デート
……で、ストックなんてこれっぽっちも出来ちゃいないのに新作を一話だけ書いてみた馬鹿な俺。しばらく温めときます。
オリハルコン収穫祭から、およそ一週間。
六十階層のボスを霧也がタコ殴りにした次の日、霧也は宿のベッドに寝転がってただただボーッとしていた。少なくともボス戦後は、必ず一日休日を設けることにしているのだ。他にも霧也の気分で休日が増える。
「んー……やっぱ攻略にかかる時間が増えてんだよなぁ」
初めは十階層攻略するのに、それこそ片手に収まるような日数で済んでいたというのに、今となっては一週間以上もかかっているのだ。……それでも異常なほど速いのだが、その自覚は霧也にはない。
ちなみに、霧也が一人で攻略し始めると、かかる時間はその半分程度で済んだりする。
それはさておき、どうすればもっと速く攻略出来るかな、と寝起きで働かない頭で考えていると、コンコン、と扉をノックする音が。
「ん? どぞー」
ソニアか誰かが呼びに来たのだろうとあたりをつけて、誰何もせずに許可する霧也。
と、扉を開けて入ってきたのは、
「……おはよう」
「遠野?」
恵だった。
普段は全く接点がない彼女の来訪に、霧也は思わず目を丸くする。
「……珍しいな。何か用か?」
ベッドから身を起こした霧也は、そのまま縁に座るとそう問いかける。
恵は少し考えるようにしてから口を開く。
「デートの、お誘い?」
「……いや、俺に聞かれても。つか、デート? なんで?」
「……お礼、してなかったから」
「お礼って、何の」
「……この間、助けてもらったときの。……ことちゃんに言われて、思い出した」
「……ことちゃん……? あぁ、橘か。で、助けてもらった時? 何かあったか?」
そう呟きながら少し考えた霧也。少しして、思い出したようにあぁ、と言いながら指を鳴らす。
「キマイラロード戦のやつか。あったな、そんなこと」
それに、正解、というように頷く恵。
「……こんな美少女とデート出来るなんて、村崎君、幸せ者」
「美少女って……自分で言うか」
「言う。……ほら、早く、支度して」
「強制かよ……」
「強制。来ないと、こちょこちょの刑」
「ガキかっつの。ちょっと待ってろ」
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「そういや、まだこの街しっかり見てなかったな」
街中を歩きながら、そう呟く霧也。宿探しのために歩き回ってからは、基本的に宿と迷宮の間を往復する程度だったのだ。
それに、彼女の要請により現れたロウを抱きかかえる恵が答える。
「……私も、あまり見てない。だから今日は、探険、する」
「……それ、お礼になんのか……?」
「……デートすることが、お礼。でも、デートのエスコートは、男性の仕事」
「ふざけてやがる」
霧也が本心を口にしたところで、会話が止まる。元々、恵はそこまで喋らないし、霧也だって自ら話題を提供するタイプじゃないのだ。彼らが二人きりになると、どこかで会話が止まってしまうのは必然である。
そして、恵はもとより、元ぼっちである霧也もそれを嫌とは思っていないのだからタチが悪い。
と、そんな霧也の視線の先に、何やら見覚えのある人影が。向こうも霧也に気付いたようで、こちらに近付いてくる。
「……アルク?」
「やぁ、キリヤ君。こんなところで何を?」
「何か久し振りな感じがするな」
「……登場が久し振り。……忘れられてた?」
「……キリヤ君。この子に少しお話があるんだけど、少し借りてもいいかな?」
「奇遇だな、俺もだ。……それとな、遠野。忘れられてたんじゃなく、出す機会がなかっただけだと思うぞ」
「……なるほど、確かに」
「キリヤ君、どうやら君ともお話する必要があるみたいだ」
五分で終わった。
「それじゃあキリヤ君、またね」
「おーう」
「ばいばい。……次の出番も、すぐあるといいね」
「……お前、さては反省してねぇな?」
「五分程度のお説教で私が反省すると思ったら、大間違い」
無い胸を張って開き直る恵に、霧也は思わずため息を吐く。
恵は、そんな霧也は全く意識していないようで、ふと視界に入った屋台へと歩いて行ってしまう。
「ちょっ……随分と自分勝手だなおい」
自分のことを棚に上げてそう言いながら、霧也も恵を追いかける。
すると、屋台の前で立ち止まった恵が、霧也を振り返る。
霧也が彼女のそんな行動に首を傾げていると、何かを催促するように出てくる手。
「……私、お金、持ってきてない。……デートで男が奢るのは、普通のこと」
「マジかよ……」
お礼の意味を本気で考え直しながら、霧也は屋台で売っていた串焼きを二本購入する。金なら腐るほどあるのだ。オリハルコン換算で、ざっと数十トニア分ほどは。
受け取った串焼きを美味しそうに頬張る恵。最後に残った一つは、彼女に抱かれているロウにあげている。
「……しっかし、やっぱ武器持ってる奴が多いな」
そんな恵を見て、何故だか小さい子どもを見ているような気分になっていた霧也が、辺りを見回して呟く。
見渡す限り、それこそ先程の屋台の店主に至るまで、何かしらの武器を持っているのだ。
「迷宮国、だから。……迷宮にあるお宝を売って生計を立てている人も多いし、迷宮から商売道具を調達する人だっている。……さっきの主人だって、そう。お肉なのか、調味料なのか、調理道具なのかは分からないけど、多分、迷宮産」
普段より饒舌にそう説明する恵に、霧也は軽く目を丸くする。
「詳しいんだな」
「忍者、だから。情報収集は、忍者の基本」
えっへん、と実際に口に出しながら再び胸を張る恵を見て思わず笑ってしまう霧也。
恵はそんな霧也の様子に気が付いて、むぅ、と頬を膨らませる。
「……なんで、笑うの? 失礼」
「いや、わりぃわりぃ。話してみると、意外と面白ぇ奴なんだと思ってな」
異世界に来るまで、霧也から見た恵は、「何を考えているのかよく分からない奴」だったのだが、改めて話してみると、まぁ考えていることは相変わらずよく分からなかったが、結構楽しかったのだ。
霧也はこの日、そんな新しい発見と共に、このお礼を楽しんだ。
いや、恵とのイベントって書いてなかったなと思い出しまして。丁度ネタに困ってたから、いいやぶっこんじゃえ、と。
……え? アルク? いや、本当に忘れてはいませんでしたよ? ただ、セーブポイントの関係上、一度乗り遅れると後から攻略に参加するのが難しいので。迷宮攻略に彼が参加することはないですね。多分。何かしらのイレギュラーでも発生しない限りは。




