迷子道中
よかったまにあった…
ガサガサ…ザワザワ…と風で木々が揺れる、暗い森の中。
「ひっ‥ぐすっ‥…も、もぉやだ…帰りたいよ‥えっぐ」
うずくまり小さな体をさらに縮こめて泣いている影が一つ。
正真正銘人の子。名を玖実と言い、少し怖がりな普通の七歳児であります。
なぜ怖がりさんが森にいるのかというと、
「ふぇぇ…お母さんのけが治さないと、うぅ…」
そう。足をケガをした母親の為に、傷によく効く赤い葉をとりに来たのです。
母親は生まれて間もない弟がいるため家を離れられず、間違っても森の奥、鬼の棲み処の方にはいかないようにと言い聞かせ、送り出したのでした。
よし行くぞと意気込んで来たはいいものの、歩けど歩けどなかなか見つからない薬草。段々と深くなってくる霧と日の光さえも遮る鬱蒼と生い茂る木々。遠くの方から聞こえてくる獣の声。
薬草探しに意識を注いでいたため本来の道から外れ、足が獣道へと逸れていくことに気づきませんでした。なんとか薬草を見つけ、帰ろうとした女の子でしたが見覚えのある道へ中々辿り着かないことを不思議に思い、足を止めて顔を上げた時、丁度吹いてきた風に霧が少し流れ………
薬草どころか草も殆ど生えていない石がゴロゴロしている、全く知らない場所に立っていることに気付きました。
自分がどこにいるか分からなくなった女の子は慌ててもと来た道を戻ろうとしましたが、「見知らぬ場所で下手に動くと危ない」という常日頃からの父親の言葉を思い出し、留まったはいいものの…刻々と暗さを増していく森や木々のざわめき、遠くから聞こえてくる獣の声に恐怖心を煽られ、大粒の涙が次々に頬を伝います。近くの木の根元にうずくまり途方に暮れていると、ふと視界に入ってくるものがありました。
女の子の目に映ったのは、ふわっ ふわっ と上下に揺れながら近づいてくる光の玉。
「何これ………火?」
女の子が見ている前で、ふわ~ふわ~と女の子の近くを回ると、すーっと動き少し離れた所でノックするような光り方をします。
「…………ついてこいってこと?」
光は霧の中をぼんやりと赤く光り、揺れながら女の子を先導し、女の子はその光を見失わないように必死に追いかけます。
そうしてしばらく歩き続け、眠気や疲労その他諸々で女の子の足取りが怪しくなってきた頃……
「はぁ、はぁ、……あっ!明かりだ!!』
ようやく遠目に里の近くの鳥居が見えてきました。光はすぅ…と森の中へ溶けるように消え、女の子は里へと駆けていきます。木々の合間から安心したかのように温かく見守る視線に気付くことはありませんでした。
玖実が急いで帰ると里は大騒ぎになっていました。
「娘が帰ってこない」と青ざめた顔の母とその母の肩を支えながら里長と話している父。
いつもはにこにこ笑っている兄も大人たちと難しい顔で話しています。
(き…気まずい…!)
物陰に隠れて様子をうかがっていると、
「はれ?!あそこにおるの玖実ちゃんでねえか?」
「まあ!!」
「玖実!!?」
玖実はそろりそろりと物陰から出て、驚く大人たちに
『たっ…ぅ…ただいまぁ…』
遅くなってごめんなさいとふにゃりと笑いました。
それから父に怒られ母に泣かれ兄に叱られ、心配をかけた里の人たちに謝り、里長の「玖実はきちんと休むこと。道の整備もこれからは視野に入れよう。それでは解散!」の一言で皆口々によかったねえと言いながらそれぞれの家へ帰ります。
家に帰った玖実は今日あった出来事を家族に話し道に迷ったあたりで気絶した母に代わり父に説教されたのは別の話…。
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