エンデの者
降り立った巨躯は4体。3m程の身長で、手足は丸太のように太い。そして、人間とは明らかに異なる器官が嫌でも目に付く。頭部から天を穿つようにそびえる二つの角。背中から肩越しに見える、二枚からなる蝙蝠を思わせる翼。地球で言うならば悪魔のような外見の生物。これがレイルッカの二大種族の一つエンデだ。
「おい、その乗り物と恰好……シンマのやつか?」
4体の巨躯の間からもう一人現れる。その姿はほぼ地球の人間のように見えるが、頭部からは角と腰部からはトカゲのような尻尾が垂れ下がっている。俺が抱きかかえている男よりも若い。少年のようだ。
シンマ、確かもう一つの種族で外骨格に身を包んだ知的生物。こちらも会話が可能な種族だ。この二種族は数千年前から争っている。俺は車でシンマの都市へ向かっていた。
「いや、シンマじゃない。これは宇宙服だ。ここの重力と大気組成は俺にきつ過ぎる」
両腕をゆっくり上げ、敵意がないことを示す。これがこの星のルールかは知らんが。
「確かにそのずんぐりした体は戦いに不向きだが、シンマの領域に向かっていたな。ということは関係者だろう?」
少年は瞳孔をトカゲのように開き、牙と爪を剥く。一瞬伸びたように錯覚する。
不味いぞこの雰囲気。無視してさっさと逃げりゃよかったかも。
「そいつは関係ない」
先ほどまで伏せていた男が消え、少年の背後から声が響く。同時に四体の巨躯が崩れ落ちる。大きな音を立て倒れた体は、切断され血の海が広がる。
太陽を背に腕から生えた刃を振る。大地へ振るわれた血が染み込む。
ざっ
一歩前へ。
「狙いは俺だろう? エル」
少年はぶるぶる震え、恐怖からではない怒りの声を上げる。
「カル=ス! 本当に、本当に俺たちを裏切ったんですか! あんたほどのお人が!」
「いつまでたっても素人だなお前は。さっさと戦え。 いやもういい」
カル=スと呼ばれた青年は一瞬にして、少年エルの懐に飛び込み腹部に拳を当てる。鈍い音と共に体が宙に浮かぶ。さらに後頭部に両手を握りしめた打撃を加える。
「え、えげつねぇ」
宇宙服の彼は思わず漏らした。知り合いのようだったが容赦ない苛烈な攻撃。
「その乗り物は動くのか?」
悶絶する少年をしり目に、こちらへ歩き出す。
「え、あ、ああ。問題ないが……ってアンタ乗るつもりなのか?」
「そうだ、シンマのところまで連れていけ」
「はぁ!? 何で!?」
カルの腕から音もなく刃が現れる。そしてそれは宇宙服の彼ののど元に迫っていた。
「はぁーい、どうぞこちらですぅ」
車の後部座席を開き両手で迎えるポーズをとる。
『情けないですね』
「うるせい」
社内からやけに響く女のような声がする。
「だれかいるのか」
「いやお気にせず」
カルは本当に気にせず、ふてぶてしく後部座席へ深く腰掛けた。