ニ刀の紫
その後霧也達は、二十階層のボスであるギガントゴーレムという名の石塊(詳しい成分は省く)をソニアが召喚した悪魔がペチャンコにして帰った。
各階層のどこかにあるというセーブポイント(正式には“記録石”というらしい)は霧也の[索敵]であっさり発見した。一応霧也達が来る前にある程度攻略していて、セーブポイント探しの大変さを知っている紘輝達は、そんな彼をどこか羨ましそうに見ていた。
そして翌日。迷宮に潜る前に、迷宮内でこなせるような依頼がないかふと気になった霧也はアルカイナ王都の冒険者ギルドへとやって来ていた。このまま迷宮へ直行するつもりなので、仲間達も付いて来ている。当然、勇者パーティーの面々もだ。
「お、結構残ってるもんだな。……この辺が楽そうか」
二十一階層以降に出現する魔物の素材の納品依頼をいくつか引っぺがし、受付へと持っていく霧也。納品数が少なめのものを選んでいる。依頼のために寄り道するつもりは皆無である。
さて、いつも通り受付嬢に依頼票とギルドカードを渡した霧也だったが、カードに書かれた名前を見た受付嬢が驚いたように顔を上げる。
「あっ、あなたが〈ニ刀の紫〉ですか!?」
「…………」
その発言に、時間が止まった。主に霧也の。
「……んん?」
しばらくしてようやく少しだけ思考が回復した霧也が首を傾げる。
そんな彼をよそに、勝手に盛り上がり始める外野。
「何っ!? 〈ニ刀の紫〉だと!?」
と立ち上がる屈強な男がいれば、
「黒髪黒目のイケメンで、紫の軽鎧の上に上着を羽織り、腰には二振りの刀……。聞いていた通りだわ! 間違いない!」
なんて盛り上がる魔法使い風の女がいる。
「は? 〈ニ刀の紫〉? なんじゃそりゃ」
と首を傾げる男には、
「お前知らねぇのかよ。曰く、ある地域の魔物を全滅させた。曰く、冒険者ギルド本部のマスターを歯牙にもかけなかった。曰く、その一撃は天変地異にも勝るとも劣らない……。そして、常に周りには数人の女を侍らせているらしい。エルガド王国近辺の冒険者に知らない奴はいないっていう新人だぜ」
隣のテーブルに座っていた冒険者なりたてらしい子供がしたり顔で説明する。すぐにその子供は男に軽く頭をグリグリとされて涙目になっていたが。
そんなざわつくギルド内において、口を間抜けに開いたまま周囲に取り残された霧也。
(いやいやいやいや、は? 何それ、意味分かんねぇんだけど。え? どういうこと? マジで。〈ニ刀の紫〉だ? もしかしなくても俺のことだよな? ちょっと待てとりあえず名付け親出てこいぶん殴る。じゃなくて、ネーミングセンスゴミかよ。でもなくて、いやマジ待ってちょっと死ぬ程恥ずかしいんだけど死にてぇ嘘死にたくねぇ)
完全に混乱している。
「……あの、ご主人様、〈ニ刀の紫〉って……」
「俺が聞きてぇよ……」
恐る恐る、といった様子で聞いてくるソニアに頭を抱えたまま答える。
「ぷっ、く、くくくっ、でゅっ、でゅあっ、デュアル・パープル……ぶふぅにゃあっ!?」
笑いをこらえる気がない沙菜は尻尾を握っておく。
「…………」
霧也の肩に手を置き、慈愛に満ちた目でこちらを見るリラには抱きついておく。
「ひゃっ!? え、えぇと……」
普段ならあり得ない行動に目を白黒させるリラ。
「あの、キリヤひゃうぅっ!」
なんとなく耳を咥えておいた。
リラから離れ、彼女の反撃をのらりくらりと躱す霧也が受付に振り返って尋ねる。
「……で、そのクソイタイ名前は何?」
「あっ、そうでした!」
その霧也の質問で思い出したように立ち上がった受付嬢が、「少々お待ち下さい」と言い残して去っていく。
すぐに戻ってくる受付嬢。
「おめでとうございます、ムラサキ様」
「は?」
「この度、冒険者組合幹部の会議の結果、ムラサキ様のランクⅤ昇進が決定致しました。それに伴い、ギルドカードが変更になります」
そう言って差し出されるのは、ランクⅤ冒険者の証である、黒のギルドカード。
「……マジで?」
「はい」
新しいカードを受け取った霧也は、その黒く艶のあるカードを眺め――受付に叩きつける。
「!?」
驚く受付嬢。霧也はそんな彼女は見もせず、カードを叩きつけて俯いたまま肩をプルプルと震わせている。
「ご、ご主人様……?」
「……なんで」
「はい?」
顔を上げた霧也は、息を大きく吸い込んで叫ぶ。
「なんでギルドカードに〈ニ刀の紫〉って書いてあんだよ!?」
「ぶふっあいたぁっ!」
吹き出した沙菜が速攻でお仕置きされているが、それは置いておいて。
今霧也が言ったように、新しくなったギルドカードの、名前の上。そこに新しく出来た「二つ名」なる欄に、でかでかと〈ニ刀の紫〉と書いてあるのだ。つまり、公式の二つ名ということになる。
受付嬢が霧也の疑問に答える。
「ランクⅤ冒険者には、二つ名が与えられることになっているのです。また、その二つ名は、新しいランクⅤ冒険者が出たこととその実力を伝えるため、ランクⅤ昇進が決定した時点から、当人の逸話とともに公表されます。先程の私の反応も、その後の冒険者の方々のざわめきも、つまりはそういうことです」
「なんちゅう迷惑な……」
霧也が頬を引き攣らせる。
「……ちなみに、その二つ名ってのは誰が……」
「申し訳ございません、私には分かりかねます」
「だよなぁ……あ、依頼はもういいか?」
「あ、はい。手続きは完了しています」
頷く受付嬢を見た霧也は、改めてギルドカードを手に取り、見たくないとばかりに一瞬でしまい、冒険者ギルドを後にした。
「ぷっ、くくっ……よ、よかったね、霧也君、かっこいい二つ名もらえて……くふふっ」
「橘、お前後で無限ポニーテールの刑な」
「何それ!?」
ダッサイ二つ名。多分考えたのは、どこぞの龍殺しさんかその部下の受付嬢ですね。




