこしいな……お前が直接来いよ」
霧也がそう言う間にも魔物達は弾け飛び、最後には霧也と魔人だけになってしまう。
こうなれば、霧也の発言に関わらず、魔人が直接行くしかない。
「――捻り潰してあげましょう!」
魔人が、霧也にとてつもない速度で突っ込む。
……この決着がどう付いたかは、語るまでもないだろう。
まさかの魔人戦カット。




